第12話 小鳥は防御、葉子は攻撃、俺は牛乳
俺、小鳥、葉子の3人には『異能持ち』ということ以外にもう一つ共通点があった。
それは全員がぼっち気質であることだ。
舞奈が居なくなったショックで塞ぎこんだ俺達三人は高校でも一人でいることが多かった。
休み時間は机に突っ伏して過ごし、放課後は遊びにも誘われず即帰宅。
その生活は小鳥や葉子も同じだったという。
「む、迎えにきて上げましたわよ!」
だからこそ目の前の光景が信じられなかった。
他校の制服を着た葉子が校門で俺のことを待ち構えていたのだ。
見慣れない制服姿に一瞬見惚れてしまう。
どこの美少女だ? と言いたげな好奇の視線が突き刺さりまくっている。
「葉子? どうしたんだよ。こんなところで」
「な、仲間なのですから放課後は一緒に過ごすのは当たり前ですわ!」
「だからと言ってわざわざ学校に迎えに来なくてもよかったのに」
「なんですの!? 美少女が迎えに来てくれたのに嬉しくないんですの!?」
「自分で美少女だと自覚しているタイプだ!」
まぁ、正直嬉しいという気持ちは大きい。
だって異性が俺を待っていたんだよ? 嬉しくないなんて言うやつが居たらそいつは男じゃない。
「……あれ? 葉子さんだ」
葉子と戯れている間に小鳥ともバッタリ出くわす。
周りからの視線が更に集中する。
そうだよな。小鳥だって葉子に劣らぬレベルの極上美少女なのだ。視線を集めるのは当然だ。
「小鳥さんも来ましたわね。さっ、それでは早速例の河原で異能の修行ですわよ!」
「「いつからそんな話になったの!?」」
「私がついさっき決めたのですわ。さっ、ぐずぐずしてないで特訓特訓!」
俺達は葉子に手を掴まれて連行されるように引っ張られてゆく。
引きずられながら俺と小鳥は視線を交わしながら『しょうがないなあ』という顔で見合わせた。
「来海。ホットミルク」
「兄さん。私も」
「はいはい」
寒空の下、俺は紙コップに三人分のホットミルクを抽出する。
小腹も空いていたので俺はつまみも出すことにした。
「もぐもぐ……それで特訓って……もぐもぐ……何をするんだ?」
「「チーズ食べてる!?」」
「あっ、お前たちも食べる?」
牛乳属性応用術。チーズ生成。
チーズは牛乳成分を多く含んでいる。
故に俺でも生み出せるのではと思いやってみたらあっさりできてしまった。
でもチーズの臭みが苦手なのでよっぽど腹が減っているとき以外は生み出すことはしていない。
「牛乳で出来ているものだったらなんでも生み出せそうですわね、貴方」
「なんでもってわけじゃないよ。ヨーグルト、ソフトクリーム、バター、練乳くらいしか成功したことない」
「……充分すぎるでしょ。いいなぁ。牛乳属性。風属性と取り換えてほしい」
昔の俺なら『よろこんで』と言っていたところだろうけど、今はこの牛乳属性を手放したくないと思えるくらいこの異能に愛着が湧いていた。
「小鳥の風属性だってすごかったじゃないか。あの風の壁とか対魔族戦でも重宝しそう」
「うん。あの壁で皆のことを守る。防御は得意」
風属性は防御特化ってことかな。盾役の小鳥は今後かなり重要なポジションになりそうだ。
「逆にワタクシは攻撃しかできませんわ!」
胸を張りながらとても誇らしげな葉子。
まぁ、うん。予想通りというかイメージ通りというか。
「まぁ、各々の役割がはっきりしていてわかりやすいかもな。小鳥は防御、葉子は攻撃、俺は牛乳。各自やることがしっかりわかっていれば中々バランスの取れたチームだと思う」
「「…………」」
ごめんて。そんな目で見ないで。
「先日の魔族との戦いは来海一人で撃退したようなものなので貴方の力を疑ってはいないのですが……今更ですけど、牛乳属性ってなんなのですの? 火とか水とかならわかりやすかったのに牛乳て……」
言いたいことはわかる。強いとか弱いとか以前問題であり、何ができるのかいまいちわからないから扱いに困っているのだろう。
「俺の牛乳は……栄養満点だ!」
「だから?」
「牛乳の栄養素のおかげで瞬時に体力を回復させることができる」
「マジですの!?」
葉子が目を輝かせながら紙コップに注がれた牛乳に視線を移す。
嬉しそうに手元の牛乳をぐいっと飲み干した。
「確かに疲れが消えた気がしますわ! すごいすごい! 来海すごいですわ!」
俺の両手を握ってぶんぶん振り回す。
牛乳ヒールの恩恵なのかいつもよりもテンションが高いように見えた。
「来海の牛乳って怪我とかも治すことはできるのですか?」
「いや、それはどうだろうか? さすがに試したことないな」
怪我をするようなアクティブな生活を送ってこなかったものだからそこら辺の検証はできずにいた。
でももし怪我を治すことまで出来るのであれば大当たり属性すぎやしないか?
