メビウスラジオ始めました!
(SE:スマホの画面をスワイプする音、通知を切る音、マイクのON/OFF切り替え音、部屋の空気の静けさ)
こんばんは。深夜1時、部屋の明かりは机のスタンドひとつだけ。
スマホをガチャガチャいじりながら、「まあ、どうせ誰も聴かないしな」とか思いながら、今夜から始めます。
YouTubeで、ラジオ始めましたっ!
番組名は──「メビウスラジオ」。
名前の由来?聞いてくれるんですか?
メビウスの輪ってあるじゃないですか、表と裏がない、ずっと同じ面が続いてるやつ。ぐるぐると繰り返すようで、でも決して戻らないような奇妙な道。
なんか、僕の人生、というか感情って、ずっとそれを歩いてるような気がしてて。
忘れたはずのことが、また戻ってきて、でもちょっと違ってて、でも確かにそれで──みたいな。
さて、今夜は、そんな「輪」の始まりにあった話をしようと思います。
高校二年の冬の朝、まだ日が昇りきる前の教室。僕はいつも通り、ストーブの真ん前、一番前の席に座ってました。
ぼんやりと、数式のプリントを眺めながら、「ああ、今日も始まってしまうな」なんて思ってた。
そんなとき、彼女が来た。
クラスの後ろの席の女の子。ほとんど話したことのなかった、ちょっと大人びた、欧米の映画に出てきそうな顔立ちの子。
「おはよう」って声がして、僕の席のすぐ前に腰をおろした。
制服の袖を手でつまんで、小さく身をすぼめながら「ここ、あったかいね」って。
──それだけの出来事だったのに、僕の中で、世界が音もなく揺れた。
なぜ僕のところへ来たのか、なぜ話しかけてきたのか、わからないまま、僕は「ああ」とか「うん」とか、生返事をしていた。
でもね、不思議だったんです。
彼女の話は、正直まったく共感できないことばかりで、どこか自分と異質だった。
だけど、その異質さが、やけに心地よかったんです。
その日の午後、僕は彼女の家に電話してました。
僕の返しがそっけなかった、と言われたので、「ごめん」と謝ったのを覚えてます。
家に帰ってから、僕はラブレターを書きました。熱を帯びた、でも今思えばちょっと重たかったかもしれない手紙。
で、書き終えたら、「これって、ウザいだけじゃないか」と思って、ビリビリに破りました。
──好きって気持ちは、誰かに伝えた瞬間に壊れてしまうものなのかもしれません。
あるいは、それを抱え続けることでしか守れないのかも。
……とまあ、そんな話を、誰かに聞いてもらえるだけで、ちょっと楽になるのかもしれない。
そんな気持ちで、このラジオを続けていけたらいいなと思っています。
「メビウスラジオ」、パーソナリティは僕でした。
また、夜のどこかで。
おやすみなさい。
(SE:スマホのタップ音、マイクのOFF音、小さな沈黙)