僕の彼女の妹さんは、こわいいアイドルさんでした
思い付き突発短編です。
どうぞお楽しみください。
「……あの、話って何ですか……?」
強張った顔。
冷たい視線。
校舎裏に呼び出した静根さんは、僕に警戒した態度を向けてくる。
それも無理はない。
きっと誤解してるんだよね。
だから僕は真っ直ぐに気持ちを伝える!
「静根さん!」
「……はい」
「あなたの事が好きです! 僕と付き合ってください!」
「……えぇ!?」
固かった表情が一変。
真っ赤になって驚く静根さんが可愛い。
「わ、私ですか!?」
「はい!」
「い、妹ではなく!?」
「はい!」
「……ば、罰ゲームか何かですか!?」
「そんなんじゃないです! 心からあなたが好きなんです!」
「……だ、だって、こんなデカい女……。アイドルやってる妹の方が全然可愛いですし……」
俯いてしまう静根さんも可愛い。
彼女の妹さん、静根愛は、その抜群の可愛らしさと歌唱力で一躍有名になり、今やダンスに演技に声優までこなすスーパーアイドルだ。
そして今年の春、高校一年生になった妹さんは、この高校に入学した。
学校中が大騒ぎになり、入学式を見ようと生徒やマスコミが集まって怪我人まで出る騒ぎになった。
まぁ将棋倒しの下敷きになって、怪我したのは僕なんだけど……。
「てっきり妹に紹介してって話かと……。今までも何度も頼まれましたし……」
静根さんの誤解はもっともだ。
入学したとはいえ、仕事でなかなか学校に来ない妹さん。
となると同じ学校に通う、姉である静根さんに目が向くのは避けられなかった。
『サインもらってきて』
『お家に遊びに行っていい?』
日々積み重なる無遠慮なお願いを、慣れた様子でかわす静根さん。
元々一部の生徒には『アイドルの姉』と知られてはいたから、断るのに慣れているのは知っていた。
一年の時から同じクラスだったから、「大変だねー」なんて話も時々していた。
でもこの熱狂で流石に疲れた様子に、勝手ながら『僕が守りたい!』って思ったんだ。
「静根さんには妹さんの事とか、背が高い事とか、コンプレックスはあるのかもしれない」
「……」
「でもそういうのも含めて、僕は静根さんが好きなんだ! 僕の彼女になってください!」
これが僕の正直な気持ちだ。
……どう、だろうか……。
「……あの……」
「な、何?」
「……透流って呼んで、ください……」
「……え?」
「『静根さん』だと、妹もそうだから……。本当に私の事が好きってわかるように、その……」
……じゃあ、オッケーって事!?
「ありがとうしず……、透流さん!」
「こ、こちらこそよろしくね、天音君……」
「……ちなみにさ、僕も『とおる』なんだ……」
「え……?」
「僕の下の名前。通行の通で『とおる』……。だから僕もそう呼んでほしいな……」
「……うん! と、通君!」
「ありがとう、透流さん」
「な、何か変な感じだね……」
「そ、そうだね……」
僕らは声を合わせて笑った。
あぁ、何て幸せなんだ!
これから僕は透流さんと、残り一年の高校生活を幸せいっぱいで過ごすんだ!
……と思っていたその日の夜。
僕は拉致られていました。
「お前が天音通かぁ? けっ、平凡なツラしやがって……」
彼女の妹さんに……。
「お姉ちゃんが『彼氏ができた』って連絡来て、青年実業家か石油王かと思って調べさせたら、ただのクラスメイトぉ? 舐めとんのかコラァ!」
「ひ、ひぃ! すみません!」
家でのんびりしてたら妹さんを名乗る人から電話がかかって来て、何で電話番号知ってるんだろうと思いながら言われるままに家を出た。
そうしたら黒い服の方々が僕を車に押し込み、熟練の運送業者さんみたいに手早く縛り上げると、スタジオらしい部屋に連れて来て椅子に座らされた。
そして黒服の人達と入れ違いに入ってきた美少女から、ドスの効いた声でオラつかれてる……。
悪夢だってもうちょっと加減を知ってるよ……。
「あたしはなぁ……。てめぇみたいな悪い虫がお姉ちゃんに付かないよう、これまでアイドル頑張って来たんだよ……」
「えっ?」
「だってそうだろう!? 背が高くてスタイルが良くて、ハスキーめの声も甘くて敬語がデフォで、性格は優しくて控えめだけど芯はきっちりしてて……」
「あ、わ、わかります」
「わかるな!」
「すみません!」
透流さんの事語ってる時は可愛いのに、キレると怖い!
