第18話 想像より過酷だった異世界
「えっとね。今まで皆が戦ってきた魔族って実は私の召喚獣だったんだ」
淡々と衝撃内容を暴露する舞奈。
「だからね、この姿も召喚獣の形を変えて模しているだけだから私の実体ってわけじゃないの」
舞奈の形で、舞奈の声でしゃべっているこの姿も所詮は紛い物。
「えー、コホン、だからね、来海くん」
一つ、咳払いして舞奈はなぜか俺を名指しで指摘する。
「そろそろ離れてくれると嬉しい……かな」
「うわぁぁぁん! 舞奈ぁぁぁぁぁぁっ!!」
「……駄目だこりゃ。来海くん、こんなに泣き虫さんだったかなぁ?」
舞奈——もとい人型召喚獣が優しく背中を撫でながら困ったような声を向ける。
召喚獣を通して舞奈の困り顔も見えたような気がした。
「例え、偽りの姿でも舞奈さんとの再会が嬉しいということですわ。ていうか来海がその場所を占拠していなければ私があなたの胸の中で大泣きしていましたわよ」
「葉子ちゃんもなの!?」
『二人ともそんな泣き虫な印象なかったのになぁ』と彼女は頬をポリポリ掻いた。
「……ねぇ舞奈ちゃん。もしかしてその姿ならずっとこっちに居られるの?」
「あー、ごめんね小鳥ちゃん。たぶんそれは無理なんだ。世界を隔てて召喚をするってことは結構大変なことでね。すっごい勢いで魔力が削られているの。たぶんあと10分ももたないかな」
「そんな……」
「うわぁぁ! 舞奈が10分後に消えちゃうぅぅ!」
俺はより強く舞奈を抱きしめる。
1秒でも多く彼女のぬくもりを味わいたかったから。
「よしよし。消える直前までこうして抱きしめ続けてあげるから。キミは頑張って泣き止んでみせろっ」
「ぐす……ぐす……!」
「こんな来海初めてみましたわ。なんていうか……普段頼もしい印象だけにギャップが物凄いですわね」
「……うん。兄さん、可愛い」
例え召喚獣でも抱きしめてもらえる感触は本物だ。
舞奈の温もり、舞奈の香り、舞奈の優しさ、それらは偽りだと思えない。
「兄さんがこんなだから私が聞くね。聞きたいこと、いっぱいあるから」
「うん。なんでも聞いて。この姿が消えちゃうまではなんでも答えるから」
きっと小鳥だって舞奈に抱きしめてもらいたいに違いないのに妹はこの場所を俺に譲ってくれている。
だらしない兄ですまない。
「まず、どうして舞奈ちゃんは私達に召喚獣と戦わせたの? それに魔族が襲ってくるのは1年後って聞いていたのにそれが早まったのはどうして?」
いきなり核心をついてくる小鳥。
「おぉう。質問が一気に二つ飛んできたね。んと、まず二つ目の質問だけど、魔族襲来が早まったのは皆のせいだよ。ていうか主に葉子ちゃんのせいだね」
「わ、私ですの!?」
「そうだよ! 小鳥ちゃんに戦いを挑んで大技放とうとしたり、来海くんの異能治癒を試すためにわざと怪我をしようとしたり、ゴーレムの頭を転がして轢こうとしたり! キミが危ないことばかりするから召喚獣を使って助けるしかなかったんだよ!!」
「ご、ごめんなさいですわ!」
やっぱりそうだったのか。
舞奈は常に俺たちのことを見てくれた。
だからこそ俺達が危機の時に召喚獣で助けてくれていたのだ。
「私が助けなかったら本当に危なかったんだからね! 葉子ちゃん反省!」
「は、はいですわ! 反省ですわ!」
サルの躾みたいに『反省』のポーズを取らされる葉子。
舞奈って葉子の前だと結構強気なキャラなんだな。意外な一面を見た気がする。
「それで、どうして召喚獣と戦わせたって質問だけど……ね。これは私のわがままなの」
「わがまま?」
小首を傾げる小鳥。
「私、異世界に行った後、友達が出来なかったんだ。一応仲間はできたけど一時的な臨時パーティって感じで……。異世界は本物の魔族が蔓延る世界でさ。とにかく生きるのに必死だったんだ」
