第17話 2年分の涙
今回の戦いは全員の力が合わさった勝利だ。
チームで勝てたという充実感が俺たちの結束を強めてくれた感じがする。
だけどそんな勝利の余韻に浸ることもせず、俺は魔族の近くへ歩みを進める。
「来海! そんなに近づいては危ないですわ!」
「そ、そうだよ兄さん! 魔族が起き上がったらどうするの!?」
いや、大丈夫だ。
大丈夫だと確信しているから俺は近づいたのだ。
魔族にどうしても聞きたいことがあったから。
「なぁ。魔族」
聞きたいことは山ほどある。
だけど先に言わなくてはいけないことがあった。
「いつも……ありがとうな」
「「えっ?」」
突然のお礼の言葉に小鳥達は驚愕の表情を浮かべる。
思えば“魔族”とかいう抽象的な存在がまず疑問だった。
なぜ俺達の世界にやってくるのか。
なぜ魔族との戦いの時は必ず俺達3人が揃っているときに起こるのか。
なぜ魔族は基本的に何もしてこないのか。
そして数ある疑問の中でこれが一番謎だった。
——なぜ俺達がピンチの時に魔族は現れてくれるのか。
俺たちは今までに3回魔族と遭遇した。
1回目は葉子が俺達に向かって攻撃を放とうとした時。
2回目は俺の牛乳属性の回復性の検証の為に、葉子がわざと怪我をしようとした時。
3回目はもげたゴーレムの頭が俺と小鳥の前に転がってきた時。
どれも命の危機だったと思う。
危ないっ! と思った瞬間、いつも魔族が現れて助けてくれた。
だから俺はこう推測した。
「ずっと……俺たちのことを見守っていてくれたんだな——」
ずっと見ていてくれたから
いつも助けてくれていた。
だから俺達はお礼を言わなければいけないのだ。
「——ありがとう。”舞奈”」
「「えっ!?」」
舞奈は俺達に異能を授けてくれた。
だけどそれは使い方を誤れば自らの命を落としかねない危険な力。
実際、俺たちは間違いかけていた。
過去3回、俺達は死にかけた。
それを遠くで見ていた舞奈が魔族を使って助けてくれていたのではないかと俺は推理した。
そして——
「——やーっぱり最初に気づいたのは来海くんだったかぁ」
その推理は間違っていなかったことがこの瞬間に証明された。
先ほどまで俺達が戦っていた魔族が目の前でウネウネと形を変えてゆく。
巨大な姿は一気に収縮し、人のような形となった。
真っ黒に塗りつぶされた姿は変わりなかったが、そのシルエットには少しだけ見覚えがある。
幼馴染を彷彿とさせる膝元くらいまで伸びるロングヘア—。
表情はわからないはずなのに、人型の魔族は俺を見て微笑んだように見えた。
「だ、だーれだ?」
おどけるように両手を広げてシルエットクイズを始める魔族。
「舞奈!」
「舞奈さんっ!」
「舞奈ちゃんっ!」
俺達3人は同時に人型魔族——舞奈に飛び込み、強く抱きしめる。
「おぉうっ!? み、みんな、せ、正解だよ」
舞奈は俺達全員を包み込むように優しく抱き返し、背中や頭を撫でてくれた。
「舞奈! 舞奈! まいなぁぁ!」
中でも俺は感情が抑えきれず、舞奈の胸の中で子供のようにワンワン泣き散らした。
「ちょ、ちょちょ、来海くん!? こらぁ。胸の中で顔をスリスリするなぁ」
「まいなぁぁぁぁぁっ!」
「……聞いちゃいないか。よしよし」
舞奈が居なくなってから2年ちょっと。
きっと生きていると信じて、いつか帰ってくると信じて、俺は涙を堪えていた。
だけどこの瞬間、寂しさや怒りや嬉しさが一気に押し寄せて、溜めていたものが全て溢れ出た。
小鳥や葉子の前であるにも関わらず、俺はみっともなく泣き散らす。
2年分溜めた涙はしばらく収まりそうになかった。




