ハイエナの牙
集落の入り口に着き、視線は変えずに呟く。
「イルバ、分ってると思うけど・・・」
「わかってますわよ・・・」
不貞腐れたように吐き捨てる彼女に、眉が八の字になるが・・・大声を出す。
「すみませーーん。誰かいませんかーー?」
辺りに声が響くと、奥からぞろぞろと数人の男達が現れ・・・怪訝そうな顔で2人を見る。
「誰じゃ、お前ら?何でうちの道具連れてんじゃ?」
1人の男が凄んで質問をするが、表情は崩さず笑い続ける。
「ボクは、アンジュ。こっちは、イルバニア。森の中歩いてたら、この子と連れの男の人が魔物に襲われててね。何とかこの子だけは助けだして、家を聞いたら・・・ここだって言うから連れてきたんだ」
「・・・本当か?その場所は何処だ?」
アンジュが男達に説明をしている間・・・イルバニアは全員をじっくり観察する。
(この程度なら楽に殺せますでしょうに・・・)
いっそ今ここで・・・。
苛立ちを募らせていると、男達と会話をしながら彼女が横目でチラリと見る。
言いたいことを察し、軽く舌打ちをしてそっぽを向く。
「わざわざ、ありがとうよ。嬢ちゃん達。何だったら休んでいくかい?お礼もしたいしな」
「お気持ちだけ受け取るよ。ボク達も急いでるからね。それじゃあ」
それだけ言い残し、2人は足早にその場を後にする。
荷馬車が通ってきたであろう道を無言で歩いていると、イルバニアが口を開く。
「アンは・・・本当によかったんですの?」
「何が?」
「あの子のことですわよ。本当に助けなくて後悔してませんの?」
「してないよ」
普段と変わらない表情の彼女だったが・・・その顔はいつもより悲しげに見えた。
そうですか。と、だけ言い・・・それ以上、口を開くことはなかった。
日も落ちかけた頃・・・小さな村が見えた。
「今日はここで休ませてもらおうか」
アンジュのその言葉に同意し、村の中に入っていく。
村に入ると村人達は2人を見ると、何やらひそひそと話し始める。
その光景を不思議に思いながらも、2人は宿探しを続ける。
「すみませーん。この村って宿屋ありますか?」
「あ、あぁ・・・宿ならあるが・・・。君達は?冒険者か?」
「いや、これからなる予定だけど・・・今は旅人です」
目の前の2人を品定めする様に見つめる村人に・・・嫌な予感がする。
「なぁ、旅人さん。宿には案内する・・・ただ、その前に村長さんに会ってくれないか?」
「・・・もしなにか面倒事だったら止めてほしいんだけど」
やっぱりか。と、先手を打ったが・・・村人に押し切られ、強引に村長の家まで案内される。
村長の家の中に入ると、そこには数人の村人達が話し合いをしていた。
一気に視線が2人に集まり、居心地の悪さを感じる。
案内をした村人が、村長らしき人物に耳打ちをする。
「ようこそ旅のお方。宿をお探しの様ですな」
「はい」
「ご案内しますが・・・少し、話を聞いてくれませんか?」
「それは・・・子供が攫われた。と、いう話でしょうか?」
村人達が一斉にどよめく。
やっぱりか・・・。と、溜息をつくと、隣のイルバニアが表情こそ変えなかったが拳を強く握りしめるのが見える。
「何故それを・・・?なに「子供の場所を知ってるんですか!?お願いです!教えてください!」
村長の言葉を遮り・・・先ほどまで泣いていた女性が前に詰め寄り聞いてくる。
その勢いに気圧されていると、代わりにイルバニアが説明する。
「この村から南西に行ったところに、集落みたいなのがありますわよね?そこに荷馬車で運ばれるのを見ましたわ」
説明を受け、周りの村人達は騒ぎ出す。
そんな中・・・村長が2人に懇願する。
「お二人にお願いです。どうか、攫われた子供を助けては下さいませんか?」
頭を下げる村長に、村人達は口々に言う。
「村長頭を上げてください。こんな小娘達に頼まなくとも、冒険者協会に依頼を出せば助かります!」
「そ、そうです!居場所は分かったんだ、冒険者が来てさえくれれば」
小娘と呼ばれ若干ムッとしたが、小さく息を吐き誤魔化す。
「それじゃあ遅いと思うよ。あいつらは何時までもあそこにいるわけじゃないし、依頼を出しに行ってる間に居なくなるんじゃない?それに、冒険者は来ないと思うよ。魔物相手ならまだしも、人間を殺す覚悟で冒険者なってる人なんていないでしょ?」
その場に静寂が流れる。
その静寂を破るように、1人の村人が言う。
「だ、だったら・・・あんたらが助けに行ってくれよ!まだ子供なんだぞ!?この村だけじゃない・・・近くの村からだって攫われてるんだ。礼なら出す!な、皆?」
その言葉で、家の中にいた村人全員が頭を下げ口々に頼み込む。
これは・・・どっちだ?
イルバニアがアンジュの顔を見ると・・・僅かに怒りが浮かんでいるようだった。
「お断りします。ボク達には関係ことだ。場所は教えたんだ、行きたいなら自分達でどうぞ」
その言葉にイルバニアが小さく溜息をつくと、先程までの態度とは打って変わり・・・罵声が彼女達を襲う。
小娘と呼んでおきながら、よくもまぁ・・・。
呆れた表情を浮かべていると・・・その中で一人の男が声を震わせ詰め寄ってくる。
「俺達だって行けるもんなら行くさ。けど、あいつらは本当にやばいんだ。昔、あいつらに子供を助けようと抵抗した奴が殺された。痛めつけられて、最後は子供の目の前でだ・・・。そんな奴らに、力のない俺達が敵うもんかよ!」
村人の中には泣き出す者まで出てきたが・・・村長が一喝する。
「よさんか!・・・すまなかったな、旅の人。宿に案内しよう、ついてきてくれ」
泣き声と罵声を背に、2人は村長の家を後にした。
宿に歩く道すがら、イルバニアは村長に質問する。
「先ほど、『あいつら』と申しておりましたが・・・知ってるんですの?今回が初めてではないんですの?」
「・・・『ハイエナの牙』という集団をご存じか?」
「・・・いいえ?存じませんわ」
「無法者の集まりで、人身売買・殺人・窃盗などをやっている集団です。この村にも、5年前に現れてから定期的に訪れてくるようになったのです」
「そんなに前から?兵士に頼んで討伐してもらえませんの?」
「ここダムリは他の大陸とは違います。主要な都市に兵士はいますが、最低数しかおりません。こんな山の中まで派遣してくれることはないのです。・・・さぁ、着きましたぞ」
気が付くと宿の前に着いており、2人は村長に礼をする。
「力になれなくてすみません」
力になる気など毛頭ないくせに。と、イルバニアは冷たい視線を向ける。
「こちらこそ・・・無理を言って申し訳ありません。ごゆっくりお休みください」
立ち去ろうとする村長だったが・・・アンジュが呼び止める。
「最後に一つ。キトって女の子のご両親はこの村に?」
村長は立ち止まり不思議そうな顔で聞き返す。
「キトをご存じで?」
「まぁ・・・それで?います?」
村長は少し考えた後、ゆっくりと口を開く。
「先ほど言った、『ハイエナの牙』に抵抗して死んだ者がキトの両親ですが・・・」
「「・・・は?」」
冷たい夜風が、2人の体を包み込んだ
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