11.襲ってきた魔物を撃退しました
隊商の何十もの馬車が、王都の北門を目指して進んでいく。隊商の責任者であるボーノルグを始めマックルーン商会の人は馬車に乗っていて、俺達冒険者や兵士達は徒歩だ。王都を出て人気のない場所に差しかかると襲撃の危険があるので、俺達は周囲に注意を払いながら歩いた。
その後、何日も進んで北部の町ギラーヴィーを目指したが、結局、誰からの襲撃にも遭わなかった。かなりの人数の護衛が付いているので、盗賊もあえて狙わないのだろう。
だが、魔王軍の前線が近づくと、今度は魔物や魔族に狙われる危険が高まる。俺は一緒に護衛をする冒険者達に、危なくなったらバフをかけて戦力を増強するから、そのつもりで戦ってほしいと予告した。
そして、明日にはギラーヴィーに着くという日、隊商は山間部にさしかかった。前方の道の両側に、切り立った崖がそびえている。
こういうところは危ない。俺はメリレイナと共に、ボーノルグのところに走った。
「ボーノルグさん」
「何だ? お前は確か、勇者パーティーを首になったFランクの魔道士だったな」
「そうです。バルツと申します。それよりも、前の道で魔物が待ち伏せをしているかも知れません。様子を見て来ますから、馬車を停めて待ってもらえませんか?」
「馬鹿なことを言うな! そんなことをして到着が遅れたらどうする!? 第一、もしも魔物が待ち伏せをしていたら、どうしろと言うのだ?」
「それはもちろん、俺達で行って魔物を追い払ってきます。それから馬車が通れば安全です」
「所詮は無能のFランクだな! 話にならん! 魔物を追い払うのを待っていたら、ますます到着が遅れるではないか! 商売は早さが命なのだ! 魔物が襲ってきたらそのときお前達で撃退しろ! そのために高い金を払って雇っているんだぞ!」
「……ではせめて、なるべく急いであの崖の下を通るようにしてください」
「いいだろう。おいっ、急がせろ!」
ボーノルグが部下に指示を飛ばす。俺達がボーノルグの馬車を離れると、メリレイナが不安そうな表情で話しかけてきた。
「バルツさん……」
「依頼人側の現場責任者があれじゃ、仕方がないな」
やれやれ。依頼元のマックルーン商会は王都で長く商売をしているはずで、悪い評判もそれほど聞かない。そんなところが任命する現場責任者なら、もっと不測の事態に敏感であっても良さそうに思うが、ボーノルグはそうでもないようだ。まあ、大きい組織だからといって、いつも適材適所の人事をするとは限らないわけだが……
「俺達は行列の一番後ろにつくぞ。様子を見るんだ」
「はいっ」
やがて、馬車の列が崖の間に入っていく。最後に俺達も入る。崖の上は不気味に静まり返っていた。
「…………」
しばらく進んだころ、両側の崖の上から大きな岩が次々に転がってきた。冒険者達がそれをかわすが、避けようのない馬車は何台か押しつぶされる。馬車に乗っているマックルーン商会の人達の悲鳴が聞こえた。
「ぎゃああああ!」
「た、助けてくれーっ!」
「痛えーっ! 足がーっ!」
道が曲がっているため、ここからだと先頭の様子は見えないが、おそらく岩で進路がふさがれているのだろう。馬車の行列は完全に立ち往生していた。そこへ、オーガやコボルトといった魔物が何十匹と、武器をかざして崖の上から飛び降りてきた。
「グオオオッ!」
「ガウウウッ!」
冒険者や兵士が応戦し始める。だが、数はこちらが劣勢で押され気味だ。俺はメリレイナと、目に付く範囲にいる冒険者にバフをかけた。
「行くぞ!」
「はいっ!」
メリレイナが剣を抜き、魔物の群れに斬り込んでいく。さすがに実力はずば抜けていて、他の冒険者が苦戦している魔物の首も一撃で斬り落としていった。俺はメリレイナの少し後からついていき、怪我人の治療をしていく。そして戦いながら移動し、行列の前方へと進んでいった。
「何をしている! 早く魔物を追い払え! 命に代えても荷物を守るんだ!」
少し進むと、あのボーノルグの声が聞こえてきた。見ると、馬車を降りていて、こっちに走ってくる。俺は声をかけた。
「どこに行くんですか!? 無闇に歩くと危ないですよ!」
「うるさい! お前達冒険者は言われた通りに戦っていればいいんだ!」
どうやら、冒険者や兵士達が不利なのを見て、勝てないと思ったのか自分だけ逃げ出そうとしているようだ。あっという間に行列の後ろの方に行ってしまった。
「バルツさん……」
「構っている暇はない。放っておくぞ」
「はいっ!」
俺達はボーノルグとは逆に、さらに前方に進んだ。まだバフのかかっていない冒険者にバフをかけ、戦力を強化していく。今まで劣勢だった冒険者達が息を吹き返し、魔物を押し始めた。
「うおおおっ!」
「すごい! 力が湧いてくる!」
「これなら勝てるぞ!」
逆に押された魔物達は、ひるんで逃げ腰になる。そこへメリレイナが飛び込んでいき、立て続けに斬り飛ばしていった。それを見て無理だと悟ったのか、魔物達は谷の前方に向かって引き揚げていく。
「やった! 勝ったぞ!」
「魔物を追い払ったぞ!」
「ざまあ見ろ!」
冒険者や兵士が歓声を上げる。俺は負傷者の治療をしながら、元気な冒険者に声をかけた。
「誰か」
「はいっ!」
「後ろの方に、ボーノルグさんが逃げていったはずです。様子を見てきてもらえませんか?」
「分かりました!」
何人かの冒険者が、行列の後ろの方に走っていく。やがて戻ってきた彼らは、何者かに殴られてボコボコにされたボーノルグを引きずっていた。




