第14話 土は昇り、風は堕ちる
三人の勝利と葉子は豪語するが、どうみても葉子一人の勝利だった。
……ちょっと強すぎん?
考えが顔に出過ぎていたのか、葉子が補足するように言葉をかけてくる。
「小鳥さんが皆を守ってくれて、来海が胸を揉んでくれたおかげの勝利ですわ! だから三人の勝利なのです!」
「俺の貢献の仕方が最悪だ!?」
「ふふ。私の胸の感触はいかがでしたか?」
両手を後ろで組み上目遣いでからかうように聞いてくる葉子。
少々迷ったが俺は正直に答えることにした。
「えと……もうちょっと牛乳を飲むべきかなぁとおも——」
言い終える前に葉子から無数のチョップ攻撃が頭の真ん中に叩き込まれる。
「小さくて悪かったですわね! 栄養が胸に届いていなくて悪かったですわね!」
頭をバシバシ叩かれながら、俺は表情を少し曇らせた。
俺、戦いに全く役に立てなかったなぁ。
胸を揉んだから葉子の恐怖を退けられたのは事実かもしれないけど、俺役立たず過ぎん?
「来海、貴方の頑張りはちゃんとわかっていますわよ。私達二人を抱えて逃げ続けてくれたこと、感謝していますし、すごいと尊敬もしていますわ」
「そ、そうか?」
「……うん。兄さんはすごい」
なぜか俺から視線を外しながらポツリとつぶやく小鳥。
うわぁ。妹に気を遣わせちゃったのか俺。ダサい。
「……小鳥さん?」
「……なんでもない。なんでもないから」
「??」
葉子の呼びかけにもなぜか視線を合わせない小鳥。
そのまま小鳥は今日一日俺達と目を合わせることはなかった。
コンコン
「小鳥。ちょっといいか?」
小鳥の部屋を控えめにノックする。
ドアはゆっくりと開かれ、俺の姿を確認した小鳥は少し驚いた表情を向けていた。
「兄さん? な、なぁにそれ?」
「俺が作った牛乳寒天だ。試しに作ってみたんだけど試食してくれないか?」
「……う、うん。頂くね」
「おう。それじゃ」
小鳥に寒天を手渡し、用が済んだ俺はさっさと自室へ戻ろうとする。
だけど小鳥は俺の服を引っ張って引き留めていた。
「……兄さん。話したいことある。部屋にきて」
「え? あ、ああ」
小鳥に招かれ、俺は数年ぶりに小鳥の部屋に足を踏み入れた。
妹とはいえ、女子の部屋に入るというのはちょっとだけドキドキする。
俺に似ず美少女だからなぁこいつ。
「頂きます……」
「ああ。召し上がれ」
俺の緊張など露知らず、小鳥は呑気に寒天を食べ始める。
口に入れた瞬間、顔が綻んでいた。
「兄さんのせいで最近牛乳が大好きになってきた」
「誉め言葉として受け取っておこう」
俺は牛乳異能で様々なレシピを生み出している。
最近は新作を完成させるたびに小鳥に食べさせていた。
毎回美味しそうに食べてくれるからついこっちも張り切っちゃうんだよな。
「……ねえ、兄さん。今日の戦い……すごかったね」
「ああ。葉子な。もうあいつ一人でいいんじゃないかなと思えるくらい圧倒していたな」
「葉子さんだけじゃないよ。兄さんも。とっても格好良かった」
「…………」
俺、格好いい要素あった?
「兄さんさ、たぶん自分で気づいてないと思うけど、身体能力が尋常じゃない。女の子二人を抱きかかえて攻撃を逃げ続けるなんて普通できない。体力が持つはずない」
「それは牛乳異能の力だよ。言っただろ? 兄さんの能力はヒーラーなんだって。逃げながら固形の牛乳を生み出して何度も飲み続けていたんだ」
「そっか……だから兄さんは疲れ知らずなんだ。それでもすごいと思う。片手で女の子を抱き抱えて走り回るなんて普通できないから」
それはたぶん日頃のトレーニングのおかげなんだろうな。
そのお陰で小鳥達を守ることができたと考えるとやってよかったなって素直に思う。
「それに引き換え……私なんて……」
「?? 小鳥だって十分すごかったじゃないか。いつも風の壁で守ってもらえて助かっているぞ」
「すごくなんか……ないよ。だって通用しなかったもん。葉子さんと戦った時もそう。私の壁、すぐに壊れちゃう。みんなを守ることなんて全然できていない」
泣きそうな顔でうつむく小鳥。
戦いの後、様子が変だと思っていたけれど、こいつそんな風に落ち込んでいたのか。
俺は小鳥の頭に手を置いてゆっくりと左右に動かした。
「小鳥には充分助けれられているよ。それでも自分の力にふがいなさを感じるならさ……一緒に特訓をしよう」
「一緒……に?」
「ああ。俺だって今のままじゃダメだって思っている。たぶん俺はまだ異能の力を充分に出し切れていない。俺を助ける為だと思って、一緒に特訓してくれないか?」
「……ん……やる」
「よしっ! 一緒に強くなろう。でも今日はもう遅いからそれ食べて寝な?」
「……ありがとう。兄さん」
「ああ。お休み」
頭をポンポンと優しく叩き、俺は妹の部屋を後にした。
部屋を出た後、俺はその手をじっと見つめる。
昔はよく頭を撫でてやっていた。そうすると猫のように喜んでくれたから。
久しぶりに撫でたアイツの頭は、まるで知らない人のように形は変わっていたけれど……
あの嬉しそうな表情だけは昔と変わらなかったな。
「(明日から頑張ろう)」
一緒に強くなると約束をしたけれど、俺はやっぱり小鳥を守ってあげたい。
久しぶりに妹と二人っきりの時間を過ごして、俺は強くそう思ったのだった。




