14話 ※〈双天〉ツクヨ姫さまの生ナマなまちゃんねる3〜EXダンジョン〈無限螺旋〉。
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三人称別視点。キリよく切れるところがなく、いつもよりちょっと長め。ツクヨ姫さま編は、とりあえずこれで最後です。
※最後のくだりに、微修正を加えました。パワーバランスというか、関係性というか。
では、本日もよろしくお願いいたします!
――青く、青く、輝いていた。
((な、なんだ……!?))
((な、なに……これ……!?))
ダンジョン全体が。ツクヨのその小さな体から伸びる青い光の線で。そう。そのダンジョン全体を青く染め上げるほどに伸びた、まるで深く深く、根を張るような無数の線で。
((そ、それにこの……部屋……!?))
――そして、リスナーたちは、気づく。
全体が青く照らされた、ごく小さな私室だとばかり思っていたこのツクヨのいる部屋が、その家具が置かれたスペース以外、果てすら見えないほどに広大で、なにもない空間であることに。
――その、巨大な虚無の中に、独り。
「……どうじゃ? わらわの御役目の重さ、少しは感じとれたかの?」
全身から伸びる線で、自らもまた青く発光したツクヨがおごそかに口を開く。
その姿は、実年齢よりもはるか昔に時を止めた、人間とは異なるその姿は、神々しく、観るものに畏怖を与え――
ぼふっ。
「あ〜、つっかれたぁ〜! もーいーじゃろ! 可視化しゅーりょーじゃ!」
――愛用のソファへと身を投げだし、青い光が止むとともに、見ため相応の愛らしい〝幼女〟へともどる。
「執事ぃ〜!」
「はいはい。お疲れさま。いま用意するよ」
ぐでんと疲れきったようにソファにあお向けに寝そべり両手両足をバタつかせるツクヨに、狐面の奥で「無茶するなぁ……」とため息をつきながら、執事くんはそう答えた。
「……というわけでじゃ。あんむ。いまわらわのおるこのEXダンジョン〈無限螺旋〉は、どういうわけか、すべてのダンジョンとつながっておる。ごくっごくっ……ぷはぁ〜」
右手でしゃくりと冷えたシャーベット。左手で冷えた缶酎ハイをたしなみながら、ツクヨはすっかりシーンと静かになったリスナーに向けて説明をつづける。
「でじゃ。あんむ。その特性を逆手にとって、この〈無限螺旋〉からとりこんだ膨大な魔素を一度我が身を通してわらわの能力【迷宮掌握】で各ダンジョンに送りこみ、本来ダンジョンに存在しない【配信】という機能を成立させているわけじゃ!」
カシュ。
「ごくっごくっ……ぷはぁ〜! つまりじゃ! たとえば〈五輝星〉の面々に、〝双花剣〟のフタバ! ほかにも、おぬしらがご執心のあのものも、あのものも! その活躍を観られるのは、すべてわらわのおかげということじゃな! いっひゃっひゃっひゃっひゃ!」
(ていうか、缶開けるペース早くね?)
(この三下みたいな笑いかたの呑助と、さっきの神々しさが一致しない件)
「ええい、やかましいのう! なにも好き好んであのような真似やっておらぬわ! 有事に【迷宮掌握】のレベルを上げるならともかく、可視化などという何の意味もないハッタリのために一気に甚大な量の魔素をとりこんで、操作して、わらわはもうクタクタなんじゃ! せめて酒くらい好きに飲ませい!」
カシュ。
(っていうか、飲み終わる前にもう次を開けるって……え!? まさかの左右同時飲み!?)
(え? 待って。さっきのあれ、ハッタリだったの? 何の意味もないの? あんなに神秘的だったのに?)
(……でも、いまも私たちに見えなくなったってだけで、【迷宮掌握】っていうのは、つづけてるんだよね? ツクヨ姫さまは……24時間、ずっと。休まずに)
「ぐびっ、ぐびっ、ぷはぁ〜。そうじゃよ?」
左右2本の缶酎ハイを飲みほしながら、あっけらかんとそう答えるツクヨに、ふたたびリスナーたちはシーンと静まった。
「いひひひ……そうしてだまっておっても、わらわには伝わってはくるが、できれば、おぬしらの口から直接聞きたいものではあるのう? 新参リスナーたちよ」
(ごくつぶしとか思って、ごめんなさい!)
