お兄ちゃん、ゲームやらない? パート2
……あれ?
なんだろう、なんか、いい匂いがする。
甘い、ふわっとした、でも、どこか懐かしいような、昔……いやつい最近も、どこかで嗅いだことがあるような。
「ん……」
嗅覚より少し遅れて、覚醒した視覚がとらえた、目の前のものに、目覚めかけの俺の思考は一気に覚醒し、同時に処理の限界を超えてフリーズした。
「え、あ……え……!」
ようやく処理が追い付きし状況がのみ込めたその時
「……あ、れ……お兄……ちゃん?」
目の前で瞼が開き、現れた綺麗な瞳に、自分の呆けた顔が写るほどの至近距離で見つめられ、俺の思考は完全にオーバーヒートした。
「わああぁぁぁぁっ!!」
「きゃあっ!!」
突然跳ね起きた俺に驚いたのか、短い悲鳴をあげたみおりは
「もう、びっくりさせないでよ……」
と、呟きながら、けだるそうにゆっくりと起き上がり、んー、とひとつ伸びをした。
「わ、悪い……」
そういえば、昨日はみおりの部屋で寝落ちしてしまったな。と、ぼんやり思い出す。
昨日は、みおりと優希が喧嘩しまくったせいで、ゲームの進行が遅れてしまい、夜中までやっていたのだが、結局二人とも寝てしまったようだ。
「お兄ちゃん、私、顔洗ってくるね」
「ああ、わかった」
時計を見ると、6時だった。寝たのが3時くらいだったと思うから、普通なら寝不足なはずなのだが。
「すっかり目、覚めちゃったよ……」
気を紛らわすため、コントローラーを拾うと、途中だった、道具補充を再開した。
結局、今日も1日やったが終わらず、日付が変わってしまった。
それでも、なんとかラスボスのもとまでたどり着いた俺たちは、ついにラスボスを撃破したのだ。
「やったぁー!! 倒した、倒したよお兄ちゃん!!」
「ああ、ついに、ついにやった……!」
俺も達成感で一杯だった。優希の乱入やら、妹の部屋での寝落ちやら、いろいろあったが、総合的には楽しかったと思う。
「ありがとうな、みおり、なんだかんだ、けっこう楽しかった」
「ふふっ、どういたしまして。今度はもっと時間のある時やろうね?」
「そうだな、できれば夏休みとかにしてくれ……」
テスト週間は確実に避けて欲しいな、今回みたいなのは本当にきついから。
エンディングが始まり、スタッフロールが流れる。
「ふー、終わったねー」
「ああ、終わったなー」
エンディングも終わり、達成感に高揚していた気分も下がると、急に眠気が襲ってきた。
「ふあぁ、みおり、俺寝るわ……」
コントローラーを片付けようとすると、みおりに袖を掴まれた。
「……みおり?」
「お兄ちゃん、あれ……」
みおり促されるまま、エンディングが終わったはずの画面を見ると
「これって……」
「うん、好感度の特別イベントだと思う」
まさか、エンディングの後にあるとは……。
昨日は優希がいたから、好感度の選択肢はミオリとユウキを交互に選んでいた。
しかし、今日は優希がいなかったので、選択肢はすべてミオリを選んだ。当然、好感度が高いのはミオリなわけで、つまり、これからおきる好感度イベントは、ミオリとのエンディングなわけで。
「み、みおり! これ、見るのやめない……?」
「だめだよお兄ちゃん、最後まで見なきゃ」
「で、でもこれはちょっと……」
まずいって、完全にラブシーンだから、告白して、抱き合っちゃってるから!!
気まずい俺の心境とは裏腹に、画面の中の二人はどんどんいい雰囲気に。名前がいっしょだから、なおさらつらい。
そして、とうとう二人はお互いの名前を呼びながら、顔を近づけ――
「………………」
「………………」
気まずい、めちゃめちゃ気まずい。
だから、なんで名前を同じにしたんだよ、いやでも重ねて見ちゃうだろ……。
「お兄ちゃん……」
「な、なに……?」
気まずいまま、みおりを見ると、暗い部屋でテレビの光に照らされた顔の頬を赤くしたみおりが、恥ずかしそうに笑いながら呟いた。
「キス……しちゃったね……」
ち、ちょっと待って! なんで俺らがしたみたいになってんの!? てか、そんな顔でそんなこと言うなよ! なんか、変な気分になっちゃうだろ!?
と、とにかく、話題を変えないと。
「ゲ、ゲームのキャラがな!! 俺、眠いから寝るわ、おやすみ!」
みおりの返事を待たず、俺はみおりの部屋を飛び出した。
自分の部屋に駆け込み、ベッドに飛び込む。
結局、逃げてきちゃったじゃん、俺。
布団を頭から被って寝ようと努めるが、さっきまでの眠気など、何処かへいってしまった。
「なんで俺が、こんなに動揺しなきゃなんないんだよ……」
その後、なかなか寝付けなかったのは言うまでもない。




