第10話 葉子ちゃんは可愛いから駄目!
「小学生の時、私はお友達がおりませんでした。いつも教室の隅っこで本ばかり読んでいる大人しい女の子でしたわ」
物凄く意外だ。
活発で外で遊びまわるような子でしたって言われた方が普通にイメージ付くんだけど。
「私は友達なんていらないと思っていたのですが、舞奈さんはそんな私にしつこいくらい声をかけてきてくれた人だったのですの」
舞奈が……?
それも意外だった。
舞奈こそいつも本ばかり読んでいる大人しいイメージがあったのだが。
『あの……何を読んでいるの?』
『”婚約破棄されて自由になったので長年の夢だった冒険者として第二の人生を歩み始めた私。地味属性と呼ばれている土属性を極めたら賢者と呼ばれるようになりました。更に元婚約者が魔王軍四天王の一人だということが判明したので容赦なく滅ぼしてやろうと思います” ってタイトルのライトノベルですわ』
『タイトルだけで全部内容暴露されてないかな!? ていうかそれ子供が読んで面白い!?』
『主人公が土属性を極めて無双しているシーンだけ面白いです』
『よかったっ! 小学生っぽい一面をまだ残してくれていた!』
小学生の低学年の頃はクラスが違ったから学校での舞奈を俺は知らなかった。
アイツはそんな昔から葉子と関わりがあったのか。
「その会話をキッカケで私と舞奈さんは仲良くなりましたの。あっ、来海。畳んだ下着はどこに入れておけば良いでしょうか?」
「俺の下着のせいで話遮るの辞めて!? 葉子は話に集中してもらえないかな!?」
「わかりましたわ」
葉子は畳まれた手に取った下着を自分のバッグに入れて、話の続きを語り出す。
『葉子ちゃん。昨日貸してくれた本面白かったよ!』
『舞奈さん。もう読んでくれたのですね。どうでしたか? どの土魔法が一番好きでしたか?』
『うーん、やっぱりゴーレム生成かなぁ。山一つをゴーレム化させるなんてワクワクしたよ』
『ですよね! ですわよね! 嗚呼。いいですわゴーレム。土属性の定番ですわよね。私、将来ゴーレムと結婚したいですわ』
『よ、葉子ちゃんは土属性の魔法が好きなんだね』
『ええ。というよりファンタジー全般のお話が好きですわ』
『あっ、それならさ、私面白い話知ってるんだ! 異世界に転移した男女のお話なんだけどね、設定が面白くて! 男の子が魔王になって、女の子が勇者になるんだ。引き裂かれた幼馴染の男女が戦い合う悲しいお話しなんだけど——』
「……その話、私も知ってる。それって確か——」
「ああ。俺が考えた物語だな」
俺、舞奈、小鳥の3人での遊びといえばファンタジー語りだった。
俺が異世界転移モノの物語を考えて、舞奈や小鳥がこういう展開の方が面白くなる、魔法設定はこうした方が深くなる、と口を出して物語を完成させていく。
今考えれば二人は俺専属の編集みたいな立ち位置だったな。
「私もそのお話が一番好きですわ。今まで読んだどのファンタジーよりも」
不意に向けられた優しい表情に一瞬ドキッとしてしまう。
自分で考えた物語を面白いといってくれる。少し照れ臭いけど嬉しかった。
「この物語が舞奈さんの幼馴染が考えた物語だって知ったとき、私もその人に会ってみたいって言ったことがありましたの」
あのファンタジー物語にファンが居ただなんて俺も知らなかった。
舞奈ならきっと喜んで俺と葉子を合わせようとしてくれたんだろうなと思っていたのだが——
「でも、舞奈さんは頑なに会わせてくれませんでしたわ」
「それはどうしてだ?」
「……わかりませんわ。『葉子ちゃんは可愛いから駄目!』とか意味わからない理由で頑なに断ってきましたわ」
本当に意味不明だ。葉子が可愛いことは事実だが、それが会っちゃいけない理由になるってどういうこと?
「……あー、なるほど」
小鳥だけが一人何かを納得したような表情を浮かべていた。
「何かわかったのか? 小鳥」
「……うん……まぁ……なんとなく察しただけ。兄さんと舞奈ちゃんの一番近くに私だからわかっちゃったというか……うん……」
要領を得ない様子で『舞奈ちゃんの為にこれ以上は言わないでおく』と秘密にされてしまったので俺達は話を進めることにした。
「舞奈さんには駄目って言われてしまいましたが、私はやっぱり気になってしまいましたの。同世代にあんな楽しいお話を作れる人がいるんですもの。お近づきになりたいって思うのは普通ですわ。だから中学生に上がる前くらいの時に、貴方に声をかけようと近づいたことがあるのですが……」
結局それはできなかったという。
小学校高学年からは俺と舞奈は同じクラス。俺達はいつも一緒に居たから葉子が入り込むタイミングがなかったという。
「中学からも舞奈さんとは別々のクラスになってしまい、遊ぶ機会も少なくなってしまいましたわ。その時は貴方を憎んだものですわよ。舞奈さんを取られたみたいに思ってしまって、ずーっと恨み続けましたわ」
それ以来、葉子は俺と接触することは諦めて、代わりにずっと恨み続けていたらしい。
俺を呼び捨てなのはその名残なのだろう。
「舞奈さんと遊べなくなったのはさみしかったけれど仕方ないと思うようにしましたわ。それに休日ならば遊ぶ機会はいくらでもある。そんな風に思っていたのに、ある日舞奈さんは——」
失踪か。
急に俺たちの前から姿を消した幼馴染。
俺が最も失意に沈んでいた頃だ。
「私、ショックで何日も食事が喉を通りませんでした。今だってそうです。食欲なんて出るわけがない」
お前さっき俺のパンをむしゃむしゃ美味しそうに食べてなかった?
「でも、ショックだったのは私だけではなかったみたいですね。去年たまたま貴方を見かけたときそれはもう酷い顔をしていましたわ」
だろうな。
あの頃の俺は舞奈を失ったショックで完全に塞ぎこんでしまって誰とも話をした覚えがない。
その結果、小鳥との関係にも深い溝が出来てしまった。
正直今でも舞奈が傍にいないことは泣きそうなくらい悲しい。
「でもショックから立ち直らせてくれたのも舞奈さんでした」
「あの……夢か……」
「ええ。舞奈さんが夢に出てきてくれた。舞奈さんは異世界に行っただけで今もしっかりと生きている。その証拠に舞奈さんは私たちに異能の力を託してくれました」
あの夢で救われた気持ちになったのは俺だけじゃなかった。
葉子も、それに小鳥だって同じ気持ちだったに違いない。
「舞奈さんから託された力を大切に育もうと私は毎日異能の特訓に励みました。努力を続けて強くなりました。この力があれば前を向ける。襲来してくると言われている魔族にだって打ち勝てる」
実際、葉子の異能はすごかった。
多様な土の変化。威力、迫力、その全てが桁違いだった。
異能に関してはこの中の誰よりも長けているかもしれない。
「そんな風にうぬぼれていた私の元に、舞奈さんがもう一度私の夢の中に出てきてくれましたの」
「えっ——?」




