第11話 幼馴染がわからない
「葉子ちゃん。久しぶりだね。異能の特訓頑張ってくれているんだね」
「ま、舞奈さん!」
夢。
これは夢だ。
夢を夢と理解できるこの感覚、あの時と同じですわ。
異能を授かった時と同じ、あの不思議な感覚だ。
「あの……ね。葉子ちゃんにお願いがあるんだ。会ってほしい人がいるの。来海君と小鳥ちゃん。私が異能を授けた二人の幼馴染なんだけど……」
『来海くん』——牛嶋来海のことですわね。
私好みのファンタジー話を作れる憧れの男の子。だけど私から舞奈さんを奪った憎き男の子。
相対する二つの印象を抱いている男の子だ。
「私がその方と会ってもよろしいのですの? 以前はよくわからない理由で会っては駄目と言われた覚えがあるのですが」
「……ん。もういいの。ごめんね。会っちゃだめって言ったのは私なのに今は会ってほしいなんて。自分勝手な考えなのはわかってる。でも今は私が大好きな3人には結束してほしいんだ」
「それはやはり私一人では魔族には叶わないからですか?」
「えっ? あー、う、うん。まぁ、そういうこと、かな?」
そうですか。
つまり舞奈さんはこう言いたいのでしょう。
「私、かなり力をつけたつもりでしたが、それでも魔族には叶わないと仰るのですね。魔族という存在、侮ってしまっていたみたいですわ」
「あー、う、うん」
「でもワタクシ、自分より弱い相手と協力関係を結ぶなんてごめんですわ」
「えぇっ!?」
「まずは力を見させてもらってから、協力するかどうか決めますわ!」
「ちょ、ちょっと、葉子ちゃん!?」
「もしも、あなたの幼馴染達が貧弱だった場合、私は一人で魔族と戦います」
「話を聞いて!? 私が言いたいのはそういうことじゃなくて——」
「まっ、牛嶋来海ならばきっとすごい異能使いになっているのでしょうね。なにせあんなにも心躍るファンタジー作品を作り出せる人なのですから。同じファンタジー好きだからわかるのですの。牛嶋来海もきっと異能を授かったその日から力を磨き上げているのだと!」
言いながら身体の疼きを感じた。
試してみたい。
牛嶋来海という好敵手に自分の異能がどれほど通用するのかを。
ようやく……ようやく実戦で異能を試せるのですわ!
「そうと決まれば早速牛嶋来海を探し出さなくてはいけませんわね! 忙しくなりますわよ~!」
「お願い! 私の話を聞いてよぉ! 私は葉子ちゃん達には仲良くなってもら——」
「さっ! 起床ですわ~! 新しい朝がやってくるのですわ!」
「勝手に夢から覚めようとしないでよぉ~!」
………………
…………
……
こうして夢から覚めた私はその日の内から牛嶋来海を探し始めたのですが……
「……牛嶋来海の家がわかりませんわ」
肝心なことがわからず、早くもくじけそうになるのであった。
「それで来海よりも先に小鳥さんを見つけたので勝負を仕掛けてお兄さんの場所を聞き出そうとした、ということですの」
色々とツッコミたいことある回想だったな。
まずは……
「小鳥を襲ったってのはどういうことだ? お前の狙いは俺なんだろう?」
「あら。言いませんでした? 異能使いが私より弱い人だったら組むつもりはないと。だから来海の居場所を聞き出すついでに彼女の力も図らせてもらったのですわ」
「……殺すつもりで来いとかいったのは?」
「だってあなた全然攻撃してこないんですもの。命の危機感を持ってもらうために言ったのですわ」
「だとしても、ちょっと許せないな。下手すれば小鳥は大けがをしていた」
たまたま小鳥が防御技を持っていたから何とかなったけど、それがなかったら大けがどころじゃすまなかった。
本当に死んでしまう可能性すらあった。
「大丈夫。それくらい弁えております。あれは当たっても痛くない攻撃ですわ。柔らかい砂だけを集結させて放った攻撃でしたので」
「…………」
それでも怪我をする可能性があったのは事実。
俺の怒りがまだ収まっていない空気を察したのか、葉子は表情を強張らせ、俺たちの前で両手を付いて頭を下げた。
「小鳥さん。怖い思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。ワタクシが完全に悪かったです。この通りです。許していただけませんでしょうか?」
「別にいいよ」
「「いいんだ!?」」
しれっと許してしまった小鳥に俺と葉子の驚愕の声が重なる。
小鳥は小さく微笑みながらこう言った。
「自分の非を認めて頭を下げられる人が悪い人のわけないもん。それに舞奈ちゃん言っていたじゃん。『みんな仲良くね』って。だから私、葉子さんと仲良くしたい」
「こ、小鳥さんっ!」
葉子は瞳に涙を溜めながら小鳥を思い切り抱きしめる。
嬉しそうにはにかむ小鳥を見て、俺も許してやらないとなという気持ちになった。
「それで、俺と小鳥は葉子的に合格だったのか? 異能の力を図っていたんだろ?」
「それは……」
バツが悪そうに視線を外す葉子。
あっ、これは駄目だったか?
