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プロローグ:“あの本”を手にした瞬間、すべてが動き始めた――

ご覧いただきありがとうございます。

前作の見切り発車と違い、こちらは書き溜めての投稿です。

ほのぼの&ハッピーエンドものです。

安心してお楽しみください。

 薄曇りの空の下、東京の片隅にある寂れた商店街を、青年・あおいはひとり歩いていた。

 仕事を辞めて数日。行く当てもないまま、気晴らしにふらりと立ち寄ったこの通りは、かつて幼い頃に祖母と一緒に通った場所だった。今ではシャッターが下りた店も多く、寂しさが残る風景が広がっている。


 そんな中、彼の足がふと止まったのは、古びた本屋の前だった。

「……ここ、まだあったんだな」


 店先に置かれた木箱には、処分品らしき古本がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。漫画、実用書、古びた文庫本。その中に、ひときわ異質な存在があった。

 厚手の黒革に包まれた一冊の本。背表紙には何のタイトルも記されていない。だが、不思議なことに、その本だけがまるで“こちらを見ている”ような、そんな錯覚を覚えさせた。

「……なんだ、これ」

 まるで吸い寄せられるように、彼はその本を手に取った。想像よりも軽く、手触りはしっとりとしていた。埃ひとつない表紙に、わずかに金色の模様が浮かび上がって見えたのは、光の加減のせいだろうか。


 気づけば、彼はページをめくっていた。

 瞬間、世界がひっくり返った。


 眩い閃光。耳をつんざくような風の音。地に足がつかず、体が宙を漂う感覚。視界が白から青へと反転し、風圧が身体を打ちつけてくる。

「えっ……? おい、これ、どうなって――」


 慌てて目を開けると、見渡す限りの青空が広がっていた。遥か下に雲海、さらにその下には、山と森に囲まれた小さな村がポツリと存在していた。


「う、そ……空から落ちてるのか、俺!?」

 叫ぶ間もなく、加速度が増していく。まるでジェットコースターに乗ったような、胃が浮き上がるような感覚。空気が喉を裂き、目元に涙が滲む。


「……夢だろ、これ。いや、頼むから夢であってくれ!!」

 だが祈りは届かず、次の瞬間――。


 ドンッ!!!


 何か柔らかいものに叩きつけられるような感触が全身を包み、そしてそのまま意識が暗闇へと沈んでいった。

 遠くで誰かの声がする気がした。

 ――やれやれ、また厄介な客人が来たもんだな。

 その言葉が耳に届いたのかどうかも分からぬまま、葵の意識は、深く、深く沈んでいった。


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