ツーリスの悲劇②
岩の槍が魔物に直撃した。
怒りを滾らせている彼女は肩で息をし、貫かれたであろう魔物を睨みつけている。
しかし・・・魔物は平然とした顔でこちらを見ている。
直撃はしたはずだが・・・砕かれたのは岩の槍の方だった。
なんで・・・!。驚きよりも怒りが込み上げる。
通常ならば霊域外の魔物は内部の魔物よりも弱体化しているはず。
自分の霊法が負けるわけがない。
怒りに任せ何度も霊法を唱え続けるが・・・岩の槍は傷一つ付けることができずに砕けていく。
怒りを燃やし睨みつける彼女とは対照的に・・・魔物は不気味な笑みを浮かべる。
その表情はまるで・・・彼女を挑発するかの様にも見える。
だが、怒り狂い我を忘れているアンジュは無謀にも更に霊法を唱えようと霊力を練り上げる・・・が
「ナンダ?モウオワリカ?ニンゲンハヨワイナァ」
魔物が笑いながら言葉を発した。
時が止まったように思えた。
先ほどまでの怒りは何処にいったのか・・・全身に流れる汗が止まらない。
魔物が言葉を話すことなど通常ではありえない。
恐怖・・・とはまた違った感覚が襲い掛かってくるのを感じる。
攻撃することも忘れ立ち尽くしている彼女を見て、魔物は更に不気味に笑い自らを縛り付けている蔓を引きちぎり彼女に向かって走り出す。
まずい。
危機を感じながらも・・・身体は動かない。
魔物の動きを少しでも止めるため、再び棘の鞭を出そうとするが・・・霊力はもう残っていない。
霊法は発動せず・・・代わりに全身に途轍もない衝撃が走り、後方に飛ばされる。
幾らかの死体にぶつかりながら地面を転がり、最後に壁に全身を打ち付ける・・・
打ち所が悪かったのか・・・意識が朦朧とし、呼吸が苦しく、血が溢れてくる。
全身の痛みに耐え立ち上がろうとするが・・・全く力が入らず、悠々と歩いてくる魔物を見ることしかできなかった。
迫りくる魔物を睨むこともできずに見ていると・・・隣に1匹の魔物が近づいてくる。
2体は何かを話しているようにも見えたが、直ぐにこちらに向き直り歩み寄る。
新たに現れた1匹は、蜘蛛に人間の女性の上半身が生えているような不気味な姿をしていた。
しかし・・・アンジュにとったら魔物の姿など、どうでもいい。
それよりも・・・魔物が持っている物に、朦朧としていた意識が再び蘇る。
蜘蛛の魔物の手には人間の頭部が握られており・・・彼女はその顔を知っている。
嘘だ。嘘だ。と、現実を拒み続けるが・・・近づいてくるにつれ、はっきりと顔が認識できる。
それは・・・最愛の母親の頭部だった。
信じたくない。
現実を拒み目を背けるが・・・更なる悲劇が彼女を襲った
自分が吹き飛ばされた時にぶつかった死体の中に、親友の・・・モクマの姿がある。
その目にはすでに光がなく・・・命はとうに消えているのだろう。
変わり果てたモクマの姿を見て、思考が止まり・・・完全に心は折れた。
(・・・これはきっと・・・夢・・・だよね・・・)
目の前の現実を受け容れまいとする彼女の前に、魔物達が邪悪な笑みを浮かべ立ち尽くす。
「オマエ、コノムラデハイチバンツヨカッタナ。マァ、エサノナカデハダケドナ」
その言葉は彼女の耳には届かない。
彼女は既に・・・現実を受け止める事さえ止めてしまっていた。
赤い魔物はそんな彼女の髪をつかみ持ち上げると、嘗め回すような視線を向けてくるが・・・痛みと戦意喪失した彼女にはどうすることもできない。
彼女は・・・夢から覚めようと目を閉じ最後の時を待った。
その時・・・何かが聞こえ体が少し揺れる。
聞こえてきたのは魔物の声と・・・
(お・・・とうさん・・・?)
幻聴だろうか?
聞き覚えのある声に閉じた目を開けると、赤い魔物に必死にナイフを振っている父親が見えた。
「アンジュ!大丈夫か!今助けてやる!」
父親が必死に叫びながらナイフを振るうが魔物には傷1つ付けることができずに・・・ナイフの方が先に砕け散る。
魔物が笑うが・・・父親は怯まない。
精霊石を奪おうと手を伸ばすが外れるわけもなく・・・血の跡が付くだけだった。
(・・・もう・・・いいから・・・。にげ・・・て・・・)
必死の父親に伝えようとするが声が出ない。
彼女は意味のない抵抗をする父親を見ていることしかできなかった。
魔物は掴んでいたアンジュを投げ飛ばし、今度は父親の頭を鷲掴みにし・・・ニタニタと笑いかける。
投げられた彼女の身体に激痛が走り痛みに顔を歪めるが・・・それどころではない。
必死に父親の方に顔を向けると、掴んでいる手を振りほどこうと懸命に抵抗している。
それを嘲笑うかのように・・・魔物は一層邪悪に笑い、手に力を籠める。
(・・・だめ・・・やめ・・・て・・・)
彼女の願いも空しく・・・生々しい音と共に父親の頭が潰れ、父親だったモノの身体は力なくその場に倒れこむ。
アンジュの中で・・・何かが切れた。
大切な者全てをを失った人形は、光の消えた目で・・・父親だったモノを見ていることしかできない。
最早、戦意も体力も守るべき者も・・・全てを失い横たわる彼女に、魔物は笑いながら歩み寄る。
何かを喋っているようだが・・・彼女の耳には届くことはない。
再び、髪をつかまれ持ち上げられた時・・・彼女の目に映ったモノは、魔物の後ろにいる大きな鎌を振りかぶった死神のような影だった。
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