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17.(追放者Side)困窮する勇者の実家

更新します。

いろいろ批判があるのは百も承知ですが、自分の思い描く物語を綴っていこうと思います。

「覚悟っ!」

「ぐああああっ!!」


勇者マッセンの振り下ろす聖剣が、魔族の胸板を切り裂いた。続けてマッセンは、剣を横薙ぎに払う。魔族の首は切断され、宙に舞った。


首を失った魔族の体は、ゆっくりと地面に向かって崩れ落ち、やがて黒い霧となって消えていく。マッセンは後ろを振り返り、パーティーメンバー達に声をかけた。


「終わったぞ。みんな、無事か?」

「ええ、大丈夫よ!」

「こっちも、何とかな……」

「私も……」

「よし……みんな、御苦労だった」


全員が健在なのを確かめたマッセンは、剣を振るって血を落とし、鞘に納める。マッセンの甲冑は至る所が損傷し、自身や魔物の血で真っ赤に染まっていた。


ローラッダ王国北部の町、セデルン。魔王軍に占領されていたこの町に、マッセン達勇者パーティーは現地の貴族軍と共に攻め入っていた。前回の遠征では町から出撃してきた魔王軍を郊外で迎え撃つに留まっていたが、今回は町の奪回に乗り出した格好だ。


そして今、町を占領していた魔王軍の大将格である魔族がマッセンによって倒された。町のあちこちで未だ小規模な戦闘が続いているが、残っている魔王軍が駆逐されるのは時間の問題だろう。セデルンの町は、ローラッダ王国の手に戻ったのである。


程なくして、戦いは完全に終わった。後を現地の貴族軍に任せ、マッセン達は王都への帰路につく。彼らは勇者パーティー専用の馬車に揺られ、街道を南下していった。


「「「…………」」」


誰も口を聞かない。以前の戦いの後に比べ、勇者パーティーの全員が疲弊していた。バルツがこっそりかけていた強化魔法がなくなったせいもあるが、それだけではない。


バルツがいたときは、戦闘中に負傷をしても痛みを感じるか感じないかのうちに治療がなされ、無傷同然に戦い続けることができたのだが、今回現地で臨時に雇った回復術師は、バルツほどの速さで回復ができなかった。もちろん最後には全ての傷が癒されたが、一時的とはいえ負傷した状態で戦う時間ができることで、体力面、精神面での負担が重なったのである。特に前衛として武器を振るう勇者マッセンと、重戦士ガドウズの消耗が激しかった。


ふと、ガドウズがぼやく。


「バルツがいりゃあなあ……怪我してもあっという間に治って、もっと楽に戦えるんだが……」

「それは言わないでよ。前のように戦えなくなっても仕方ないって、あいつを追い出す前にみんなで話し合ったじゃない」

「そうだったな。済まねえ……」


火炎術師のジュリーヌにたしなめられ、ガドウズはばつが悪そうに頭をかいた。そこへ土魔法師のアノリアが言う。


「そのバルツですけど、王都で冒険者を始めたようですよ。ギラーヴィーの近くで魔王軍の幹部を討ち取ったと、兵士達が噂をしていました」

「そうか……できればあいつには、王都を離れてほしかったんだが……」

「マッセン……」

「だが、王都にいるならまた会えるな。全てがうまく行って終わったら、またあいつに会おう。俺達が無事に褒美をもらったと分かれば、あいつも安心するだろう」

「「「…………」」」


ジュリーヌ、ガドウズ、アノリアの3人は、黙ってうなずいた。


 ☆


数日後、馬車は王都に入る。マッセン達が宿舎の前で馬車を降りると、1人の男がマッセンを待っていた。マッセンの実家、シーラリンド侯爵家の使用人だ。


「若君、お帰りなさいませ。魔王軍の討伐、お疲れ様でございました」

「ありがとう。で、どうした? 俺に何か用事か?」

「はい。昨夜、旦那様が王都にお越しになりました」

「何? 父上が……」

「今、王宮に参内されているところでございます。後程、屋敷へお戻りになると」

「分かった。俺も屋敷に行くと伝えてくれ」

「かしこまりました」


しばらく後――


王宮から少し離れた場所にある、シーラリンド侯爵家の王都屋敷。その一室でマッセンは、父であるシーラリンド侯爵と対面していた。


「父上、シーラリンド領からの長旅、お疲れ様でございました」

「マッセン、久しいな。活躍は耳にしておるぞ。変わりはないか?」

「はっ、お陰様で……して父上、此度(こたび)は何用で王都に?」

「うむ……国王陛下から我々四家に、魔王軍討伐の軍勢を増派せよとの命が下されてな」


我々四家というのは、勇者パーティーメンバーの実家である4つの貴族家のことである。王国の南部で大きな勢力を持っているため、南部四大貴族とも呼ばれている。


それはそうと、マッセンは驚いて侯爵を見た。


「何と! またですか!?」


強大な力を持つ勇者パーティーであるが、彼らだけで魔王軍の討伐はできない。セデルンの町でそうだったように、王国の貴族達も兵を出し、魔王軍と戦っていた。


シーラリンド侯爵を始めとする南部四大貴族も例外ではなく、出兵命令自体は不当ではなかった。だが、南部四大貴族の領地はいずれも魔王軍の侵攻地域から遠く離れているにも関わらず、他の貴族と比べて明らかに過大な数の兵を派遣するよう命じられていたのである。そのための費用は莫大なものになっており、そこへ来て新たな軍役の追加となっては、マッセンの声が大きくなるのも自然の成り行きであった。


