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死ぬまで生きてやる  作者: 楸 椿榎
第一章 オレとお前
5/11

シプラス邸にて

 キョウとリィンは、シプラス(てい)を訪れていた。

 草木が()(しげ)る庭に面した外廊下(ろうか)を、ハックベルが先導していく。

 青々とした景色は、穏やかな陽光に照らされて見る者を和ませる……とも、限らない。


「なんでこいつの家なんかに……」

「私のことでも呼びましたか?」


 ちらと顔を向けたハックベルに、思いっきりの挑発をかましながらキョウは毒付く。


一切(いっさい)呼んでねえよ、悪魔殺し」

「私はまだまだ鍛練(たんれん)(なか)ばですが、悪魔殺しと呼ばれるのは誇らしいですね」

「表情変えねえまま言うな」

「皮肉で本気になることなどありませんから」

「くそが」

「あなたたち、仲が良いのね♪」

「どう見りゃそうなんだよ!」

「まぁいいじゃない。私があなたに殺されるまで安穏(あんのん)と生きるには、シプラス邸での研究に協力することが条件として含まれているのだもの」


 リィンの楽しげな微笑みは、キョウの顔を(くも)らせる。


「研究への協力って、どんな?」

「たとえば、血液提供や、前回までとの間にあった出来事とそれへの対応の共有、そして細胞の摂取などね」

「人体実験じゃねえか」

「それで無駄に血を流すことがなくなるならいいじゃない」

「お前はいくら血を流してでも死にてえんだと思ってた」

「あら、誰が私の血だと?」

「は?」

「その人は昔、我々の部下百名を相手に、一人で立ち回った方です」

「……」

「わかった? これは協定なの。私はシプラスへの被害を出さない。シプラスは私が死ぬ研究・私を利用する研究をする」

「そうかよ」

「あらあら、もしかして心配してくれたの?」

「知るか、お前を殺すのは、他でもねえオレだってだけだ」

「そう、期待してるわ」

「ほっとけ」


───*───*───


 リィンが一室で血液提供をしている最中、ハックベルは入り口の壁にもたれながらキョウに目を向けた。

 視線に気づいたキョウはガンをつけてみたものの、いつもとは違う様子に眉を(ひそ)める。


「一つだけ、調査の中で気になっていたことがあるんです」

「?」

「あなたが取り()かれたという神、その正体は現象でしかなく、人格と呼べるものはないほどの存在だった」

「それが何だよ?」

「あなたが誰なのか? という話ですよ」

「……は?」


 キョウは要領(ようりょう)を得ていないようだったが、隣のリィンは目を細めた。


「神に人格はない。しかしあなたは取り憑かれる前と別人だという。となれば、必然的にあなたは」

(だま)れ。黙らないと殺す」

「その前に私があなたを止めますが」

「そういうことじゃねえんだよ」

「……そうですね、こと人間に対して、不躾(ぶしつけ)が過ぎました。では」


 ハックベルは姿勢を正し、一礼すると、部屋から出ていった。

 去っていくハックベルを見つめながら、キョウはリィンと(つな)いだ手を見下ろす。


「あなたが離してと言っても、私が放さないからね?」

「は?」


 リィンの顔に視線をやると、満面の笑みが返ってきた。


「あなたが私を殺せることに違いはないのなら、誰であろうと手放す理由はない」


 どうあっても変わらない。その態度に、思わず吹き出した。


相変(あいか)わらずだな」

様変(さまが)わりした方がよかった?」

「やめろ気色(きしょく)悪い」

「でしょ♪」


 リィンは、処置の終了と同時に顔を研究員の方へとやった。

 それを知ってか知らずか、キョウは少しだけ大きく息を吐き、音もなくまた笑った。


───*───*───


 また、夢を見た。

 辺りを見回すと、端っこの方に一人、小さく座り込んでいる女の子の影があった。

 手招きをしてみても、首を横に振るだけ。

 仕方ないから(ひま)つぶしに歩いたりしていると、ずっと視線を感じる。


 何か言いたいことがあるなら言えよ。


 近寄って、目線を合わせて言葉を伝えても、うんともすんとも言わない。

 でも、(うれ)しそうに微笑(ほほえ)んだ。

 (まばた)きの合間(あいま)に、彼女はいなくなっていた。


 もういいよ、と。


 どこかから、(さと)された気がした。

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