クランいかがです?
先ほどの騒ぎから少し経ち、冒険者協会の中も落ち着きを取り戻しつつあった。
奥の椅子に座りながらイルバニアが不貞腐れた表情のアンジュに話しかける。
「本当によかったんですの?クランに入らなくて」
「別にいいよ。あんな奴いるとこ・・・。寧ろ入る前にわかって感謝したいくらい」
「まぁ、アンが決めたのならそれでいいのですが・・・。でも、これからどうしますの?」
「どうって?冒険者になるよ?」
「それはそうでしょうけど・・・。貴方の目的のためにも依頼の多いクランの方がいいのでなくて?」
「効率はいいよねー。でも、ボクって結構我儘でしょ?やっぱり誰かの下に着くのはむいてないと思わない?」
「思いますわ。我儘ですわ。」
即答するイルバニアにアンジュが苦笑いを浮かべていると、キトがアンジュに向かって言う。
「・・・大丈夫です。・・・アンジュ様は優しいです」
「嬉しいなぁ、キッちゃん大好き」
アンジュがキトを抱きしめるのを見たイルバニアは大きな溜息をついた。
少し後、受付カウンターに人が現れ冒険者達は次々と依頼を受けていく。
冒険者が少なくなり始めた頃、アンジュは2人に声をかけ受付に歩き出す。
「おっはようございます!今日も1日頑張っていきましょう!」
受付に着くや否や、満面の笑みで大声で挨拶をしてくる女性にアンジュは返事を返すがイルバニアは若干引き気味に返事をする。
「ややっ!?貴方方は見ない顔ですねぇ・・・。ははぁ~ん・・・さては、さっきそこで喧嘩してたって噂の人ですかぁ!?」
「そうですね。暴れちゃって、すみませんでした」
頭を下げるアンジュに女性は笑いながら答える。
「気にしない、気にしない!相手はあのギーグさんなんでしょう?あの人、性格悪いですよねぇ!私も鍛えてたら何発か殴ってやりたいですもん!」
そう言いながら、左右の拳を交互に突き出す彼女にアンジュは同調し笑い声をあげるが、イルバニアは顔を引きつらせていた。
「ところで・・・。今日はどのようなご用件で?依頼申請ですか?お届け物ですか?それとも・・・私が目当てですかぁ!?いや~、参ったなぁ」
「んーん、違います。冒険者登録をしたくて」
わざとらしく照れている女性に用件を伝えると、女性は納得したように頷き紙を差し出す。
「それでは、読んで納得したらお名前をどうぞ~」
受け取った紙には協会との契約のようなものが書かれていた。
内容を流して読んでいると、最後の1文にこうあった。
・死んでも文句は言いません
それを見てアンジュは僅かに笑い名前を書いているとイルバニアが耳打ちをする。
「キトにも書かせるんですの?あの子に戦いは無理でしょう?」
アンジュが見るとキトは紙をじっと眺めていた。
「キッちゃん。どうしたい?」
「・・・アンジュ様達と一緒がいいです」
わかった。と、微笑みイルバニアの方に向き直る。
「登録だけなら問題ないんじゃない?」
「それは・・・そうですけど・・・」
イルバニアはあまり納得していないようだったが、アンジュは笑いながら肩を叩く。
3人は名前を書き、女性に手渡すと奥に下がり直ぐに戻ってくる。
「ただいま冒険者用のネームプレート作成してますので、その間・・・お話しませんかぁ!?」
満面の笑みを浮かべる女性の誘いに快く返事をしてプレートができる間、談笑を始めた。
かなり陽気な彼女の名前は、メルエと言い自称・人気看板受付嬢との事だった。
「と・こ・ろ・でぇ、皆さんはクランに入るんですかぁ?」
「え?いや、特に予定はないですね」
「なるほどぉ・・・。どこに宿泊してます?もしかして・・・橋の下とかですかぁ!?」
「いや・・・普通に宿借りてますけど・・・」
質問の意味が理解できずに不思議そうな顔をするアンジュ達に、メルエは大げさな反応を見せる。
「あぁ~・・・勿体ない!宿代だって結構するじゃないですか!そ・れ・に、冒険者と言ったら色々とお金が入用ですよねぇ?」
「まぁ・・・そうですね。でも、家を買うにはお金が・・・」
「そ・こ・でぇ!私からの素敵な提案です!皆さんでクランを作ってみては如何ですかぁ?冒険者協会では、な!な!な!なんと、1つのクランに1軒のお家の貸し出しもやっております!家賃は報酬の2割です!くぅ~、なんて素敵な話なんでしょう・・・。どうです?どうです!?」
興奮気味に身を乗り出す彼女に圧倒されたが、とりあえず話を聞くことにした。
彼女は尚も熱く話し出す。
・クランの家は好きな時に退所してもよい(ただし、事前に報告する事)
・あくまで家賃は報酬から引かれるだけで他の収入は関係ない
・依頼を受けなくても住んでもよい(報酬もないため家賃は不要)
・決められた範囲内なら自分たちのお金で増築してもよい
・かなり高額だが買取も可能
との事だった。
考えるアンジュに、イルバニアが耳打ちをする。
「・・・なんか怪しくありませんこと?というか、2割は高すぎじゃなくて?」
「かもね・・・。でも、実際宿に滞在し続けるのも限界はあるし」
2人が話し合っていると、メルエが奥に下がり戻ってくる。
「はいは~い。皆さんのプレートです。無くさないでくださいねぇ~?」
全員が受け取ると、メルエはカウンターを抜け出し笑顔を見せる。
「とりあえず、行きましょうか?」
「え?」
「物件ですよ~。見てから決めるのもありですよぉ~」
そう言ってメルエは歩き出し、アンジュ達も彼女の後を追う。
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