序章
彼女を嫌いだと思った瞬間が、たぶん一番彼女のことを愛していた時だった。憎しみに近いほどの感情が、ぼくの中を満たしていくとき、彼女の存在は不快なほど鮮やかになった。視界に入るだけで皮膚の裏がざわつき、言葉を交わさなくてもその体温だけで、神というものが存在しないことを知った。
神はいたのかもしれない。でも、ぼくにはもう関係がなかった。彼女が笑うたび、神はぼくの中から少しずつ消えていった。彼女はそれに気づいていない。あるいは気づいていて、わざと何も言わないふりをしているのかもしれない。だとすれば、その残酷さは美しさに似ていた。
ぼくは愛したのではなく、落ちたのだ。穴のような感情だった。深くて暗くて、底が見えない。それでも毎日、彼女のことを考えた。距離を取ろうとすればするほど、彼女は近づいてきた。好きになればなるほど、彼女は離れていった。
まるで最初から仕組まれていたかのように、ぼくの感情は彼女の軌道の上を回り続けていた。前に進んでも後ろに戻っても、彼女の影が視界を覆う。それが幸せなのか苦痛なのか、判断はつかなかった。ただ、確かなのは、彼女を憎んでいる限り、ぼくは彼女を見失わずにいられるという事実だけだった。
愛が直線であるなら、ぼくたちは螺旋を描いた。どこまでも続くメビウスの輪の上で、決して交わらない軌跡をすれ違い続けながら、それでも互いに引力を感じていた。
そして今、ぼくはまた彼女の不在を強く感じている。不在という名の存在。それが、ぼくの信仰の代わりとなった。