表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/15

エピローグ:もふもふと蒸気とパンの香り

 春の風が吹く早朝、リュミエール村の工房には、かすかに甘い香りが漂っていた。


 薪のオーブンから立ちのぼる蒸気と、こんがりと焼き上がったパンの香ばしさ。厨房では、葵がエプロン姿で焼きたてのパンケーキを皿に盛りつけていた。

 「今日のはベリー入り。昨日、アルが勝手に摘んできたやつで作った」

 「ふもっ!(うまいぞー!)」


 アルが机の上をぴょんぴょんと跳ね回る。その頭には、いつもの三角布。最近では村の子どもたちから“シェフもふ”のあだ名で呼ばれている。

 「おはよう。今日は薬草の整理があるの。朝食、もらっていい?」


 ティナが静かに現れ、葵の隣に腰を下ろす。テーブルには、ベリーソースと蜂蜜、焼きたてのパン、そして温かいハーブティー。

 何でもない、けれど特別な朝。

 工房の窓からは、村の人々の姿が見える。

 畑に向かう農夫。道具の修理に来る老夫婦。子どもたちはアルと追いかけっこをして、笑い声を上げている。



 ふと、葵は設計ノートを開いた。

 そこには、新しい道具のスケッチが描かれていた。


 村の年配者のための“階段昇降補助機”。

 小さな試作はすでに完成していて、今日から試験運用が始まる予定だった。

 「道具屋って、終わりがないな」

 「ええ。でも、だから楽しいんじゃない?」

 ティナが笑う。アルがパンのかけらを咥えたまま、コトンと膝の上で寝息を立て始める。


 それを見て、葵も笑った。

 ――今日も、いい一日になりそうだ。



 そしてまた、ひとつ扉が開く。

 道具屋《ユグド工房》に、新たな相談者がやってきた。

 「すみません、“川の水をくむのが大変”って話を聞いたんですけど、何かいい道具ないですか?」

 葵は立ち上がり、図面を取り出す。

 「もちろん。お任せください。便利って、誰かが笑ってくれるってことだから」

 アルが尻尾をふり、もふもふと机の上を転がっていく。

 工房の煙突から、パンと蒸気の香りがまたひとつ、空へと昇っていった。



ブックマークをよろしくお願いいたします♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