小鳥はともかく俺の異能はしょぼいからなぁ。
「……不合格なのはワタクシの方ですわ。昨日は魔族を前にふがいない姿をさらしてしまって……本当に恥ずかしい」
ふがいない姿というのは魔族を前に腰を抜かしてしまい、小鳥に守ってもらった件のことだろう。
怖い思いをしたのだから仕方ない反応だとは思うけど、本人的にはとてつもない屈辱だったようだ。
「ですので私の方からお二人に申し入れ致します。魔族の襲撃はきっとまだ続きますわ。その時は必ず力になってみせます。だから私を二人の仲間に加えていただけませんか?」
——『まず1年後、3月30日。みんなの世界に魔族が訪れる』
舞奈はそう言っていた。
『まず』っていうことは葉子の言う通り魔族の襲撃はまだ続くということを示唆しているのだろう。
葉子は上目遣いで懇願するように俺の瞳を覗き込んでくる。
不安げな表情が彼女の顔に浮かんでいる。
俺は彼女の不安を払拭させてあげるように微笑みを返してあげた。
「こちらこそよろしく。葉子が一緒なら俺も心強いよ。一緒に魔族と戦ってくれ」
右手で握手を求めながら、左手で彼女の頭を撫でる。
異能を授かってから約9ヶ月。
ようやく異能使いは集結した。
今までは一人で悩み続けていたけれど、これからは分かち合えることができるんだ。
「~~~~っ!!」
気が付くと、葉子の顔が真っ赤になっている。
握手している右手もガクガクと大きく震えまくっていた。
「うぉ!? ビックリした! 急にどうした!? 寒いのか? ホットミルク飲む?」
「な、ななななな、なんでもありましぇんわ!」
突っぱねるように俺を押し返す葉子。
なんでもないってレベルの震え方じゃないだろうに。
「……舞奈ちゃんが葉子さんを会わせたくないわけだ……はぁ」
俺達の様子を見て、なぜか小鳥は一人大きなため息を付いていたのであった。
「あっ、そうだ、葉子」
「な、なんですの?」
「パンツ返せ」
「小鳥、ちょっと聞きたいことがある」
「……?」
葉子が帰った後、俺は小鳥一つ訪ねていた。
「異能を授かった日以外にさ。お前も夢の中で舞奈と会ったりしていたのか?」
「……うん。2回だけだけど」
「そうか」
異能を授かった時、もう会えなくなるような気がしたのだけど、それは杞憂だったようだ。
舞奈は引き続き夢の中に会いに来てくれていたのだ。
……俺以外の二人には。
なぁ、舞奈。
どうして俺にだけ会いに来てくれないんだよ。
寂しいじゃないか。
俺だってお前に……
「兄さん?」
「……あ、いや、なんでもない」
舞奈が会いにきてくれないことを拗ねてみっともなく嫉妬している姿を見られたくない。
だから俺は風呂場へ逃げて、熱々のシャワーを浴び、気持ちを切り替えることにした。




