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死ぬまで生きてやる  作者: 楸 椿榎
第二章 オレと私
6/11

春の花の、木の下で

 何度目かの春が来た。

 いつの間にか、山の穴場で花見をするのが通例になっていた。

 ()み渡った青空の中、春色の木の下で、メイドが用意したお酒と、自分たちで作った弁当とつまみを持って、二人でひっそりと。


 草の上に亜麻(あま)色の敷布(しきぬの)を敷いて、並んで座る。キョウは胡座(あぐら)、リィンは正座。

 カゴを前に置いて、お(たが)いにお(しゃく)しあって乾杯(かんぱい)する。


 ゆるやかな木漏(こも)()が、ほんのりと二人を照らす。

 話し声はなく、木々のさざめきと、口に運ぶ音だけ。

 お弁当も食べ終わり、お互いにいい具合になってきた。


「ちょっと横になっていい?」

「勝手にしろよ」

「わかったわ」


 とろんと笑ったリィンは、飲み物をカゴに退避させて、しれっと(となり)に倒れ込んだ。


「おい」

「なぁに?」

「オレの(あし)に頭を乗っけていいとは言ってねえ」

「あらそう」

「あぁ」

「心地いいわ」

「そうかよ」


 キョウはそれ以上なにも言わなかった。リィンもなにも言わなかった。

 なにを言っても無駄だとわかっていた。それだけのことだと、二人とも納得していた。

 二人だけがわかっていた。


「今年も綺麗(きれい)に咲いたわね」

「そうだな」

「いい年になるかしら」

「どうだろうな」

「なるといいわね」

「そうだな」


「少し寝るわ」

「まじかよ」

「安らかに眠れたらいいのにね」

「ふん」

(ウソ)よ、ちゃんと起きるから安心しなさい」

「うるさい。寝るならさっさと寝ろ」

「ふふ、ありがと。おやすみ」

「ああ」


 リィンは、すぐに寝息を立て始めた。

 苦しみとは無縁(むえん)そうな寝顔を、空いている手で()でる。

 


「私も、ありがとう」


───*───*───


 夢を見た。

 オレの前には、リィンが立っていた。

 手を差し出してきたから、(にぎ)った。

 握り返してきたから、首を(かし)げて見せた。

 笑うばかりで、言葉はなかった。

 口は動いていたけど、聞こえなかった。

 でも、なんとなくわかった気がしたから、笑って歩いた。


 リィンは、もう一人、誰かともう片方の手を(つな)いでいるようだった。

 よく見てみると、あの時の女の子だった。

 女の子が(うれ)しそうで、オレも嬉しそうに笑った。

 三人とも、嬉しかったんだろう。

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