第四話 見えないくらいでちょうどいい
私は器零を書くとき、決まって過去の話を読み返す。
意味の通らない、変な表現の箇所を直すため、というわけでもない。いや、決してそんなことはない。たぶん。
ただ、読み返しているうちに、思いがけないところで手が止まることがある。
今回も、そうだった。
ひよりの表情を描いた一節で、ふと引っかかる。
あのとき彼女は、何かを隠すように、わずかに視線を逸らしていた。
その様子を追っていくうちに、炉の実験機というものが、
人の心を映す鏡のようなものに思えてきた。
もっとも、それがどこまで映しているのかは、よく分からない。
ただ、少なくとも、実験の結果だけではなさそうだ。
どうやら、それは実験とは無関係のものでもないらしい。
ひよりの心が、まるで鏡に映されたように露わになる。
隠していたものを不意に覗かれたように、彼女は少しだけ恥ずかしそうな表情を見せた。
その一瞬、彼女の意識は、ここにはないどこかへ触れていたように見える。
実験とは関係のない何かが、そこに入り込んでいたのかもしれない。
人の心というのは、案外そういうものなのだろう。
本来向き合うべきものの最中でさえ、別の何かがふと顔を出す。
炉の実験機は、それをただ映してしまうだけだ。
まるで、余計なものまで拾い上げてしまう鏡のように。
もっとも、そこまで分かってしまうというのも、少しばかり味気ない。
相手が今どんな感情を抱いているのか。
それが最初から分かってしまうよりも、
言葉や仕草、ふとした目の動きの中から、
少しずつ読み取っていく方が、よほど自然で、よほど大事なことのように思える。
そうしてようやく輪郭が浮かび上がるからこそ、
そこに意味が生まれるのではないだろうか。
感情をエネルギーに変えるという発想そのものは否定しないにしても、
心がそのまま読めてしまうというのは、やはり少し、もったいない気がしてならない。
そして、またしても!?
このエッセイを読んでくださっている方がいることに、感謝しています。
ここは、私の頭の中を整理していくための場所でもあります。
取り留めのない思考が、そのまま並んでいるだけなのです。
それでもなお、そうしたものごと受け止めてくださっていることに、
あらためて感謝したいと思います。




