10.隊商の護衛を受注しました
王都に戻った俺達は、その足で冒険者ギルドに向かった。そして受付嬢のレファティラに、依頼の達成を報告する。
「お疲れ様でした! バルツさん、初依頼達成ですね! バルツさんならやってくれると思っていましたよ!」
レファティラがやたらに俺を持ち上げる。冒険者登録に来たころは俺の顔を見るだけで馬鹿にしてきたというのに、変われば変わるものだ。
「ありがとう。これを……」
俺はレファティラに、村長から預かってきた依頼達成証を見せた。それと、討伐したゴブリンの耳を切り取って収めた袋を出す。血生臭い話ではあるが、依頼を達成したという物的証拠も必要なのだ。わざわざ村長に、俺達の働きぶりを証言しに来てもらうのも申し訳ない。
「お預かりします。ギルドで確認した後、バルツさん達に報酬が支払われますので、しばらくお待ちください」
「分かった……」
冒険者ギルドを出て、メリレイナの家へと戻る道で、俺はつぶやいた。
「久しぶりの、まともな収入になりそうだな……これでやっと、宿が取れる」
「はあ? バルツさん、宿なんか取ってどうするんですか?」
不思議そうな顔をするメリレイナ。何が疑問なのだろうか。俺は答えた。
「どうするって……そこで寝泊まりするに決まってるだろ。いつまでもお前のところに厄介になるわけに行かないし……」
「……バルツさん」
「な、何だ……?」
「魔王と戦おうっていうのに、そんな無駄遣いする余裕あるんですか? きっと、装備やら何やらで物入りになりますよ?」
「いや、確かに金は必要になるだろうけど、無駄遣いではないだろ。付き合ってもない男女が、一緒の家に何日も住むなんて……」
「住むところがあるのに別に宿を取るなんて、立派な無駄遣いです!」
「ううっ……」
Sランク冒険者でありながら、実家への仕送りのために質素な生活を送っているメリレイナの金銭感覚は厳しいようだ。確かに、必要な物品が最低限は支給されていた勇者パーティーの頃とは、同じようにできない。
「そ、そうだな……俺が間違ってた」
「大体、同じパーティーなんですから、同じ家、同じ部屋に一緒に住んで親睦を深め合うのが常識じゃないですか!」
「そ、そういうものか……? 俺がいた勇者パーティーじゃ……」
「勇者パーティーの常識は捨ててください! 今のバルツさんは民間の冒険者なんですから、勇者パーティーは勇者パーティー、うちはうちです!」
「…………」
俺はうなだれた。確かにメリレイナの言う通りだ。気持ちを切り替えて、民間の冒険者としてやっていけるようにしないと……
「分かった……これからも、お前のところに住むよ」
「それでいいんです。精一杯お世話しますから、余計なことは考えないでくださいね」
☆
数日後、俺達は無事に報酬を受け取ることができた。そこで早速、次の依頼を受けることにする。
「そうですね……北へ向かう隊商の護衛はどうでしょうか?」
レファティラに見せられた依頼状を見て、俺は言った。
「行き先は北部の町、ギラーヴィーか……」
「そうです。マックルーン商会が大量の物資をギラーヴィーに持っていって売りさばくそうです。そこで、うちのギルドに護衛依頼が来ました」
マックルーンといえば、王都でも指折りの豪商である。そのマックルーンが出す隊商というからには、さぞかし大規模なものであるに違いない。
魔王軍の侵攻に晒されている北部の地域では、いろいろな物資が不足している。なので今、よその地域から北部に物資を持っていくと高値で売れる。それを見越して、危険を覚悟で隊商を送り込む商人は多かった。
「もちろん、依頼を受けるのはバルツさん達だけじゃありません。うちのギルドから大勢の冒険者が参加します。先方からは経験豊富な冒険者を、と注文が来てるんですが、先日のゴブリン退治の実績を伝えれば、バルツさん達も依頼を受けられると思います。言ったら何ですけど、護衛任務としては報酬が結構高めですよ」
ギラーヴィーは、魔王軍の前線からあまり離れていない。物資の搬入を阻止しようと、魔王軍が隊商を襲ってくる危険性は十分にあった。だから報酬が高いのだ。
襲ってきた魔王軍を撃退すれば、早めにランクを上げられる可能性もあるか……
俺は、横に立つメリレイナの顔を見た。メリレイナは大きくうなずく。決まりだ。
「分かった……その依頼を受けることにしよう」
隊商が出発する朝、指定された屋敷に行ってみると、そこには数十台の馬車が連なっていた。そして俺達と同じく、ギルドから派遣された冒険者が数十名いる。
さらに、俺達冒険者以外にも武装した兵隊がいた。おそらく商会が常時雇っている用心棒だろう。今回は北部の危険な地域を通るため、臨時で俺達のような冒険者を護衛に追加しているというわけだ。
「冒険者の諸君!」
商会の者らしい男が声を張り上げた。全員の注目がそこに集まる。
「今回の隊商の責任者を仰せつかったボーノルグだ! 諸君には報酬に見合った働きを期待している! 何が何でも、荷物を危険な魔物や盗賊から守ってもらいたい!」
「お任せください!」
「絶対に無事届けます!」
何人かの冒険者がボーノルグに応える。しばらく準備に時間を費やした後、隊商は屋敷から出発したのだった。




