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Part 04 導く白、導かれる紅

「雪姫ー、朝飯だぞ……雪姫!?」

 鍛錬を終えたベルは朝食の手伝いを終え、雪姫を起こしに行った。

「……駄目……! 無白花(むじか)ちゃん……! 斬無斗(ぜむと)くん……逃げてぇっ……!」

 しかし雪姫は悪夢を見ているのか酷くうなされていた。必死に知り合いらしき者の名を叫びながら、雪姫はうなされていた。

「雪姫!」

 ベルは慌てて側にあったタオルを掴み、雪姫の側へ近付く。

「雪姫、大丈夫か? しっかりしろ」

 声をかけながら、顔や額の汗を拭いてやる。しかし雪姫は相変わらず酷くうなされている。

「雪姫、しっかりするんだ」

 ベルは彼女を励ますように、そっと手を握った。しばらくすると、雪姫の唸り声が幾分か楽になっていくのがわかった。

 ベルはふうと一息つき、今彼女を起こしても食事はできないなと判断せざるを得なかった。

「雪姫……」

 ベルは立ち上がり、しばらく雪姫を見つめていたが、やがて溜息をつくと部屋を後にした。




「ベルちゃん、ユキさんは?」

 朝食の席で、葉子が心配そうにベルへ尋ねた。ベルは首を横に振り、

「……酷くうなされている。今起こしても、食事は喉を通らないだろう。せめて、後で水だけでも飲ませるよ」

「大丈夫かよ、ユキの奴。日に日にやつれていってるぞ」

 鷹槍がそわそわしながら呟く。そこでベルはある事に気が付いた。

「そういえば鷹槍、賀川はどうした?」

「あいつなら、飯は後で食うから、今はしばらく一人にしてくれってさ。何か色々思う所があったんだろうよ」

 そう言って、口元に軽い笑みを浮かべた。

「……そうか」

 それを聞いたベルも、軽く笑った。そして、残っていたご飯を食べ終えると立ち上がった。

「さて、ごちそうさま。二人とも、すまないがちょっと外で電話してくるよ」

 それを聞いた葉子は首を傾げた。

「あら、電話ならここでして大丈夫よ?」

「ちょっと積もる話なのでな。ここでは話しにくいんだ。すまないな」

 そして、鷹槍にも「雪姫の事ではない」と目配せをした所、鷹槍はわずかに頷いた。




 ベルは前田家から出た後しばらく歩いて、人気のない通りへやってきた。

 彼女は服のポケットからmakaiPhoneを取り出し、電話をかけた。しばらくすると、

『へい毎度、こちらクソゲー専門店。ご予約ですか~?』

 と、通話口の向こうから聞いた人間の九割が「ウザい」と答えるであろう少女の声が聞こえてきた。だがベルはそれに構わず話を切り出した。

「ルーシー、お前は呪いについて詳しかったよな?」

『うわ、スルーかよノリの悪い。というかどうした? 藪から棒に。丑の刻参りでもするつもりか?』

「……ルーシー、今日のベルはお前のジョークに付き合ってやっている暇はない。ふざけているなら切るぞ」

 ベルが声を低くし、怒気を込めて言うと、通話口の向こうでルーシーが押し黙ったのがわかった。ややあって、

『……すまなかった。それで、呪いの何について聞きたいんだ?』

「ああ。実は……」

 ベルは雪姫の首筋にあった傷、そこからにじみ出ていたどす黒い瘴気とその波長、傷をつけられた経緯を話した。

『……なるほどな。大体わかった』

 しばらくして、話を聞き終えたルーシーの声が響いた。

『ベル、それはかなり厄介だぞ。その子には二つもの呪いがかけられている。一つは対象者をネガティブにさせる呪い、もう一つは徐々に生命力を奪う呪いだ』

「ネガティブにさせる呪いに、徐々に生命力を奪う呪いだと?」

 ベルが聞き返すと、ルーシーはそうだと答えた。

『ああ。まずはネガティブの呪いで精神の壁を脆くし、さらにそこへ生命力を奪う呪いで追い打ちをかける……呪いって奴は精神力の強さが防壁になるが、それを崩されちゃひとたまりもない』

「……ルーシー、大まかな予想でいい。いつまで保つ?」

『しばらくは保つよ。だが、付け加えて言うならその子の精神力次第で呪いが命を食い尽くす時間を引き延ばす事はできるが、手を打たないといずれ呪いに負けるだろう』

「何故、しばらく保つと言い切れる?」

『その手の呪いはすぐに命を奪うものではなく、長期に渡って苦しめるのが目的だ。だから進行はゆっくりとしたもので、すぐには進まない。つまり、解呪の時間は十分にあるという事だ。ただし、悪意や瘴気といった悪いモノに晒したり、そういったのが渦巻く場所には連れていくな。それに刺激されて呪いが急速に進んでしまうぞ』

「わかった。肝に銘じよう。で、どうすればその呪いを解く事ができる?」

『やはり私のような呪いに精通している者が解呪を行うべきだが、生憎私は身動きが取れない。だが、呪いに詳しくないお前でも解ける方法はあるぞ。呪いって奴は基本的に術者を殺せば解けるものだ。そいつを見つけだして、るしかないな』

「……そう、か」

 低い声で答えたベルの胸中には、昏い炎がくすぶりだしていた。すると、そこへルーシーがクスリと笑う声が聞こえた。

「……何だ?」

『……しかし、私が言うのも何だが、お前、本当に変わったな。以前私と再会した時は絶対にそんな事は言わなかっただろうな。何て言うか、誰かのために何かをしようとしている……それも、打算も何もなく、な?』

