第15話 最強技 × 牛乳の舞
異能の力を高めるには異能を繰り返し発動させるしかない……と思う。
そう思い、小鳥は風の壁を、俺は牛乳の塊を何度も何度も出し続ける。
だけど——
「……ぜんっぜん、強くなっている気がしない」
「……ね」
牛乳でびちゃびちゃになった河川敷を見つめながら悲壮感を漂わせる俺達兄妹。
強くなろうと決意してから約1週間。
俺と小鳥の秘密特訓はまったく成果を成し遂げていなかった。
「来海、小鳥さん。見ていて思ったのですが、既存の技はきっとこれ以上強くならないのではありませんか?」
「「えっ?」」
「実は私もそうですの。私の得意技の『ロックフォール』や『ストーンアロー』は最初からあの威力でしたわ。何度使っても威力が上がることはありませんでした」
最初からあの殺傷力って……
土属性だけ優遇され過ぎてない? ずるい。
「あの……前々から思っていたのだけど、どうして葉子さんは異能を放つとき技名を叫ぶの? そうすることで何か変わったりするの?」
「ふっ……私が技名を叫ぶ理由ですか」
言われてみればそうだった。
俺と小鳥は基本無言で異能を出現させているが、葉子だけは違う。
もしかしてそこに上達のヒントが——
「そんなの、格好いいからに決まっていますわ!」
「全然上達のヒントなかったっ!」
こいつも中々の中二病だなぁ。
この性格さえ治せばモテるだろうに……なんて残念な奴なんだ。
「でも技名を叫ぶことはありだと思いますわ。なんか二人はいつも自信なさげですもの。思いっきり格好つけて自信満々に放てば異能は応えてくれるかもしれませんわよ」
「そ、そうかなぁ」
やってみる価値……あるか?
めっちゃ恥ずかしいけど、現状行き詰っているし、試してみるか。
「……穿て! 牛乳の舞!」
びしゃびしゃびしゃ
いつもと変わらない多量の牛乳が地面に落ちる。
「やっぱりだめじゃねーか!」
「技名が駄目なのではありませんか!? なんですか! 牛乳の舞って!」
「俺の最強技さ。牛乳に回転を加え、美味しそうな渦を生み出して香りを広げる技だけど」
「なんで美味しさ重視なのですか!」
「じゃあ葉子の最強技を見せてみろよ! どっちがすごいか勝負だ!」
「なんで自信あるのか意味がわからないですが……でもいいですわよ。ワタクシの最強技を見て驚くがいいですわ」
言いながら葉子は俺達と距離を取って、両手を天に上げた。たぶんあのポーズに意味なんてないのだろう。
葉子の周囲の土が彼女の前に集結する。
集まった石が形を変え、徐々に人のような形へとなっていく。
人型の土人形の目が怪しく光り、葉子の最強技が完成した。
これは——
「これぞ、私の切り札! 『ゴーレム様召喚』ですわ~!」
お……うおおお……!
ファンタジーや。ファンタジーの塊や。
「す、すげええええ! ゴーレムじゃん! マジもんのゴーレムじゃん! ゲームでしかみたことなかったよ!」
「うわぁぁ。格好いいっ!」
俺と小鳥が目を輝かせながら葉子の生み出したゴーレムに釘付けになる。
葉子も誇らしげにふふんっと顎を反らしていた。
「な、なあ! あのゴーレムどんなことができるんだ!?」
「見せてさしあげますわ! ゴーレム様! あの岩を砕いてください!」
「ゴッ」
ゴーレムって『ゴッ』って鳴くんだ。それは解釈違いだ。
ゴーレムはゆっくりと……本当にゆっくりと歩みを進め、1分くらいかけて10メートル先の大岩にたどり着く。
そしてスローモーションのように腕を振り上げると、30秒くらいかけてゴツイ大腕を下した。
ゴォォォンッ!
ゴーレムのパンチによって岩は見事に砕け散る。
すごい威力の攻撃だ。
だけど——
「お、おっそ……」
「うるさいですわね! ゴーレム様は鈍足っていう弱点を補えるくらい素晴らしい攻撃力があるからいいのですわ!」
良くないと思う。
あんな鈍足攻撃、魔族どころか近所の子供でも簡単によけることができると思う。
なんて実践に向かない最強技なんだ。
「それにゴーレム様はとってもとっても固いのです! 来海、試しにゴーレムに攻撃してみてください」
「牛乳の舞!」
ビチャ ビチャ
ゴーレムの顔に牛乳が降りかかる。
「…………小鳥さん。試しにゴーレムに攻撃してみてもらえませんか?」
「わかった」
ごめんな妹よ。兄さんがふがいないばっかりに迷惑かけるなぁ。
てか俺本当にどうしよう。このままだとガチで足手まといだ。対策を考えておかないと。
俺が自己嫌悪に陥っている最中、小鳥は異能を完成させた。
「……う、ウインドトルネード!」
恥ずかしそうに技名を叫ぶ小鳥。たぶん今名付けたな。
突き出された小鳥の両手から緑色の大竜巻が線上に伸びる。
竜巻はやがて一本の槍のように鋭く尖り、ウネリをあげながらゴーレムの身体に真っすぐと伸びる。
そしてゴーレムの腹に風の異能が突き刺さり、屈強な身体をあっさりと貫通させた。
「「…………」」
口をあんぐりと開けながら腹に大穴が開いたゴーレムを眺める俺と葉子。
こ、小鳥さん?
お前、めちゃくちゃ強力な技をお持ちではありませんか?
「体は岩のままなんだね。それだったら私でもやっつけることはできるよ?」
俺は勘違いをしていた。
小鳥の役目は風で皆を守る防御にあると思っていた。
でも違ったようだ。
この中で最も攻撃に適した異能使い。
それこそが小鳥の真に目指す姿だったのだ。
腹に穴の開いたゴーレムは完全に意識を無くし、やがてバランスを崩して前方にゆっくりと倒れていった。
ゴンッ!
倒れた拍子に首の部分が取れてしまい、ゴーレム丸い頭がゴロゴロと転がっていく。
——いや、転がってくる
その先には茫然と立ち尽くす俺と小鳥の姿があった。
「あぶないですわ!!」
葉子の声にハッと反応した俺は慌てて小鳥を抱きかかえ、回避に努めようとする。
——駄目だ! 遅かった!
回避に間に合わず、俺は小鳥を強く抱いて岩に背中を向けて衝撃に備えた。
死ぬ。
そう身体が直感した瞬間だった。
ぐぉぉぉぉぉ!
俺の目の前の地面が膨れ上がり、何かが俺たちの目の前に現れた。
先ほど葉子が生み出したものよりも二回り以上大きい土の人形。
だけどその姿は真っ黒に染まっていた。
その黒い姿の異形には見覚えがある。
——魔族。
出現した魔族は転がってくるゴーレムの頭を起用にトラップし、誰もいない岩壁へ蹴り返した。
魔族のとんでもないパワーに唖然とする小鳥と葉子。
でも俺は——
「(……やっぱり……そうだ……)」
懸念していたことが確信に変わった。
その瞬間、俺は魔族に対して全く恐れを抱かなくなっていた。




