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15.メリレイナの剣(中編)

「メリレイナが使う剣をもらうとなると、それなりの業物(わざもの)でなくてはなりませんが……」

「それはもちろん存じております。魔族を斬った前の剣と同等、いや、それ以上のものをご用意させていただきますぞ」

「…………」


トワルブの答えを聞いて、俺はまた考え込んだ。


確かに剣は欲しい。前のもの以上に質が良い剣を使うことができれば、メリレイナは一層力を発揮できるだろう。


だが、マックルーン商会は商人の集まり、すなわち利益を追求する集団だ。俺達に剣を寄越すからには、それによって何か得があると見込んでいるはず。


おそらく、冒険者ギルドを通さずに剣の受け渡しをすることによって、俺達との間に直接つながりを持とうとしているのだろう。それをきっかけに、今後は便宜を図ったり図られたりして関係を深めていくというわけだ。


そして行く行くは、俺達を冒険者ギルドから引き抜いてマックルーン商会の専属用心棒にする。そんなところか。


メリレイナは元々Sランク冒険者だし、俺も追放されたという失点はあるものの、元勇者パーティーのメンバーで多少知名度がある。今回魔王軍の幹部を倒したこともあるし、俺達をお抱えにして宣伝なり実際の警護なりに使おうとマックルーン商会が考えたとしても、おかしくはない。


「…………」


単に食いぶちを稼ぐことを考えるなら、マックルーン商会に雇われるのも悪くはないかも知れない。待遇にもよるが、冒険者ギルドに所属しているより収入が安定するということも考えられる。


しかし、今の俺には、勇者パーティーよりも先に魔王を倒すという目標がある。それを達成するためには、特定の誰かに雇われて行動を制約されるわけにはいかないのだ。剣だけ受け取って後は知らない、などという虫のいい話は通るまい。


メリレイナには悪いが、この話は穏便に断る方向に持っていこう。俺は口を開いた。


「お気持ちはありがたいと思います。ですが、今回の依頼の報酬は、契約通りに全額もらえると聞いています」

「ええ、その通りですが……?」

「契約にない武器の補償までしてもらっては、俺達だけ報酬の二重取りをすることになります。さすがにそれでは、他の冒険者に示しがつきません」

「いやいや、そのように固く考えずとも、わたくし共の気持ちですので……」

「そこでと言っては何ですが、2つ、条件を付けさせてもらいたいと思います。その条件を聞いてもらえるなら、先程のお話をお受けします」

「ほう。で、その条件とは?」


トワルブは、興味深そうにこちらの顔をのぞき込んだ。この若造が何を言い出すのか、聞いてやろうという雰囲気だ。


「1つ目、メリレイナだけではなく、依頼を受けた冒険者全員の武器を補償すること」

「ふむ。まあいいでしょう」


大した金額ではないと踏んだからか、トワルブはさほど考えることなく了承した。実際、微々たるものだろう。俺はさらに続ける。


「2つ目、直接あなた方から武器をもらうのではなく、冒険者ギルドを通すこと。冒険者ギルドが俺達の武器の損失を取りまとめて、あなた方に請求する形にしてもらいます」


俺の言葉を聞いたトワルブは、目を見開いて絶句した。


「そ、それは……」


まあ、そうだろうな。俺は心の中でうなずく。俺達との間に、冒険者ギルドを通さないつながりを持ちたいなら、1つ目はともかく、2つ目の条件は受け入れがたいはずだ。


「以上です。この条件で検討してください。もちろん、無理なら無理で構いません。あなた方の店で扱う剣がほしくなったときには、正規の値段で買わせてもらいますので」

「…………」

「話は終わった。帰ろう、メリレイナ」

「はい、バルツさん」


俺達はソファーから立ち上がる。そのときだった。部屋の入口から男性の声が響いた。


「お待ちください。その条件、お受けいたしましょう」

「「?」」


振り返ると、小柄な老人が杖をつきながら入ってくるところだった。


「失礼ですが、あなたは……?」


俺の問いに老人が答えるよりも早く、トワルブが声を上げた。


「だ、旦那様! どうしてこちらへ!? 保養に出られていたはずでは……?」


旦那様、ということはこの老人がマックルーン商会のオーナー、マックルーン翁か。きっと隣の部屋か廊下で、俺達の話を聞いていたのだろう。立ち上がったままの俺達に、マックルーン翁は近づいてきた。


「バルツ殿、でしたな……」

「はい、初めてお目にかかります」

「うちの者が、たびたび非礼を働いたようですな……誠に申し訳ない」

「とんでもないことです。それより、条件を受けるというのは……?」

「ええ……先程のお話、冒険者ギルドに所属するバルツ殿が出す条件として、筋が通ったものです。異存はありません」

「旦那様!」


いつの間にか立ち上がっていたトワルブが止めようとするが、マックルーン翁は「黙っておれ!」と一喝した。俺はたずねる。


「本当によろしいのでしょうか? 条件を出した俺が言うのも何ですが、正直、あの条件ではあなた方の利益にはならないかと」

「確かに、目先の金は失うことになりますな……しかし、それを嫌って、代わりの剣を提供する申し出を反故にすれば、今度は信用を失います。金の損失はすぐに取り戻せるが、信用の損失は取り戻すのに時間がかかる……」

「…………」

「すでにわたくし共は隊商の現場責任者の人選を誤り、信用を失っております。バルツ殿、これ以上わたくし共に、損失を出させんでくだされ」


そういうことか……そう言われては、もう断る理由もなかった。俺はマックルーン翁にうなずいて言う。


「お話、よく分かりました。剣はありがたく頂戴します」

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― 新着の感想 ―
[一言] ようやく最新部まで読めました。最近ゆっくり読み込むだけの時間がなかったもので…… 他の方も感想に書いてましたが、途中から話の軸がブレちゃいましたね、これ。冒険者ギルドでの試験辺りから本来の…
[良い点] マックルーン翁の説得力に、 バルツの思慮深さ。 トワルブの商人としての、 確かな考えかたなど、 やりとりが好きですね。
2021/08/23 08:27 退会済み
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