「……そう、見えるか?」

 意外そうな声を上げるベルにルーシーはからからと笑った。

『ああ。前は全てを焼き尽くす死の炎だったのが、今は暖炉で燃える、その周りにいる者を暖める優しい炎だ』

 その言葉にベルはしばらく押し黙っていたが、やがて柔らかな口調で、

「…………ベルも、そう思う」

 と、答えた。

「……そうだ、みんなは元気にしてるか?」

『元気も元気、相変わらずさ。今統哉は買い物に出てるけど、他のみんなに代わろうか?』

「いや、大丈夫だ。みんなにはよろしく伝えてくれ」

『そうか、わかったよ。ベル……』

「何だ?」

『頑張れよ』

「……ああ。ありがとう、ルーシー。そっちも頑張れよ。じゃあ、また」

 力強い口調で別れを告げ、ベルは電話を切った。

「……変わった、か。まあ、悪くない感覚だ」

 ベルは一人クスリと笑い、歩きだした。




 それから、ベルは前田家へと戻り、すぐに離れへ向かった。雪姫の様子を見るためだ。

 本当なら降魔の書を探しに行きたい所だったが、悪夢にうなされる雪姫の姿を見ていると、とても行く気にはなれなかった。

 そうして、雪姫の様子を見る事数時間。時刻は昼を回っていた。

「う、ううん……」

「大丈夫か? 雪姫」

 ベルの声に、雪姫がゆっくりと目を開けた。

「酷くうなされていたぞ」

「ベ……さ、ま……?」

 ベルが声をかけるも、雪姫は目の焦点が合っておらず、意識も朦朧としているようだった。

「雪姫、雪姫……大丈夫なのか?」

 ベルがなおも声をかける。すると、雪姫は突然目を見開き、


「べる、貴女は今日、この家の近くにある公園に行くと良いわ」


 と、はっきりした口調で言った。

「……雪姫? 今のは一体……雪姫?」

 突然の出来事にベルは面食らっていたが、すぐに雪姫に呼びかけた。しかし雪姫は再び深い眠りに落ちてしまったようだ。

「……何だったんだろうか、今のは」

 まるで狐につままれたような気分で首を傾げるベル。

「……とりあえず、腹ごしらえをしてから動くか」

 そう呟き、ベルは部屋を後にした。だが彼女の頭には先程の雪姫の言葉がずっと引っかかっていた。




 それからベルは昼食をすませ、葉子から近くの公園の場所を聞き出し、そこへ向かった。

 そこは、程々の規模の公園で、木や芝生が植えられている、一休みするには絶好の場所だった。

「……ここがその公園か。まさかここに降魔の書が落ちているのか? まあ、あったらあったでそれに越した事はないが……それにしても、さっきの雪姫の様子は一体……?」

 一人ごちつつ、ベルは公園の中へ足を踏み入れた。

「見た所、普通の公園のようだが……」

 周囲を見渡しながらベルが公園の中央に歩を進めた時だった。

「……ん?」

 ベルが持つ堕天使の感覚に一瞬、何かが引っかかった。

「……何だ、今のは?」

 ベルは眉をひそめ、意識を集中させた。すかさず公園全体に思念の波をソナーのように放ち、先程感じた「何か」の正体を探る。

 すると、また一瞬彼女の感覚に反応があった。それは、ごく微弱な魔力の波動だった。

「……あっちか」

 ベルが睨んだ先には、多くの植え込みがあり、見通しの悪い場所だった。

 ベルは気配を殺し、そっと気配の出所へ近付いていく。

(――鬼が出るか、蛇が出るか……)

 頭の中で軽口を叩きつつ、ベルの掌は緊張感で知らず知らずの内に汗ばんでいた。そして、いつでも戦闘に移れるよう態勢を整えておく。

 そして、そっと植え込みを覗き込むと、そこには信じられないものがあった。

「……アシイィ??」

 思わず、ベルはそれを指さして間抜けな声を上げてしまった。

 ベルの言う通り、その視線の先にあった垣根から、「人間の足」が生えていた。

 ベルがよく見ると、それはどうやら斜め四五度の角度で垣根に頭から突っ込み、うつ伏せの状態で気絶している人間のようだった。

(――違う)

 だが、ベルは直感した。この者は人外であると。

 先程の波動は紛れもなくこの者から放たれており、今も微弱ながらその波動を放っている。

「…………よし」

 ベルは一瞬躊躇ったが、意を決して足を掴み、一気に「それ」を引っぱり出した。

 すると、全身を枝葉に彩られた「それ」の全容が明らかになった。

 その背丈は一六〇センチくらいで、長く、艶やかな黒髪を橙色のリボンでポニーテールにまとめていた。しかし側頭部の髪の毛はやけに長く、そしてどこか犬の耳のようにも見える。

 服装は半袖シャツの上に黒の半袖ジャケット、そして黒のジーンズに履き古したスニーカーという出で立ち、そして首にはチェーンに繋がれた三つのドッグダグがさがり、金属同士が擦れ合う音を立てた。

 そして、その側にはかなり大きいバックパックが転がっていた。

 そして、体を仰向けにひっくり返してみると可愛らしい顔立ちの少女だった。見た感じはヨーロッパ系と日本人のハーフで、日本人寄りの顔立ちをしている。どうやら彼女は何かしらの理由で気を失っているらしく、目を覚ます気配はない。

「嘘だろう……どうしてお前がここに」

 だが、ベルはその顔に見覚えがあった。いや、ありすぎていた。彼女は驚きを隠せなかった。


「――ナベリウス」


 ベルの口は自然にその名を呟いていた。

桜月りま様 うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話より ユキちゃん(?)、葉子さん、タカさんを、

銀月 妃羅様 うろな町 思議ノ石碑より 名前だけですが無白花ちゃん、斬無斗くん、お借りしております。

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