侯爵はうなずく。


「そうだ……度重なる北部への出兵で領民の負担は増え、借金も膨らんでおる。我々の倹約も限界だ。そこで、何とか軍役を減免していただけぬか、我々四家を代表して私が国王陛下に嘆願に参ったのだ」

「首尾はいかがでございましたか?」


身を乗り出して尋ねるマッセンに、侯爵は首を横に振って見せた。


「駄目だった……また領民達に、ひもじい思いをさせねばならぬな……領主として情けない限りだ」


やや顔をうつむける侯爵。マッセンも項垂れた。


「申し訳ございませぬ。私が早々に魔王を討伐しておれば、このようなことには……」

「そう申すな。戦とは、思い通りにならぬものだ。誰もそなたを責めはせぬ」

「恐れ入ります。しかし、国王陛下は相変わらず、我らに辛く当たられますな……」

「ああ……王位継承のときのことがあるゆえな……」


2年ほど前、ローラッダ王国の先代国王が危篤となった。そのとき、王位継承者の候補が2人いた。正室の息子である第1王子と、側室の子である第2王子である。


貴族の大多数は母親の家柄が良く、性質も温厚な第1王子を次期国王に推しており、冷酷で知られた第2王子の人気は低かった。とりわけ、南部四大貴族は第1王子支持の急先鋒であった。そのため、次期国王には第1王子が選ばれるだろうというのが大方の予想となっていた。


しかし先代国王は、側室をいたく寵愛していた。側室への思いが貴族達の意向よりも優先され、第2王子を次期国王とすることが遺言されたのである。そして遺言の通り、国王崩御後に第2王子が即位した。それが現国王である。


「…………」


少し沈黙した後、侯爵は話題を変えた。


「ところでマッセンよ。最近、パーティーのメンバーを1人追い出したそうだな」

「はい……支援職の者に役目怠慢がありまして、やむなく追放いたしました」

「そう申すのなら致し方ないが……王都中に貼り紙を出してその者を嘲笑したというではないか。一体何故、そのようなことをしたのだ? それほどあからさまに他人を貶めるなど、そなたらしくもない」

「…………」


問われたマッセンは、しばらくうつむいて黙っていた。そして顔を上げて話す。


「人々の物笑いとなれば、その支援職の者が王都に居づらくなり、故郷へ戻るだろうと思いまして」

「む……? どういうことだ?」

「……大きな声では申せませんが、今、この王都は不穏でございます」


マッセンの言葉は、直接の答えにはなっていなかった。だが、侯爵はうなずく。


「うむ……アプリガナ公女殿下は、確かまだ行方知れずであったな」

「はい」


第2王子が即位して1年ほど過ぎた頃、王国の北部から魔王軍が侵入してきた。その直後、バレンゴー公爵となっていた第1王子が捕縛される。魔王軍に内通しているというのが表向きの罪状であったが、それを信じているものはあまりいない。国王が魔王軍侵入に乗じ、自分にとって代わり得る兄を排除したという見方が大半だ。


バレンゴー公爵は捕縛される直前、1人娘のアプリガナ公女を逃がしていた。彼女の行方は未だに知れない。国王に反対する貴族が、アプリガナ公女を担いで蜂起するのではないかという噂が、一部でささやかれていた。


「……この王都でも、いずれ一波乱あるやも知れぬ。王都におる理由がないのならば、我らに(ゆかり)のある者を遠ざけるに越したことはない、か……」

「はい。そのように考えました。もっともその者は、今も王都に留まっているようですが……」

「そうか……北からは魔王軍、内では国王陛下と我々貴族がうまく行っておらぬ。我がローラッダ王国は、まさに内憂外患だな……」

「父上……」


マッセンは立ち上がって言った。


「御安心ください。アプリガナ公女殿下のことはともかく、魔王はこの私が討伐します。そうなれば軍役はなくなり、国王陛下から恩賞も頂戴できます。領民の暮らしも、楽にできましょう」

「そうなることを願っておる。しかし、無理はならんぞ。領国のことは、儂がどうにかするでな」

「心得ております。ではこれにて……」

「うむ……体に気を付けてな」

「はい。父上もお達者で……」


マッセンは侯爵に深く頭を下げ、屋敷を後にした。

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