第7話 魔族VS牛乳
小鳥の呟きに俺と石使い女は同時に目を見開いた。
異能を授かった日、夢の中に出てきた舞奈は魔族が襲撃してくると言っていた。
でも、それって1年後の3月って言っていなかったか?
あの夢の日からまだ9ヶ月しか経っていないのに!
「ふ……ふふ……!」
石使いの女が不気味に笑っている。
コイツはコイツで普通に不気味だった。
「おい。石使い女。なに笑っているんだよ。怖くないのか?」
「誰が石使い女ですか! 葉子っていうれっきとした名前がございますわ!」
「じゃあ葉子! 今笑っていたよな? アレに勝てる自信があるってことでいいのか?」
「何名前を呼び捨てにしているのですか! 苗字+さん付けで呼びなさい!」
「だったら苗字名乗って!?」
こいつ、ずいぶん余裕あるな。
俺ら化け物に——魔族に襲われているんだぞ。
恐怖とか感じないのだろうか。
「二人とも! 来るよ!」
魔族は俺らを標的に定めたようだ。
まっすぐにこっちに向かって駆けてくる。
イノシシのような速さで、まっすぐ俺たち3人に突っ込んできた。
って、あれ? 今一瞬動きが遅くなったような気が……
俺は小鳥を抱きかかえ、左方へ跳躍して距離をとる。
葉子は——
「ふっ……」
片足だけのステップで敵の突進をあっさり回避する。
こいつはずいぶんと自分の実力に自信を持っているみたいだった。
葉子が居ればこの場は何とかできるかも……!
そう思った矢先、葉子は両目を瞑ったまま、その場にペタンと座り込む。
「こ、こここ、腰が抜けましたわ!」
「「さっきまでの余裕は!?」」
なんなんだアイツは。
自信たっぷりに迎撃態勢を取ったかと思えば敵の突進にビビッてへたり込んだりして。
実はめちゃくちゃビビりなんじゃねーか。
「くそっ! 小鳥! さっきの防御壁で葉子を守ってやってくれ!」
「えっ!? に、兄さんは!?」
「俺は何とか奴を引き付けてみる!」
とは言ってみたものの、俺に何ができる?
あんな風に動き回る相手にどうやって牛乳をぶつければいい?
「ていうか牛乳をぶつけて何か意味があるのだろうか?」
俺の牛乳異能はヒーラーだ。
殺傷能力は皆無に等しい。
攻撃に利用できるとすればさっき葉子にやったように顔に牛乳を浴びせて目くらましをさせるだけか。
「……いや、待てよ?」
俺の牛乳異能は様々な性質に変えることができる。
味、濃度、温度、量。
やり方次第では恐ろしい殺傷能力が生まれるかもしれない。
だけどいくら相手が魔族といえどそれを実行するのは勇気がいる。
——人にやったら殺してしまうかもしれないようなことだから。
「に、にいさん!」
小鳥の声にハッとするように現実に引き戻される。
魔族がまっすぐこちらに突進を仕掛けてきていた。
考え事なんてしている場合じゃない。俺たちは今、命の危機なんだ。
「うりゃ!!」
俺は魔族の足元に大量の牛乳をぶちまける。
だが、敵は足の速い魔族。俺の異能なんて簡単に避けられてしまう。
でも、これは俺の想定内。
「……! くぅ~ん」
地面にぶちまけられた牛乳は敵の足元に付着する。
魔族は犬みたいな声を出して自分の足に付いた牛乳を舐めだした。
ふふふ。飲め飲め。その牛乳は北の大地の牛さんにも負けない美味しさだぞ。
「おりゃ! おかわりやるぞ!」
魔族の足元に再度牛乳を落とす。
尻尾を振ってそれを舐めとる魔族。
「小鳥……さん? 貴方のお兄さんは何をやっているんですの?」
「わ、わかんない……」
小鳥と葉子が怪訝そうに俺を見る。
「もしかして兄さんは美味しい牛乳を与えてあの子を懐柔しているのかも」
「マジですの!?」
違うよ?
俺がやろうとしているのはそんな生易しいことじゃない。
「おりゃ! もっともっと飲め!」
蛇口を強く捻るように、更に勢いを増して牛乳を出し続ける。
直接魔族の口を狙って相手の腹に流し込むように牛乳を与え続けた。
「わ……わふぅっ!」
飲み過ぎると当然息が苦しくなってしまう。
やがて魔族は顔をそらし出し、牛乳を嫌がるようになっていた。
「まだまだ! 俺の牛乳が飲めないっていうのか!?」
魔族が顔を右にそらしたら俺も右方から牛乳を出現させて口に流し込む。
左を向いたら左から、上を向いたら上から、下を向いても下から牛乳を噴出させ、奴は俺の牛乳を永遠に飲み続けることになっている。
「ぶぐ……! ぶくぶくぶくぶく……」
牛乳を飲み過ぎた魔族はお腹が膨れ上がり、鼻と目から牛乳があふれ出してしまっている。
その状態が3分くらい続いただろうか。
「…………」
黒目がなくなり白目だけが顔に浮かぶ。
顔も尻尾も足も身体も牛乳まみれとなった魔族は——
バタッ
永遠に牛乳を与え続けられるという地獄に耐え切れずその場にバタッと倒れた。
牛乳窒息。
さすがにもう動けないだろうと察した俺は牛乳異能を止めて解放してやる。
「牛乳を飲むときは容量を守って召し上がりくださいってね」
意味の分からない決めセリフと共に俺は小鳥達ににこやかな笑顔を向け勝利のブイサインを送った。
「「…………」」
だけどなぜか二人は引きつった表情で俺を眺めているのであった。




