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死ぬまで生きてやる  作者: 楸 椿榎
第一章 オレとお前
3/11

夜会にて

 夢を見た。

 誰かの泣く声が聞こえる夢。


 しくしくと。


 しかし辺りを見渡してみても誰もいない。

 ふと、自らを(おお)うマントをめくってみた。

 すると、中には明るい光を放つ小さな球があった。

 数度()でると、泣き止んだ。


 大丈夫だ、と。


 誰に言うでもなく(つぶや)いた。


───*───*───


 二人の契約が成立してから数ヶ月。

 夏を迎えたリィンの城では、夜会が開かれていた。


「なんだよこれ。髪もメチャクチャいじられたし」

「私にはこういう付き合いも必要なの。当然あなたにもついてきてもらわなきゃ困るわけ」

「だからって、これ歩きにきぃって」

贅沢(ぜいたく)言わないで。それでも歩きやすいものを選んだんだから」

「変な気遣(きづか)いすんなっての」

「さ、ここが今日の戦場よ」

「無視すんな! ……って」


 両開きの大扉を使用人が開けた先には、(きら)びやかなシャンデリアで黄金(こがね)色に(かがや)くダンスホール。各所で()ちる話し声の隙間(すきま)()ってウェイターが飲み物を運び、(わき)には料理が置かれている。

 それぞれ青と黒の豪奢(ごうしゃ)なドレスに身を包んだキョウとリィンは、手を繋いでホールの中へと踏み入る。

 何の気なく進むリィンとは対照的に、キョウは周りを(にら)みつけている。

 それは、逆に二人を見つめる視線を(きら)ってのことだった。


「あれが例の?」

「どこから来たんだろうか」

「手を(つな)いで、おアツいのかしらねぇ」

「人外には人外がお似合いということか」


 周りからひそひそと(うわさ)する声と、(いや)しい目線が二人に向けられる。

 優雅(ゆうが)な光と音楽には似つかわしくない、暗い笑みが所々に見える。

 キョウは周囲を睨み続けたまま、リィンに耳打つ。


「なぁ、あいつら……」

「殺していいわけないでしょ」


 キョウの目と(とが)らせた口が「まだ何も言ってねえよ」と言外(ごんがい)に語る。


「いいのよ、ああいうのは放っておけば。いずれどうにかして私の勢力に取り込むから」

「だけど、間違ってんじゃんよ」

「あら、あなたそんなに気を(つか)えて……」

「オレはお前を殺すために一緒にいるだけで、お似合いとかじゃねえって」

「……ふふ、そうね」

「言葉遣いもぶっきらぼうね」

「あん?」


 二人の会話に突然入った横槍。言葉の主は、そばにいた若い令嬢だった。

 金髪をかき揚げ、(あざ)やかな赤いドレスに似つかわしい高らかな態度で、二人を見下している。


「あら、ごめんなさい。気を悪くしたなら謝るわ」

「人の気が悪くなる言葉ってのが分かんねえのかお前は」

「おー怖い! これだから教養のない野蛮人(やばんじん)夜会(やかい)に入れるのは(イヤ)なのよね〜」

「……あん?」


 会場の各所からはうっすらとした笑いが起こる。対照的に、顔をこわばらせる面々もいる。


「それに、そんな人を連れている(あるじ)の品格も疑わしいわね」

「……てめえ、もっかい言ってみろ」

「弱い(けもの)ほどよく()える」

「「!?」」


 会場に静寂(せいじゃく)が走る。

 (にら)みを効かせたキョウの一言ではどうともならなかったが、ただ姿勢よく立ち、目を伏せているリィンのたった一言で、会場全体の圧がドッと増したように群衆(ぐんしゅう)は身構えた。


「この場合の獣というのが誰を指すのかは分かりませんが、上澄(うわず)みだけでしか状況を判断しないような(かざ)まなこをしている方はこの中にいないでしょうから、きっと獣などいないでしょうね」

「……」


 笑顔を向けられた貴族はバツが悪そうに歯を食いしばっている。

 何かを言い出そうとしているようだったが、二の句が見つかる前に、キョウがリィンの手を引いた。


「え?」

「ついてこい」


 貴族とは逆方向、出口へとキョウは歩を進める。

 その姿を見て一息、威勢(いせい)を取り戻した貴族は小さな声で「身の程をわきまえたようですね」「これでせいせいしましたわ」とキョウたちに聞こえないように笑っていた。


───*───*───


 中庭に出ると、外から引き込んだ小川(おがわ)のせせらぎが聞こえてくる。

 リィンを連れてきたキョウは歩みを止め、ガシガシと自分の頭をかく。

 せっかくセットしてまとめていた髪が、そよ風になびく。


「どうしたの? いきなり抜け出しては城主(じょうしゅ)としての役目が……」

「んなもん、またどこかで()め合わせできるだろ、お前なら」

「?」

「お前、(イヤ)だったんだろ」

「……へ?」


 リィンは予想もしなかった言葉に、思わず息が()れる。

 「お前があんな声を出すなんて……」と言いながら、ちらと目を向けた先の、リィンの(ほう)けた顔を見て、キョウも自分の発言に気がついた。


「いや、違う! オレが嫌だった、それだけだ!」


 ぷいとそっぽを向いて、目も合わせず言い訳をするキョウを脇に、リィンは庭の小川を飛ぶ、虫の光に目をやる。


「鳴くよりも、鳴かぬ光が身を()がす」

「は?」

「古い慣用句よ。この場面とも少し違うことを()いたものだけど。あなたにも思慮(しりょ)はあったのね」

「てめえぶっ殺すぞ⁉︎」

「ええ、お願いするわね♪」


 食ってかかるキョウをひらひらといなしながら、リィンは笑っていた。


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