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9.ゴブリンの群れを全滅させました

「家畜をお貸しするのは一向に構いませんが……一体どうなさるのですか?」


不思議そうな顔をする村長に、俺は言った。


「明日の夜、ゴブリンはまたやって来るはずです。それもおそらく、さっきのよりずっと多い数で。そのときこそ、彼らを全滅させなくてはいけません。そのために、家畜が必要なのです」

「なるほど。しかし……本当にまたやって来ますかな? バルツ様とメリレイナ様にとうてい敵わないのは、ゴブリン共もよく分かったと思うのですが……」

「あいつらも、好き好んでこの村を襲っているわけじゃありません。山に十分な食料がないから、わざわざ下りてきて食料を奪うんです。村が冒険者を雇ったからといって、そう簡単に諦めることはしないはずです。次はありったけの戦力で来て、俺達を排除しようとする可能性は高いと思います」


俺の説明を聞き終えて、村長はうなずいた。


「そういうことでございますか……よく分かりました。朝になりましたら、早速村の家畜を広場に集めさせましょう」

「それと、村の人達を避難させる準備をしておいてください。明日はゴブリンを、村の中に引き入れて戦います。そうしないと、かなりの数に逃げられてしまうでしょうから」

「承知しました。食料を持たせて避難する準備をいたします」


こうして、俺とメリレイナはもう一日、この村に滞在することになった。朝になると、馬や牛、豚といった家畜が村人に連れられ、広場に続々と集まってくる。それをテイムして自由に操れるようにしてから、村の人達に協力してもらって準備を進めた。


昼近くになり、準備が整ったので、一度村長の家に戻った。昼食を御馳走になってから部屋で休む。メリレイナとベッドに並んで寝そべっていると、彼女が話しかけてきた。


「バルツさん、最初から山のゴブリンを(おび)き寄せて、一網打尽にするおつもりだったんですね」

「ああ……そのために昨日は、何匹か見逃してもらった。1匹残らず仕留めてしまうと、村に冒険者がいるのが山のゴブリンに伝わらないからな」

「さすがです、バルツさん……」

「おいおい。おだてるなら全部終わってからにしてくれよ。まだどうなるか分からないぞ」


 ☆


再び夜が訪れる頃、俺とメリレイナ、それに村長は村の南側で待機していた。そこへ村人が1人やってきて報告する。


「バルツ様、女や子供、老人は食料を持って林の中に避難しました。他の者達も、バルツ様の指示通りに配置が済んでいます」

「ありがとうございます。村長さん達はもう下がってください。ここは危険になりますから」

「はいっ、それではどうぞ、よろしくお願いいたします……」


村長と村人が去り、俺とメリレイナだけになった。さらに待つこと数時間、昼間にテイムした小鳥が飛んできて、ゴブリンの出発を告げる。


ピイッ! ピイッ!


やっぱり来たか。その後もゴブリン達の動きを探らせていると、山からまっすぐ村に向かっているのが分かった。回り道をして北から襲ってくるというような、ひねったことはしないようだ。


そして、メリレイナが声を上げる。


「バルツさん、来ました」

「うん……」


メリレイナの指差す方を見て、俺はうなずいた。百匹近いゴブリンの集団が近づいてきている。同時にゴブリン達も、俺とメリレイナに気付いたらしく、棍棒を振りかざして駆け寄ってきた。


「「「ゴアアアァ!!」」」

「行くぞ!」

「はいっ!」


俺とメリレイナは戦うことなく踵を返し、村へと駆け込んだ。ゴブリン達は追ってくる。そのまま走り続け、村の広場に入った。もう少しでその広場を抜けるというところで、俺は短剣をふりかざし、合図を送った。


「それっ!」


合図を受けて、広場を囲む家々の2階の窓が開き、松明(たいまつ)やランプが差し出された。急に灯りに照らされ、ゴブリン達の動きが止まる。


「「「!?」」」


その瞬間、俺は家の陰に隠れていた家畜達を、広場に突っ込ませた。


「ブモオオォ!」

「ヒヒーン!」

「ブキイーッ!」


家畜達は2頭1組になっていて、お互いの間にロープを渡している。その状態で勢いよくゴブリン達にぶつかっていった。パワーでは人間に勝るものの小柄なゴブリンは、自分の体の何倍もある家畜との衝突に耐えられなかった。ある者は空高く跳ね飛ばされ、またある者はロープに引っ掛けられて転倒する。倒れたゴブリンは、容赦なく(ひづめ)に踏まれていった。


「うまく行きましたね、バルツさん!」

「ああ。よし、行こう」


俺とメリレイナは再度反転し、混乱するゴブリン達に斬りかかった。メリレイナの剣が振られるたびに、ゴブリンの首や手足が宙に舞う。そうやって大半はメリレイナが斬り倒し、仕留め損なったのを俺が拾っていった。


次々と仲間が討ち取られて行く中、何匹かのゴブリンはほうほうの体で広場から逃げ出そうとするが、武器を手にした村人達が彼らの行く手をふさいで仕留める。決して1対1でゴブリンと戦わないよう、俺はあらかじめ村人達に指示していた。


1時間ほど過ぎた頃、ゴブリン達が全て倒され、広場に大歓声が巻き起こった。


「やったぞ! これでゴブリンは全滅だ!」

「これで安心して畑仕事ができる!」

「もう家畜が奪われることもないぞ!」


村人の方は、何人かが軽い怪我をしているものの、命に別状のある者はいないようだ。


今度こそ、終わった。俺はゴブリン達の死体を見回してから、そっと目を閉じる。


安らかに眠ってくれ……


「バルツ様! メリレイナ様! よくやってくださいました!」


村長が俺達のところに駆け寄ってくる。続いて村人達も集まってきた。


「これで本当に、村は救われました。お二方は誠に、わたくし共にとっての救世主でございます……」

「皆さんが手を貸してくれたおかげです。俺達は大したことはしていません」

「そのような……本当に、ありがとうございました……」


村長が深々と頭を下げる。こうして、初めての依頼を無事達成した俺達は、翌朝、王都への帰路についたのだった。

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