表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/18

11.襲ってきた魔物を撃退しました

隊商の何十もの馬車が、王都の北門を目指して進んでいく。隊商の責任者であるボーノルグを始めマックルーン商会の人は馬車に乗っていて、俺達冒険者や兵士達は徒歩だ。王都を出て人気のない場所に差しかかると襲撃の危険があるので、俺達は周囲に注意を払いながら歩いた。


その後、何日も進んで北部の町ギラーヴィーを目指したが、結局、誰からの襲撃にも遭わなかった。かなりの人数の護衛が付いているので、盗賊もあえて狙わないのだろう。


だが、魔王軍の前線が近づくと、今度は魔物や魔族に狙われる危険が高まる。俺は一緒に護衛をする冒険者達に、危なくなったらバフをかけて戦力を増強するから、そのつもりで戦ってほしいと予告した。


そして、明日にはギラーヴィーに着くという日、隊商は山間部にさしかかった。前方の道の両側に、切り立った崖がそびえている。


こういうところは危ない。俺はメリレイナと共に、ボーノルグのところに走った。


「ボーノルグさん」

「何だ? お前は確か、勇者パーティーを首になったFランクの魔道士だったな」

「そうです。バルツと申します。それよりも、前の道で魔物が待ち伏せをしているかも知れません。様子を見て来ますから、馬車を停めて待ってもらえませんか?」

「馬鹿なことを言うな! そんなことをして到着が遅れたらどうする!? 第一、もしも魔物が待ち伏せをしていたら、どうしろと言うのだ?」

「それはもちろん、俺達で行って魔物を追い払ってきます。それから馬車が通れば安全です」

「所詮は無能のFランクだな! 話にならん! 魔物を追い払うのを待っていたら、ますます到着が遅れるではないか! 商売は早さが命なのだ! 魔物が襲ってきたらそのときお前達で撃退しろ! そのために高い金を払って雇っているんだぞ!」

「……ではせめて、なるべく急いであの崖の下を通るようにしてください」

「いいだろう。おいっ、急がせろ!」


ボーノルグが部下に指示を飛ばす。俺達がボーノルグの馬車を離れると、メリレイナが不安そうな表情で話しかけてきた。


「バルツさん……」

「依頼人側の現場責任者があれじゃ、仕方がないな」


やれやれ。依頼元のマックルーン商会は王都で長く商売をしているはずで、悪い評判もそれほど聞かない。そんなところが任命する現場責任者なら、もっと不測の事態に敏感であっても良さそうに思うが、ボーノルグはそうでもないようだ。まあ、大きい組織だからといって、いつも適材適所の人事をするとは限らないわけだが……


「俺達は行列の一番後ろにつくぞ。様子を見るんだ」

「はいっ」


やがて、馬車の列が崖の間に入っていく。最後に俺達も入る。崖の上は不気味に静まり返っていた。


「…………」


しばらく進んだころ、両側の崖の上から大きな岩が次々に転がってきた。冒険者達がそれをかわすが、避けようのない馬車は何台か押しつぶされる。馬車に乗っているマックルーン商会の人達の悲鳴が聞こえた。


「ぎゃああああ!」

「た、助けてくれーっ!」

「痛えーっ! 足がーっ!」


道が曲がっているため、ここからだと先頭の様子は見えないが、おそらく岩で進路がふさがれているのだろう。馬車の行列は完全に立ち往生していた。そこへ、オーガやコボルトといった魔物が何十匹と、武器をかざして崖の上から飛び降りてきた。


「グオオオッ!」

「ガウウウッ!」


冒険者や兵士が応戦し始める。だが、数はこちらが劣勢で押され気味だ。俺はメリレイナと、目に付く範囲にいる冒険者にバフをかけた。


「行くぞ!」

「はいっ!」


メリレイナが剣を抜き、魔物の群れに斬り込んでいく。さすがに実力はずば抜けていて、他の冒険者が苦戦している魔物の首も一撃で斬り落としていった。俺はメリレイナの少し後からついていき、怪我人の治療をしていく。そして戦いながら移動し、行列の前方へと進んでいった。


「何をしている! 早く魔物を追い払え! 命に代えても荷物を守るんだ!」


少し進むと、あのボーノルグの声が聞こえてきた。見ると、馬車を降りていて、こっちに走ってくる。俺は声をかけた。


「どこに行くんですか!? 無闇に歩くと危ないですよ!」

「うるさい! お前達冒険者は言われた通りに戦っていればいいんだ!」


どうやら、冒険者や兵士達が不利なのを見て、勝てないと思ったのか自分だけ逃げ出そうとしているようだ。あっという間に行列の後ろの方に行ってしまった。


「バルツさん……」

「構っている暇はない。放っておくぞ」

「はいっ!」


俺達はボーノルグとは逆に、さらに前方に進んだ。まだバフのかかっていない冒険者にバフをかけ、戦力を強化していく。今まで劣勢だった冒険者達が息を吹き返し、魔物を押し始めた。


「うおおおっ!」

「すごい! 力が湧いてくる!」

「これなら勝てるぞ!」


逆に押された魔物達は、ひるんで逃げ腰になる。そこへメリレイナが飛び込んでいき、立て続けに斬り飛ばしていった。それを見て無理だと悟ったのか、魔物達は谷の前方に向かって引き揚げていく。


「やった! 勝ったぞ!」

「魔物を追い払ったぞ!」

「ざまあ見ろ!」


冒険者や兵士が歓声を上げる。俺は負傷者の治療をしながら、元気な冒険者に声をかけた。


「誰か」

「はいっ!」

「後ろの方に、ボーノルグさんが逃げていったはずです。様子を見てきてもらえませんか?」

「分かりました!」


何人かの冒険者が、行列の後ろの方に走っていく。やがて戻ってきた彼らは、何者かに殴られてボコボコにされたボーノルグを引きずっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] こんな護衛に無理強いして負担かける商人の率いる隊商護衛を受ける冒険者なんて よほど金に困ってるか、右も左もわからん駆け出しぐらいでしょ? 上記の連中ならともかくSランク冒険者であるメリ…
2021/08/11 20:25 異世 界人
[良い点] いや、もう、 ちゃんとした物語として、 読み応えがありますよね? 作品の性質上、 そこを良い部分と言っていいのか、 悩んでしまいますが(笑) [一言] 一生懸命クソな部分を 探そうとしまし…
2021/08/11 18:14 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