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5.(追放者Side)勇者パーティー、拠点を奪還できず国王に叱られる

王都の外れにある小高い丘。その頂上付近は壁で囲われ、勇者パーティー専用の鍛錬場となっている。バルツを追放した翌朝、勇者パーティーは北方の拠点の町セデルンへの遠征を控え、その鍛錬場で調整を行っていた。


「おらあああっ!!」


勇者パーティーの重戦士ガドウズは、得物であるハンマーを両手で振り上げ、的である土の人形に振り下ろした。人形の上半身が跡形もなく吹き飛び、残った下半身が倒れる。


「うーん……」


ガドウズは、納得がいかないという表情でハンマーの頭をながめる。それを見て、勇者パーティーのリーダーであるマッセンが声をかけた。


「どうした、ガドウズ? 何かトラブルか?」

「いや、トラブルってほどじゃねえんだけどよ、調子が今一なんだよな。何つうか、昨日はもうちょっと力が出た気がするっていうか……」

「何? 君もそうなのか?」


マッセンは驚いた様子で、巨漢のガドウズを見上げた。ガドウズもまた驚いて聞き返す。


「えっ……? じゃあ、マッセンも……?」

「ちょっと待て……おーい! ジュリーヌ! アノリア! こっちに来てくれ!」


マッセンは残りの2人のメンバーを呼ぶ。程なくして、彼女達もまた、軽い不調を覚えていることが判明した。


「私もよ。ほんの少しだけど、炎の勢いが昨日より弱くなってるわ」

「私もそうです……そんなに長くじゃないですけど、的の人形を作るのに、昨日より時間がかかります……」


全員の話を聞き終えたマッセンは、独り言のようにつぶやいた。


「バルツだ……」

「えっ? バルツの奴がどうしたってんだよ?」

「バルツが、こっそり僕達にバフ魔法をかけていたんだ。器用な奴だったが、いつの間にかバフ魔法も使えるようになってたんだな……」

「……確かに、そう考えれば辻褄(つじつま)は合うわね。私達があいつを追い出したの、昨日のことだし」


ジュリーヌがマッセンの説に同意する。続いてアノリアが口を開いた。


「で、でも……バフをかけられたら急激に魔法の威力が上がりますから、すぐに分かりませんか? 私、全然気が付きませんでした……」

「……多分だけど、最初から一気に魔力を増幅するんじゃなくて、時間をかけて少しずつ増幅量を上げていったんじゃないかしら? それぐらいの芸当、バルツならできてもおかしくないわ」

「…………」


アノリアが黙り込むと、ガドウズはため息をついた。


「ふうっ……けどよ……なんだってあいつ、俺達に黙ってそんなことを……」

「あいつも、自分がいずれ追放されることは察しが付いていたんだろう。だから、自分が抜けた瞬間に僕達の力が落ちるよう、細工をしたんだ。急に力が落ちれば、僕達は当然、その状態に慣れるまで慎重に行動する。魔王の討伐を、先送りにできるって寸法だ」

「あの野郎、最後まで味な真似しやがって……」


ガドウズがぽつりとつぶやく。その後は、しばらく誰も何も言わなかった。


「「「…………」」」


沈黙を破ったのは、ジュリーヌだった。


「……それでどうしようかしら、マッセン? 遠征は延期にする?」

「いや……今回の遠征は、すでに国王陛下に奏上している。今更延期というわけにはいかないだろう。それに、セデルンの町から魔王軍が出撃しそうだという情報もある。最低でも、それには対応しないといけない。無理をしないで守りに徹すれば、今の僕達でも問題なくやれるはずだ」

「……だな」

「そうね……」

「はい……」


マッセンの決断に、3人がうなずく。マッセンは淋しそうに笑った。


「フッ……僕もバルツみたいに平民の生まれだったら、魔王の討伐なんか止めてさっさと逃げるところだが……そういうわけにもいかない。貴族家に生まれた者の宿命だな」

「「「…………」」」


また、沈黙が流れる。やがてジュリーヌは、誰にたずねるでもなく言った。


「バルツの奴、もう王都は出たかしらね……?」

「どうだろうな……あの貼り紙が効いて、田舎にでも引っ込んでいてくれればいいんだが……」


つぶやいたマッセンは、視線を遠くの空に向けた。


 ☆


「何だと!? 魔王軍の侵攻は阻止したものの、セデルンの奪還には失敗しただと? それでは今までと大して変わらぬではないか!」


数日後、王都に帰還したマッセン達を待っていたのは、国王コブルッツ2世の叱責であった。


セデルン近郊に到着した勇者パーティーは、さっそく現地の軍隊と合流した。そしてマッセンの指揮の下、出撃してきた魔王軍を待ち伏せて大いに撃破する。その後セデルンへの突入はせず、早々に引き揚げることで、全員が軽傷か無傷で帰還することに成功したのである。


味方の損害を最小限に押さえつつ、敵を殲滅(せんめつ)してその狙いを阻止。状況を考えれば最善と言って良い結果だったが、国王はそれでは満足しなかった。


「……申し開きの言葉もございませぬ」


平伏するマッセン達に、国王はさらに追い討ちをかける。


「一体どういうことなのだ!? 先般その方は、無能のバルツが足を引っ張るゆえ魔王軍の拠点を奪還できぬと申した! それを聞いて余は追放を許したというに、話が違うぞ!」

「恐れながら……臨時で雇った回復術師やテイマーとの連携に手間取っており、今しばらくの御猶予を……」

「ふん。田舎貴族のせがれは、言い訳だけは一人前だのう!」


国王は傲然とマッセンを見下ろす。国王の側には王子と王女も控えており、父親の尻馬に乗ってマッセン達を嘲笑った。


「全く……せっかく父上が勇者パーティーに抜擢してやったというのに、いつになったら魔王を討伐できるやら」

「まあ、それも致し方ありませんわ。4人が4人とも、ボンクラ貴族家の出ですものね!」

「「「…………」」」


マッセン達は一言も発しない。やがて国王が口を開いた。


「まあ良い。次こそはしくじるでないぞ。その方らは、余の期待を裏切らぬと思っておる。無知蒙昧(むちもうまい)で愚劣な、その方らの親共とは違ってな!」

「「「ははーっ!」」」


マッセン達は、ひたすらに平伏するしかなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >あいつも、自分がいずれ追放されることは察しが付いていたんだろう。だから、自分が抜けた瞬間に僕達の力が落ちるよう、細工をしたんだ。   やばりみんなわざとやるですね。
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