2.冒険者登録試験を受けることになりました
美少女冒険者メリレイナに連れられ、冒険者ギルドを訪れる。俺自身はこのギルドに所属する冒険者ではないが、魔物討伐の調整やら何やらで、何度か来たことはあった。
常に国王の命令で動く勇者パーティーとは違い、民間の冒険者や冒険者パーティーは、毎回別の依頼人から依頼を受けて動くことが多い。その依頼を仲介することで、冒険者が不当な金額で依頼されるのを防ぐのが冒険者ギルドだ。依頼の難易度に応じたランクの冒険者に仕事を割り振ることで、依頼の達成率を高めるという役割もある。
ここで記憶力の良い読者は、「それより、あのなんちゃらドラゴンはどうしたんだ?」と思うかもしれないが、そこはあれだ。こう、何というか、いい感じにどうにかしたと思っていただきたい。
さて、ギルドの建物に入ってみると、昼間ということもあって人はあまりいなかった。十数人の冒険者がたむろしているだけだ。その冒険者達と制服を着た受付嬢達が、一斉にこちらを向く。そして、これまた一斉に俺の顔を見て笑い出した。
「プークスクス!」
「うひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「ケッケッケッケッ!」
どういうことだ? もしかして、俺が勇者パーティーを追放された身の上だと、もう知れ渡っているのだろうか。いぶかしく思いながら、俺は受付の一つへと歩を進めた。
「失礼……」
「あら、これはバルツさんじゃないですか。プークスクス!」
眼鏡をかけた黒髪の、普段はクールな大人の女性然としている受付嬢が、相変わらず俺を見て笑い転げる。俺はだんだんイライラしてきた。
「おい……用事があって来たんだが、話を聞いてもらっていいか?」
「バルツさん、あれ……」
「?」
メリレイナの方を向いた俺は、次いで彼女が指差す掲示板に視線を移した。見ると、その掲示板のド真ん中に真新しい貼り紙があり、次のように書かれている。
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追放発表
平素は勇者パーティーをお引き立ていただき、厚く御礼申し上げる。
このほど当パーティーではテイマー兼、回復術師兼、鑑定士であるバルツを追放することを決定した。
苦渋の決断ではあったが、長きに渡り行動を共にした結果、当人が魔物討伐に全く役に立たない、完全無欠の無能であると判断した結果であり、御理解いただきたい。
なお、当然ながら、この追放によって魔王討伐に支障が生じることは一切ない。今後も勇者パーティーを応援、支援いただければ幸いである。
勇者パーティー一同
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「ふうっ」
貼り紙は手書きではなく、印刷されていた。ここに貼り出すためだけに刷ったとは思えないから、きっと王都中に同じものを配っているのだろう。
「マッセン……」
思わず彼の名前が、口をついて出る。メリレイナは掲示板に近づいて貼り紙をはがすと、その場でビリビリに破いた。
「お、おい……」
「こんなの許せません。酷過ぎます。今から勇者パーティーのところに殴り込んできます」
「やめとけ。勇者パーティーは超一流の冒険者ぞろいだ。いくらSランクでも、ただじゃ済まないぞ」
「バルツさんがそうおっしゃるなら、今日のところは勇者パーティーを生かしておきますけど……」
「……そうしてくれ。それより……」
俺は、受付嬢の方に向き直って言った。
「あの貼り紙の通りだ。俺はもう勇者パーティーのメンバーじゃない。ここで冒険者ライセンスを取りたいんだが、手続きをしてもらえるか?」
「ええ~? 完全無欠に無能なバルツさんが冒険者に? やめた方がいいんじゃないですか~? プークスクス!」
「ちょっと!」
メリレイナが受付嬢に詰め寄る。それも制してから、俺は続けた。
「やめる気はない。冒険者ライセンスを取る手続きについて教えてくれ」
「ライセンス希望者の方には、登録試験を受けていただきます。試験内容は当ギルドに所属する試験官との模擬戦でです。勝ち負けに関わらず、冒険者としての実力があると試験官が判断すればライセンスが交付されます。もっともバルツさんじゃ、いいところなくボコボコにされるのがオチだと思いますけど……プークスクス!」
「分かった……それじゃ、その試験を受けさせてくれ」
「言っておきますけど、テイマーだからって動物使うのはナシですよ?」
「ああ……そうだろうな」
俺はうなずく。メリレイナが心配そうに尋ねてきた。
「バルツさん……戦闘向きの職種じゃないのに、大丈夫ですか……?」
「いくら裏方でも、全く戦えないんじゃ危なくて魔物討伐には出せないだろうからな。仕方ない。試験を受けなきゃ道は開けないんだから、何とかやってみる」
受付嬢は、カウンターの上に用紙とペンを出した。
「それじゃこちらに、お名前と使える魔法や闘技を書いてください。万が一合格できたら、私、バルツさんの前で裸になって、全部見せてあげますよ。プークスクス!」
前に大きく張り出した乳房を、下から支えて見せる受付嬢。完全に調子に乗っていた。俺が合格することなど、絶対にないと高をくくっているのだろう。でなければ、裸になるなどと言い出すはずがない。
「そうか……」
挑発を適当に流し、紙に必要事項を書き込む。そうしていると一人の男が近づいてきて、俺の肩に手を掛けた。
「おい!」
「何だ?」
「お前みたいな無能野郎、試験を受けるまでもねえよ! 俺がこの場でぶっ飛ばしてやるぜ!」
「え……? お前、試験官じゃないよな? それってギルドの規約的にどうなんだ?」
「うるせえ! とっとと消え失せろ!」
冒険者らしい男は、問答無用で俺に殴りかかってきた。俺はそれをかわしてから男の服を掴み、腰の上に乗せて投げ飛ばす。いくら非戦闘職とはいえ、これぐらいはできるのだ。
「ぐあっ!」
床の上に投げ出された男は、泡を噴いて失神した。受付嬢は、青くなって震え出す。
「そ、そんな……うちのBランク冒険者がこんなに簡単に……」