今、舞奈が居る世界は想像以上に過酷な世界だったようだ。
ファンタジー世界であることは間違いないみたいだけど、俺が思い描いたドキドキワクワクな世界ではなかったらしい
「私は生きる為に強くなった。冒険者になって、世界の平和の為に戦った。その為に……たくさん命を奪ったりもした」
「そんな……」
「……人だって……殺したよ? 悪い人限定だけど。でも例え悪人でも人殺しには変わらない。私の手は……もう汚れてる……」
小さく身体が震える舞奈。
俺は力強く抱きしめてその震えを止めさせようとした。
しかし、舞奈の身体の震えは止まらない。
「ふと、私って何しているんだろうって思った。帰りたかった。こんな汚れた私だけど……元の世界に戻って、来海くんと、小鳥ちゃんと、葉子ちゃんと! またみんなと遊びたかった! 魔族の脅威もない世界で! ただただ楽しかったあの時に戻りたかった!!」
「……舞奈っ!」
そんな過酷な世界で……舞奈はずっと一人だったんだ。
舞奈の傍にいてやれない自分を呪った。
どう声をかければ良いのかわからない自分の無能が腹立たしかった。
舞奈の震えを止めることができないのに何が幼馴染だよ!と自分を強く呪った。
零れ落ちる涙は更に強くなっていた。
「私の為に泣いてくれてありがとう。だけどもう大丈夫。私はね、もう戦わなくてもよくなったんだ。詳しくは言えないけど、私は解放された。だからまたみんなと遊ぶことを強く願った」
『もう戦わなくてもよくなった』
なぜかその言葉が引っかかった。
舞奈は言葉を続ける。
「私が転移した理由は、王国が魔族と戦わせる兵器としての召喚した為だったの。でもそれは一方通行で私自身が元の世界に戻ることはかなわなかった。だけど逆にこちらからそっちに召喚獣を呼び出すことは可能だった」
召喚により異世界転移した舞奈。
ならば同じように向こうからこっちに召喚を行うことは可能なのではないか。
舞奈はそう考えた。
結果、それは可能だったというわけだ。
「夢の中に出てきた私も私の姿を模した召喚獣だよ。私が手にした力を皆にも分け与えてあげたかったから私は召喚獣を使って自分の力を皆に与えたの」
「異能を与えてもらったのはいいけど、それがどうして舞奈ちゃんの召喚獣と戦うことに繋がるの?」
「……私ね、来海くんが作ってくれたファンタジー物語が大好きなの。あんな風にみんなで力を合わせて魔の者と戦ってみたかった。そういう夢みたいな物語を現実にして、みんなと遊びたかっただけなんだ」
舞奈はただ俺達と遊びたかっただけだった。
昔俺が語ったファンタジー物語が忘れられなくて召喚獣を使ってそれを再現したのか。
「……だったら……舞奈ちゃんも……私達の仲間として戦ってよ……なに……敵として出てきているのよ……!」
「ごめんね。でも楽しかったよ? 私が与えた異能を使って3人が立ち向かってきてくれる。とてもワクワクした。特に来海くんは戦闘センスがあって戦っていて面白かった! すごいよ!」
舞奈が俺を褒めてくれる。
少しだけ嬉しかった。
『——来海くんはすごいね! こんな楽しい物語を作れちゃうなんて!』
俺は昔から舞奈に『すごい』と言ってもらうことが好きだった。
舞奈にすごいって言ってもらいたくて俺はいつも楽しい物語を作っていたっけ。
目を輝かせて俺の物語に夢中になってくれる舞奈をたくさん喜ばせてあげたかった。
そのためにいつも一生懸命になっていた。
当時はただ舞奈に喜んで欲しかっただけだと考えていたけれど……
それだけじゃなかった。
今だからこそわかる。
俺は——
舞奈のことが好きだったんだ。




