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4.新しくパーティーを結成しました

冒険者ライセンスが出来上がるのは翌日の朝ということで、俺とメリレイナはギルドの建物を出た。


「……バルツさん、今夜泊まるところって、もう決まってるんですか?」

「いや、これから宿を探すところだ。所持金が心もとないから、できるだけ安いところを探さないとな……」


国王の命令で勇者パーティーの一員に選ばれたにも関わらず、俺に支払われる給金は微々たるものだった。ちなみに、薄給だったのは俺だけではない。マッセンも他のメンバーも、いつもやりくりには苦労していた。


「だったら……私の家に来て泊まりませんか? このすぐ近くですから」

「えっ? でも、それは……」

「私しか住んでませんから、遠慮はいりませんよ。さあ!」


メリレイナは俺の手を取ると、やや乱暴に引っ張って歩き出した。一人暮らしの女が今日会ったばかりの男を家に泊めるとは、ずいぶん不用心な話である。


いや、よく考えてみたら、非戦闘職の俺よりも、現役のSランク冒険者にして剣士であるメリレイナの方が、腕っぷしは強いはずだ。万が一俺が変な気を起こしても、ねじ伏せられる自信があるのだろう。


宿代を節約できるのに越したことはない。一晩厄介になるか……


「さあ、こちらです。狭いところですが、どうぞ」

「お、お邪魔します……」


やがて到着したメリレイナの家は、Sランク冒険者の自宅とは思えないほど、質素な一軒家だった。俺は1階の居間に通され、メリレイナは2階に上がっていく。長椅子に座って待っていると、やがて戻ってきたメリレイナは、革鎧を脱いでワンピース形式の部屋着に着替えていた。


「お待たせしました、バルツさん」

「うわっ……」


思わず声が出てしまう。鎧で押さえ付けられていたのが解放され、さっきよりもさらに乳房が大きく見えていた。その上、部屋着の丈が短くて、俺よりやや長身のメリレイナに合っていない。後ろを向いてかがんだら、きっと尻が見えてしまうだろう。


正直、目のやり場に困る。やれやれ。


「失礼しますね」

「あ、ああ……」


メリレイナは俺の隣に座る。俺は気を取り直し、口を開いた。


「メリレイナ」

「はい、バルツさん」

「いきなりだけど、俺はメリレイナとパーティーを組んで、冒険をしたいと思ってるんだ」

「嬉しいです……ぜひ私と、パーティーを組んでください! もちろんバルツさんがリーダーで結構です。バルツさんに命令してもらえたら、私、何でもやりま……」

「いや、待ってくれ」


メリレイナの言葉が終わらないうちに、俺は手で制した。


「バルツさん?」

「俺とパーティーを組むかどうか、俺の話を聞いてから、もう一度考えて決めてほしいんだ」

「どういうことでしょうか……?」

「…………」


続けるのをためらい、俺はしばらく黙った。


俺は今、メリレイナをとんでもないことに巻き込もうとしている。このまま話を続けて、本当に良いのだろうか……


いや、駄目だ。ここで踏み止まったら、勇者パーティーを追放された意味がなくなる。意を決し、メリレイナにたずねた。


「……魔王が復活したのは、当然知っているよな?」

「はい。それはもちろん……」


この世界には、人間や動物とは違い、生まれつき高い魔力を持つ種族が存在する。その中で知性があり、見た目が人間に近いものを魔族と呼び、それ以外は魔物と呼ぶ。


そして魔族の中に、ときたま飛びぬけて能力が高く、他の魔族や魔物を従えることに長けた個体が現れる。それが魔王だ。ちなみに復活と言っているが、前に現れたのと同じ個体であるとは限らない。


さて、魔王が現れて何が困るかと言うと、普段はそれぞれ勝手気ままに行動することが多い魔族や魔物が、魔王の指揮の下、一致団結して動くようになるのだ。彼らは統制された行動で、人間の住む領域を犯してくる。その地域の住民としては、たまったものではない。


今から1年ほど前、俺達の暮らすローラッダ王国の北方に魔王が復活した。北方の魔族や魔物が急に集団でローラッダ王国に侵入して村々を襲い出したので、魔王が復活したと分かったのだ。


これは放っておけないということで、国王の命令によって勇者パーティーが結成され、魔王討伐に当たることになる。勇者パーティーのメンバーは、給金が少ない代わりに、魔王を倒した暁には莫大な恩賞を受け取れる、ということに()()()()()()()()()


「正直に言おう。俺は、魔王を倒したいと思っている」

「えっ、魔王を……?」


メリレイナが目を丸くする。俺は続けた。


「ああ、普通なら民間のパーティーに魔王討伐の依頼が来ることは、まずないだろう。でも、俺達が難しい依頼を達成して、パーティーとして名を上げていけば、そのうち国王かどこかの貴族から、勇者パーティーの代わりに討伐を命令されるかも知れない」

「素晴らしいお話です……ぜひ一緒にやらせてください!」

「ええっ……」


一切迷いのない快諾に、返って俺の方が腰が引けてしまった。おっかなびっくり念を押す。


「い、いいのか……? 今までやってきた冒険より、ずっと危険かも知れないぞ」

「……魔王復活のおかげで仕事が増えてSランクまで昇進しましたけど、家族や親戚に仕送りしたら、お金はいくらも残りません。もっと実入りのいい仕事を一緒にできそうな、バルツさんのようなお方を待っていたんです! 前衛として頑張りますから、遠慮なくこきつかってください!」


メリレイナは両手で俺の手を握り、顔を近づけて言う。俺は少し体をのけぞらせた。


「あ、ありがとう……無理し過ぎない程度に頼むよ……」

「はいっ! 勇者パーティーの連中の鼻を明かして、バルツさんを追放したことを後悔させてやりましょう!」

「…………」

「? バルツさん?」

「あっ、ご、ごめん……ああ、うん、そうだな……」


怪訝そうに俺の顔をのぞき込んできたメリレイナに、俺は慌ててうなずいた。

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