きおくばこ
・・・テストで0点を取ったら、どうする?
・・・友達とけんかしたとき、どうする?
この公園にちょっと変わった箱が置いてあります。
その名も 記憶箱です。
一見、中を見ると何も入っていません。
箱にはレバーと長い線がついています。
これは近くに住むある博士が発明したものです。
この箱はとても便利な箱です。
自分が経験した嫌な思い出を、捨てることができます。
やりかたは簡単です。
紙に捨てたい記憶を書いて、箱に入れます。
そして、箱についている線を頭につけて、レバーを引きます。
すると、5分で嫌な気持ちがなくなります。
今はまだ、一か所にしか設置していません。
でももうすでに、たくさんの人が訪れて、嫌な思い出を捨てていきました。
あるときは、ビジネスマンが来ました。
会社でミスをして、首になってしまったそうです。
その悲しい記憶を捨てたビジネスマンは、悲しくなくなりました。
あるときは恋人にふられてしまった女の子が来ました。
失恋した記憶を消したかったそうです。
彼女も記憶を捨ててから、楽しい気持ちになって帰っていきました。
あるときは、テストで低い点をとった子がきました。
お母さんに怒られたのだそうです。
そしてテストで低い点をとったことと、お母さんに怒られた記憶を捨てたそうです。
捨てたあとは、うれしそうに走っていきました。
…1か月後
またあの首になったビジネスマンがきました。
今度は別の会社で、仕事の失敗をしたそうです。そしてまた記憶を捨てました。
恋人にふられた子もまたあらわれました。
今度は新しい恋人が別の女の人とデートしていたそうです。
そしてテストで低い点をとった子もまた来ました。
今度はとび箱が跳べなくて、みんなに笑われたのだそうです。
みんな記憶を捨てていきました。そして楽しそうに帰っていきました。
…1週間後
また ビジネスマンがきました。
今度は会社の資料をなくしてしまったそうです。
また女の子がきました。
今度は友達とけんかしたそうです。
また子供がきました。
今度はかけっこで一番遅かったそうです。
みんな記憶を捨てて、楽しそうに帰りました。
…2日後
またビジネスマンがきました。
今度は朝起きられなかったそうです。
また女の子がきました。
好きな服が汚れたそうです。
また子供がきました。
欲しいおもちゃを買ってもらえなかったそうです。
みんな記憶を捨てて、楽しそうに帰りました。
それからというもの・・
毎日毎日みんな来るようになりました。
理由は
・・・ごはんがさめていた。
・・・欲しい靴が売っていなかった
・・・使っていたえんぴつが折れた
などです。
毎日来ては一つ、二つ悪い記憶を捨てていきます。
それはまるで、お腹がすいた猫が餌を必死に求めているようでした。
博士はそれを見て少しこわくなり、記憶箱を壊すことにしました。
ある日の夜、
博士は誰もいないのを確認して、記憶箱を壊しました。
するとその箱に入っていたみんなの悪い記憶が一斉に飛び出しました。
「うわぁーー!!」
そしてそれが全て博士の頭の中に入ってしまいました。
次の日
博士は朝起きて、不思議な気持ちになりました。
悪い記憶をたくさんもらったのに、今までより楽しく、
なぜか充実した気持ちになりました。
・・・会社を首になった。…でも今いい会社で働いている
・・・0点をとった。…でも勉強して博士になった。
・・・恋人にふられた。…でも新しい人と知り合って、結婚した。
そしてあの記憶箱のあった場所には、 何もありません。そしてもちろん誰もいません。
記憶箱に記憶を捨てた人はどうなったのでしょう。
あのビジネスマンは時々、失敗しますが、同じ失敗をしなくなりました。
あの女の子は、時々恋人とけんかしますが、けんかの後、もっと仲よくなるようになりました。
あの子供は とび箱が飛べるようになりました。
そして博士は・・・
今もみんなの悪い記憶といっしょに、楽しく生活しています。
おしまい