「試してみましょうか。今から私は自分の異能で腕に怪我を負ってみます。そのあとに来海の牛乳を飲んだり塗ったりしてみましょう!」
「「……へっ?」」
葉子はその場に立ち上がり、周囲の石を操り始める。
拳一つ分くらいの石が遥か高く浮かびあがり、すごい勢いで落下させるように石を操り出した。
その落下点には白魚のように滑らかな葉子の腕がある。
そのまま自分の腕に当てるように石を加速させた。
「って、バカっ!」
こいつ! なんて馬鹿なことを!
回復効果を検証するために自分で怪我をしようとするバカがどこにいる!
「葉子さん! 危ないよ!」
小鳥が大声を上げるが、葉子が操る石はすごい勢いを保ちながら彼女の腕に当たろうとしていた。
だけど——
ボンっ!!
「「「えっ?」」」
葉子の腕に当たろうした刹那、空中で石が砕けちった。
まるで爆発でもしたかのような木端微塵っぷりだ。
「けがはないか!?」
何があったのかはわからないが、とにかく俺は葉子の元へ駆け寄り、怪我はないか身体の隅々まで観察する。
きめ細やかな綺麗な腕。打撲の痕などは見当たらない。どうやら何ともないようだ。
「兄さん! あそこ!」
「……えっ?」
小鳥が指さした方向に視線を移す。
そこには馬のような形をした真っ黒な異形が存在していた。
真っ黒な羽が胴から生えた馬。その周囲には多数の光の球。
あの黒塗りな雰囲気。覚えがある。
「ま、魔族だ!」
嘘だろ!?
先週獣のような魔族と対峙したばっかりだぞ。
ちょっとエンカウント率高すぎじゃないか!?
それにどうして——いや、今は余計なことを考えないでおこう。
まず、この場をどう切り抜けたら良いか、今はそれだけを考えよう。
「に、兄さん、ど、どうしよう! どうしたらいい!?」
「落ち着け! まずは防御を固めるんだ! 小鳥、みんなを守ってくれ!」
小鳥が風の壁で前方をガードする。
それと同時だった。
空飛ぶ馬の魔族が周囲の光の球をこちらに向けて放ちだす。
その黒球ははるか上部に飛んでくるが、小鳥が生み出した風の壁をあっさりと貫通してきた。
「ダメ! この壁ではあの攻撃は防げないよ!」
「ちぃっ! どうすればいいんだ……!」
たまたま攻撃の起動が逸れていたから助かったが、まっすぐこちらに放たれでもしたら俺達はひとたまりもない。
ならば前回のように牛乳窒息を試してしまおうと思ったが距離がありすぎる。
アレをやるには半径5メートル以内にまで近づかなければいけない。
ならば——
「葉子! 頼む! お前だけが頼りだ!」
「……あ……あ……」
「……!」
葉子は前回と同じようにペタンとお尻を地面につけ、唇を震わせていた。
完全に恐怖ですくんでしまっている。
「葉子! 頼む! お前しかいないんだ!」
葉子の肩を抱き、少し乱暴に揺さぶった。
「あ……く……来海……」
ようやく俺の姿を認識できるくらいにはなったようだけど、とても立ち上がることはできなさそうだった。
「兄さん! また攻撃が来る!」
「——っ!!」
黒馬魔族が再度光の球を放出してくる。
小鳥の異能では防ぎきれない。ならば——
「「えっ??」」
俺は右腕で葉子を抱き上げ、左腕で小鳥を抱き上げた。
その状態のまま、俺は全力で回避に努める。
「に、兄さん、力持ち……!」
信じられないものを見るように小鳥がつぶやく。
火事場の馬鹿力とはこのことだろうか。自分でも信じられないことをやっている自覚はある。
だけどすぐに腕が限界を迎える。
少しずつ腕に力が入らなくなってしまい、二人のことを落としそうになってしまうが、大丈夫。
俺は空中で固形牛乳を生み出し、それを食べるように飲み込んだ。
即座に体力が回復し、再び腕に力が戻る。
ヒーラー牛乳のおかげで二人を抱えたまま回避を続けることができるが、一時しのぎにしかなっていない。
なんとか……なんとか攻撃する術を生み出さないといけない。
「く、来海!」
「……! な、なんだ!?」
「む、胸を」
胸!? もしかして俺ドサクサで葉子の胸を触っていた!?
いや、そんなことはない。俺は葉子の腰を持っている。
セクハラはしていない!
「私の胸を揉んでください!」
「「何を言っているの!?」」
「しゅ、羞恥で恐怖を打ち消すのですわ!」




