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6.冒険者ライセンスが交付されました

「……?」


朝になって目を覚ました俺は、何とも言えない違和感を覚えた。


昨夜は確か、1階の長椅子で寝たはずなのだが、今はもっと柔らかいものの上に寝そべっているようだ。


「ここは……?」

「私の家ですよ。バルツさん」

「いや、そうじゃなくてだな……」


耳元で聞こえたメリレイナの声に、ぼんやりした頭で答える。俺が聞きたいのは、ここがメリレイナの家のどの部屋かであって……


ん? んん?


だんだん頭がはっきりしてきた。俺は目を開け、右側に顔を向ける。メリレイナの顔が、くっつきそうなほどの至近距離に迫っていた。


「おはようございます、バルツさん……」

「うわあああああ!!」


驚いて這いずり、メリレイナから遠ざかる。すぐに後頭部が硬いものにぶつかった。左側は壁だったのだ。


「いてえっ!?」

「大丈夫ですか!? バルツさん!」

「だ、大丈夫だ……それよりここ、お前のベッドだよな? 何で俺、ここで寝てるんだ!? 確か、1階の長椅子を使わせてもらってたはず……」

「あっ、はい。バルツさんがお休みになってからよく考えたんですけど、やっぱりバルツさんに長椅子なんか使わせて、お体でも冷やされたら大変って思いまして、失礼とは思ったんですけど、私がここまでお運びしました」

「ええっ……だったらせめて、1度起こして俺に聞くとか……」

「もしかして、御迷惑でしたか……? 私と一緒のベッドなんか、使いたくないとか……」

「いや、そんなことはないが……」


メリレイナが悲しそうな表情をしたので、俺は慌てて否定した。メリレイナは一転して笑顔に戻る。


「良かったです! じゃあ次からも、このベッドで私と寝てくださいね」

「いや、でも……俺がここで寝たら、お前の方が迷惑だろ?」

「え? 何がですか?」


メリレイナはきょとんとした顔をする。男と一緒のベッドで寝ることに対して、抵抗がないのだろうか。いくら腕っぷしが強いといっても、さすがに無防備過ぎると思うのだが。


「同じパーティーのメンバーなんですから、同じベッドで寝るぐらい当たり前ですよ」

「そういうものか……」


勇者パーティーでは、メンバー同士が同じベッドで寝ることなんてなかった。民間の冒険者は少しやり方が違うのかも知れない。


とりあえずここは、先輩であるメリレイナの言うことを聞いておくか……


ふとメリレイナの方を見ると、彼女は下着姿だった。上下とも生地の面積が小さく、乳房がはみ出しそうになっている。


「うわあああああ!! いてえっ!?」

「バルツさん!?」


驚いた拍子に、また後頭部を壁にぶつけた。俺はベッドに顔を突っ伏して言う。


「な、何か着てくれ……」

「そうですね。もう起きましょう」

「いや、できれば寝るときも何か着てほしいんだが……寝間着とかあるだろ? その格好だと、お前の方こそ体冷やすぞ」

「あ、それなら心配いりません。私、寝るときはいつもこの格好で、風邪とかひいたことありませんから!」

「…………」


 ☆


朝食を摂り終えた俺達は、早速冒険者ギルドに向かった。冒険者ライセンスを受け取り、すぐに依頼を受けるためだ。


ギルドの建物に入ってみると、すでに何人かの冒険者がいた。俺はまっすぐ受付に向かう。


「あっ、バルツさん。お、おはようございます……」


例の黒髪で眼鏡の受付嬢が、少し顔を赤らめながら挨拶する。俺も、少し気まずいものを感じながら挨拶を返した。


「お、おはよう……俺の冒険者ライセンス、できてるかな?」

「はい。こちらに……」


受付嬢は四角い小さな板を取り出した。金属板とガラスを重ねたもので、その間に紙が挟まっている。紙には俺の名前が書かれ、ギルドの所属する冒険者であることが記されている。Fランクであることも、しっかり書かれていた。


「ありがとう」

「今後は私、レファティラがバルツさんの担当受付嬢になります。よろしくお願いしますね」


レファティラという名前だったのか。初めて知った。俺はうなずく。


「分かった……それから、こっちのメリレイナとパーティーを組みたいんだけど、そっちの手続きもしてもらえるかな?」

「えっ? バルツさんが、メリレイナさんとですか?」

「そうです。私、バルツさんとパーティーを組みますから、早く手続きしてください」


メリレイナが身を乗り出して、受付嬢改めレファティラを急かす。レファティラは難しい顔をした。


「うーん……」

「どうかしたか?」

「いえ、いくら実力があるといっても、バルツさん、民間の冒険者は未経験ですよね? いきなりSランク冒険者と組んで仕事をするのは、難しいと思うんです」

「それはそうかも知れないが……しかし……」

「最初のうちは、ソロで活動してみませんか?」


レファティラは、ぐっと体をこちらに傾けた。張り出した乳房が、でんと机の上に乗る。


「うっ……」

「バルツさんさえ良ければ、私が非番の日について行って、いろいろ教えて差し上げます。Sランク冒険者のメリレイナさんが、Fランク冒険者とパーティーを組んで活動を制限されるのは、ギルドとしても……」


ドン!


突然、メリレイナが拳を机に叩きつけた。鈍い音が部屋中に響き渡る。俺は慌ててメリレイナを制した。


「お、おい……」

「失礼しました。ともかく、お節介はいりません。早く手続きしてください」

「…………」


レファティラが俺の顔を見る。俺は答えた。


「気持ちはありがたいけど、もうメリレイナとパーティーを組むことに決めたんだ。それに、休みの日にまで働いてもらうわけにはいかないし……」

「そうですか……分かりました。パーティーの場合も、新規で結成されたらFランクから始まることになります。今までメリレイナさんが受けていたような依頼は受けられませんが、本当によろしいですね」

「問題ありません。バルツさんと組んでいれば、ランクなんてすぐ上がりますから」


メリレイナが即答する。こうして、俺とメリレイナのパーティーは正式に発足したのだった。

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