希望と絶望
食事の片づけを終えて水汲みに出かけるイルバニアだが、一つだけ違う点はいつもより上機嫌であることだろう。
「それではお義母様、行ってきますわ」
養母の返事を背に帽子をかぶり、腰にランタンを下げて勢いよく家を飛び出すその姿に、養母は微笑みを浮かべ見送った。
村の中を満面の笑みで歩く彼女に、すれ違う村人たちは笑いながら声をかけていくと、彼女も立ち止まり、丁寧に一人一人に頭を下げて挨拶を返す。
一通り挨拶を終え、村の外に駆け出していく彼女には・・・いつもより外の景色が明るく見えていた。
水源に続く道に差し掛かると、そこに見慣れた人物が歩いてくるのが見えた。
「おはようございますわ。雑貨屋さん」
「おはよう、イルバニアちゃん。今日も水汲みご苦労だね」
雑貨屋の主人は笑いながら答え、二人は暫く会話をしてそれぞれの道を歩き出す。
仕事を終えると近場の岩に腰を降ろし、相変わらずの緩んだ顔で昨日、養父母にもらった帽子とランタンを眺める。
自分のために養母が作ってくれた帽子、養父が・・・村の皆が買ってくれたランタン。
この村に来て沢山の物を与えられてきた彼女だったが、今回の贈り物は一生の宝物になるだろう。
自分の居場所はここにある。
彼女は再び頬を緩ませ・・・何時までも贈り物を眺め続ける。
(いけませんわ。嬉しすぎてつい・・・)
贈り物を眺めるのに夢中で、水源に着いてからかなりの時間を費やしてしまった。
村を出る時に会った人達以外にもお礼をしようと考えていたが・・・時間が経ちすぎた。
実際は村人達は基本的にあまり村から出ない為、時間など持て余すほどにある・・・が、一刻も早く感謝の気持ちを伝える事と貰った物を身につけた姿を見てもらいたい一心で、村への帰路を走り続ける。
(なんですの・・・あれ・・・?煙・・・?)
その時・・・村の方角から煙の様なモノが上がっているのが見える。
あの村にはあんなに目立つように煙が立つ施設なんてないはず・・・。
妙な胸騒ぎを覚え、村へと急ぐと・・・徐々に煙は大きくなり、微かだが血の匂いも感じられる。
嫌な汗が全身に流れる。
急がなければ・・・!
持っている桶を投げ捨て、無我夢中で村へと向かった。
村の入り口まで近づくと・・・誰かが横たわっているではないか。
その姿を捉えた時・・・目を見開き、急いで駆け寄る。
「おじ様!!」
そこにいたのは・・・今朝すれ違い挨拶をした雑貨屋の主人だった。
彼女が叫びながら近づくと、雑貨屋はまだ息がある様で・・・身体を動かし、乱れた呼吸のまま、微かな声で返事をする。
「イルバ・・・ニア・・・ちゃん?無事で・・・」
言い終わる前に、彼が咳き込むと・・・口からは大量の血が溢れてくる。
「おじ様、大丈夫ですの!?しっかりしてくださいまし!?」
懸命に励まし、傷を見るが・・・医術の心得など無い彼女にはどうする事も出来ない。
動揺する彼女に、雑貨屋の主人は力を振り絞り告げる。
「兵隊達が・・・村に・・・」
「兵隊・・・?」
全てを理解した。
昨日、村に来ていた連中だろう。
あの旅人が連れてきた連中で間違いない。
あの時・・・殺していれば・・・!
途端に心の中でドス黒い何かが広まっていく。
衝動に駆られ、走り出そうとするが・・・その手を雑貨屋の主人が握る。
「ダ・・・メだ。狙いは・・・君・・・だ。早く・・・この村から・・・離れ・・・」
最後まで言い終えることなく、握っていた手が力なく地面に落ち、雑貨屋の命の灯が・・・消えた。
「おじ・・・様?おじ様!?おじ様ぁ!!」
何度揺すっても、何度声をかけても、彼が返事を返すことは・・・もうなかった。
怒り、悲しみ、憎悪。
その全てを胸に抱き・・・村の中へと走り出す。
目の前に映るのは悲惨な光景。
既に幾多の建物に火が放たれ、道端には村人の遺体が転がっている。
今朝の平穏な光景がまるで遠い昔のように感じられ・・・心の中には、より一層ドス黒い何かが広がっていく。
その時、村の中央に人だかりが見え・・・複数の兵士達に囲まれている村の人達が見える。
そしてその中には・・・
「お義父様!お義母様!」
養父母の名前を叫ぶと同時に・・兵士達は一斉に振り向き、彼女に向かって武器を構える。
その中の1人・・・指揮官らしき男が前に出て、彼女を探る様に見る。
「なんだ、まだいたのか・・・。父?母?どいつのガキだこいつは?」
無機質に放たれたその声に続き・・・怯えたような声が辺りに響き渡る。
「あ、あいつだ・・・!あいつが『忌み子』だ!間違いない!」
その声の主は、見なくても分る。
その声を聞くだけで、動悸が激しくなるのが分かる。
忘れもしない・・・恐怖に満ちたあの顔は、あの時の旅人だ。
殺す・・・!
怒りに駆られ走り出そうとするが・・・
「動いてもいいぞ?・・・こいつらがどうなってもいいのならな?」
目を向けると・・・兵士達が一村人達に向け剣を突き出している。
村人達の悲鳴や怯えた声が・・・その足を止める。
怒りを露わにする彼女に、指揮官は鼻を鳴らし口元を歪める。
その態度が・・・彼女を刺激するのには十分であった。
怒りの余り握りしめたその拳からは・・・血が流れだしていた。
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