第2話 果てしない栄養素を持つ飲料 それが牛乳
「兄さん……朝ごはん出来てるって」
「あ、ああ」
双子の妹の小鳥が部屋をノックだけして要件を伝える。
素っ気ない兄妹のやり取り。
思春期の兄妹のやり取りとしては普通なのかもしれない。それが自然なのかもしれない。
それでも距離感が出来てしまったことはさみしかった。
この距離感は2年前からできていた。
舞奈が行方不明になったあの日からだ。
舞奈が死んだと思い俺たち兄妹は塞ぎこんだ。
ずっと一緒に遊んでいた幼馴染が突然居なくなったショック。
そのショックは俺たちの関係を引き裂いてしまっていた。
「さて……」
俺は手のひらから白い液体を放出し、タンブラーに牛乳を貯める。
それを一気に飲み干す。
「ぷはぁ!」
約2ヶ月前、俺は牛乳を放出する異能に目覚めた。
目覚めた……っていうよりは『与えられた』といった方が正確か。
こんな変な能力にも何か使い道はあるはずだ、そう信じて俺は無から牛乳を生み出す鍛錬ばかりしていた。
特訓の甲斐あり、5メートルくらいであれば離れた箇所からも牛乳を生み出すことができるようになっていた。
「だから何って話だよなぁ……」
遠くから牛乳を生み出せるからなんだというのだ。
牛乳専門の手品師にでもなれというのだろうか。
「はぁ……」
なんで夢の中で舞奈は俺に牛乳属性を預けたのか。
特訓していてむなしくなることが多くなっていた。
授かったのが土や風だったら喜んで夜遅くまで特訓に励むのになぁ。
「そういえば、他の属性を授かった奴ってどんな人なんだろう」
たぶん舞奈に近しい人が授かったはずだ。
もしかしたらその中に小鳥も含まれているのかもしれない。
こんなギクシャクした俺と小鳥を見たらきっと舞奈は悲しんでしまうよな。
——『バイバイみんな。いつまでもみんな仲良くね』
「そろそろ仲の良い兄弟に戻れってことか」
わかったよ舞奈。
まずは小鳥と元通りの関係を築くように頑張ってみよう。
「ぜぇぜぇぜぇぜぇ……」
今日の体育は持久走だった。
校舎の外周を5周したら終わることができるという何とも意味のない作業をやらされている。
1周1キロくらいだっけ? 5キロなんて人間に走らせる距離じゃないよ絶対。
俺は3週走った時点で息が絶え絶えになっていた。
喉がカラカラになっている。
途中水分補給することは許されているが、水飲み場まで行くのはだるい。
「……やるか?」
俺には——俺にだけはどこにいても水分補給する術がある。
周りに誰もいないことを確認すると俺はこっそり口元に白色の球体を生み出した。
それをパクッと食べるように喉に通す。
これぞ俺が特訓の末に生み出した固形の球体牛乳だ。
少し噛めばそれは液体へと戻る。
これなら液体を床にこぼすこともないし、口元に牛乳髭を作ることもないのだ。
……俺、変な技ばかり増えているなぁ。
「……ん?」
球体牛乳を飲み込んだ瞬間、身体が軽くなるような感覚に見舞われた。
あんなに疲れ切っていたのに、瞬時に息が整って疲労が消え失せている。
「……まさか!」
試しにもう一つ球体牛乳を生み出し、飲み込んでみる。
「……!!」
もっと身体が軽くなった。
これは間違いない。
「体力が……回復されている?」
牛乳には疲労回復に役立つ栄養素が豊富に含まれていると聞く。
それに運動と共に牛乳を飲むと筋肉の成長を助ける作用があるという。
異能で生み出した牛乳は、それらの栄養素が多く含まれているのではないか?
……いや、そういう話ではないのかもしれない。
これはもしかしたら……
「牛乳属性って……もしかしてヒーラーなんじゃないか?」
いくら牛乳の栄養価がすごいと言っても、ここまで即効性があるのは異常だ。
魔力的な作用が働いていると考えるべきかもしれない。
そうか! 牛乳属性は外れ属性ではなかったんだ。
むしろ、なくてはならない存在ではないか!?
「…………」
でもなぁ。
ヒーラーよりもアタッカーの方がよかったなぁなんて思うのは贅沢なのかなぁ。
だって仕方ないじゃないじゃん。男の子なんだもの。