「そんなお姉ちゃんだから、その魅力を損なわずに馬鹿な男から守るために、あたしが男受けする可愛いアイドルを演じてんだよ! 馬鹿がこっちに集まるように!」
「それでうちの高校に来たんですか……」
「そうだよ! より近くで守るためになぁ! そしたらどうだよ!」
妹さんが足を踏み下ろすと、ダァン!とすごい音がした。
めっちゃ怒ってる。怖い。
逆効果でしたねって言ったら骨を砕かれそう。
「てめぇみたいな『特徴がないのが特徴です』みたいなモブ蔵が、何お姉ちゃんのハートを射止めてんじゃコラァ!」
「そ、そんな事言われても……、一年の時から掃除とか真面目に綺麗にするところとかがいいなって思ってて……」
「わかるぅ! 家でも自分の部屋だけじゃなくて、リビングとかもすっごい綺麗にしてくれててさぁ!」
わ、何か急に態度変わった……。
あ、我に返った。
「んんっ……。と、とにかくお前みたいな奴にお姉ちゃんを渡したりはしねぇけど、その、他に学校での様子はどうなんだ……。あ、あたしの事とか……」
「えっと、学校では話すと騒ぎになるから、自分から話す事はないけど……」
「そ、そっか、そうだよな……」
「でも話題を振られると嬉しそうに笑うよ」
「マジか! マジなのか! あたしの話を嬉しそうにするのか!」
「う、うぐ……」
え、襟首を掴まれると、く、苦しい……。
アイドルって、力つよぉい……。
「おい! どうなんだ!?」
「う、うん、嬉しそう、だよ……。特に、『妹さん、頑張り屋さんだよね』って、言われた、時には、『自慢の妹です』って、はにかんで」
「おい映像ないのか映像! 音声だけでもいい!」
「ぐええ……。な、ないです……」
「くそっ……! お姉ちゃんの声で聞きたかった……!」
投げ捨てるように椅子に下ろされる。
はぁ、苦しかった……。
でもそうか。この子はとにかく透流さんの事が大好きなんだ。
そしたら急にできた彼氏にびっくりするのも無理ないよね。
……まぁ拉致はどうかと思うけど……。
「あのさ、これから透流さんの」
「あぁ!?」
「……お姉さんの学校での様子、教えていこうか?」
「な、何!?」
「それとなく君の話題も振って、その反応とかも教えてあげられるよ」
「録画は可能か!?」
「……音だけなら……?」
「そ、それでもいい!」
すっごい食いつき……。
何でそんなに知りたがるんだろう……。
「あの、何でそんなにお姉さんの事気にするの? 間違いなくお姉さんは君の事好きだと思うけど」
「……お姉ちゃんはさ、優しいから、ちょっとやだなとか、迷惑だなとか思っても、笑って流しちゃうんだよ……」
「……あぁ、それはわかる……」
全然知らない人から妹さんの私物が欲しいとか頼まれても、曖昧な笑顔浮かべてやんわり断っていたもんなぁ。
「だからあたしに嫌な部分があっても、言わないで我慢しちゃうと思うんだよな……」
「ない、とは言えないけど……」
「……だよなぁ……」
「でも『自慢の妹です』って言ってた透流さんに、そういうのはなかったと思うんだ」
「! ほ、本当か!?」
「うん。あ、単なる僕の感想だけど」
「……」
慰めでも何でもない。
あの時の嬉しそうな顔が嘘だったら、僕の告白を受けてくれた笑顔も嘘になっちゃうと思うから。
「……よし」
「え?」
「とりあえず一時的に緊急措置として暫定的にお前をお姉ちゃんの彼氏と認めてやる……」
「あ、ありが」
「ただし! これはあくまで今だけだ! お姉ちゃんを泣かせたり、傷つけるような事をしたら、社会的にも物理的にもまともに歩けなくしてやるからな!」
「う、うん」
やっぱり怖い!
「……今だけだ……。あたしのファンが政界に進出して、姉妹の同性婚を国に法的に認めさせるまでの我慢だ……」
何か怖い事呟いてる……!
「……じゃあお姉ちゃんの笑顔のために、不本意だけど協力しろ……」
「……」
差し伸べられる手。
だけど僕はその手を握れない。
「……あの、とりあえず、これ解いて……」
「あ」
僕の波乱の恋路は、こうして始まったのだった……。
読了ありがとうございます。
最初は『妹ばかりがチヤホヤされてる姉が、自分を好きだと言ってくれた同級生にドキドキする』を書きたかったんですが、どうしてこうなった……。
でもヒロインは透流です。
ちなみに名前の由来は、最初透流を背の高い『tall』からつけたのですが、「妹を愛にすると、『アイドル』になるなー」から、妹の名前が決まりました。
静根は『シスコン』から。どっちも姉妹愛ありますから……(震え声)。
天音通は、普くから音を当てたので、まぁ、そういう事です。
透流と通で被ってしまった状態ですが、二人のやり取りがいい感じなのでヨシ!
お楽しみいただけましたら幸いです。