(お酒飲んで世話されて、代われよなんて思って、すみませんでした!)
(子どものころからファンだったけど、ずっとマスコットだと思ってました! ごめんなさい! 好きです!)
「いっひゃっひゃ! どさくさまぎれに告白までされてしまったのう。よいよい。じゃが、これに懲りず、また観に来てくれるとうれしいのう。ここは、静かに過ごすには、少し………ふ、ふわぁぁぁ〜。ん、すまぬ。どうやら、今日はみなとはもうお別れの時間のようじゃ。執事ぃ〜?」
「はいはい。もうベッドの用意はできてるよ。ほら、だらけてないで、つかまって」
そうして、ごく自然に執事くんはあまえるように脱力するツクヨをその腕に抱きかかえた。
「ほら。魔素の操作でいいから、歯を磨いておいて」
「ん〜。わかっておる〜」
そして、そのままベッドにツクヨを寝かせると、「ん〜」とむずがるその肩をポンポンとたたきながら添い寝する。
ツクヨの意識が落ちかけるとともに、ダンジョン内の照明がだんだんと暗くなりはじめた。
(やっぱり執事くんって、スパダリ……ううん。むしろ王子サマ……!)
(仲のいい兄妹みたいで可愛い……。ウチの子たちもあんなころ、あったなあ…)
(尊い……)
(REC)
ダンジョンにいつづけるかぎり、配信は途切れることはない。もちろん【迷宮掌握】もツクヨが眠っていてもその存在があるかぎり、ごく短時間なら離れていても、稼働しつづける。
ゆえに、この添い寝の場面と、このあとのツクヨの寝顔配信には、一定の層から人気があった。たとえ暗くなり、ほとんど見えないとしても。
――だから、考えるものはいなかった。
「で……? 本当によいのか?」
伸ばされたツクヨの手が一度その表面をゆっくりとなでてから、添い寝する〝少年〟の面を外した。
「ん? なにが?」
「あの超新星のことじゃ。おそらく、あのものはアレらや、わらわたちと同じ……」
「ああ。そのこと……」
――その見えない暗闇の中。
だれも観ていないふたりっきりとなった素の〝少年〟と〝幼女〟がなにを話しているかなど。
金色の髪と赤い瞳の〝少年〟が笑う。
「問題はないよ。たとえ次元の壁を壊せるほどのでたらめな力があろうと、ただ力だけなら、僕たちの禍にはなりえない。心配しなくても〈五輝星〉にまかせておけばいいさ。いまは……ね」
「しかしのう……」
「んー。もし君のお世話をやめてもいいんなら、なんとか能力を割けそうだけ、痛っ!?」
それを聞いてしかめっ面になったツクヨは、話し終わる前に〝少年〟の鼻をきゅっとつまんだ。
「このいじわるめ……! まあ、おぬしがそこまでもうすならばもう言わぬ。それに、今日は少しばかりよけいな力を使って疲れた。わらわは本当に……もう……寝るぞ……」
「痛たた……ああ。おやすみ。ツクヨ。よい夢を」
「うむ……。おやすみ……。ソ…………」
ほどなくして、ツクヨは「すう……。すう……」と心地よさそうな寝息を立てはじめた。
少しのあいだ、赤くなった鼻をおさえていた〝少年〟はそれを見とどけると、ふっと微笑み、一度だけその銀の髪をそっとなでてから、ふたたび従者の面を被り、音を立てないよう、ゆっくりと静かにダンジョンを出ていった。
長い一日が、終わる。
そして、明けて今日が――元ダンジョン暮らしの少年、 万ユーリとその発見者、花房フタバの探索者協会からの召喚命令の日。
ということで、〈双天〉ツクヨ姫さまが青く光ったり、めっちゃ飲みまくったり、添い寝したり、かと思えば執事くんが……? だったり、盛りだくさんの回でした。
思わせぶりなあれこれは、いずれ明かしたいと思います。
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では、また次回「呼びだされた元ダンジョン暮らしの少年、観て視て、視られる」にて。
ひさしぶりのユーリとフタバの登場。いよいよ探索者協会召喚命令編突入です。〈五輝星〉を含む新キャラ続々登場予定! 次回はまだその導入ですが、まずは間接的に邂逅をはたします。
9月14日に更新!
これからもよろしくお願いいたします!