1.追放されたら美少女冒険者と仲良くなりました
「バルツ! お前は今日でこの勇者パーティーをクビだ! 出て行け!」
激烈な台詞とともに、勇者マッセンは俺を指差した。
俺はローラッド王国の勇者パーティーに所属するテイマー兼、回復術師兼、鑑定士である。これまで勇者達と一緒に行動し、魔物の討伐やら何やらに参加してきた。
俺は魔物と直接戦うことはせず、動物を使った偵察・荷物持ちや、傷の手当て、パーティーで使うアイテムの鑑定といったことが任務である。ついでにいうと、勇者達の魔力や体力は俺のバフによって2割近く底上げされている。だったらバフ使いの肩書もあるだろうと気付く、頭のいい読者は嫌いだ。肩書が増え過ぎると紹介が長くなるので、一つはしょらせてもらったのだ。
「おい! 聞いてるのか!?」
さらに怒気を帯びたマッセンの声が響く。俺はマッセンの前に土下座し、泣いてパーティ残留を訴えた。
「もちろん聞いている! 教えてくれ! どうして俺が追放なんだ!? 今までずっと一緒にやってきたじゃないか! 俺はこのパーティーに貢献している! 本当に貢献しているんだ! 確かに、俺がどれだけお前達の魔物討伐に貢献しているか、説明不足なところがあったかも知れない。でもそれは、俺が目立つのが嫌いで、自分の功績をひけらかしたくなかっただけなんだ。信じてくれ!」
俺は必死になって懇願する。だが、いくら頼んでも心と心が通じ合って追放が取り消される、などといった奇跡は起こらず、マッセンは俺を蹴飛ばした。
「うわっ!」
「黙れ! 1匹も魔物を倒さない上に、最近は本業の荷物運びや鑑定でもたびたびしくじってるじゃないか! そんな奴は栄光ある勇者パーティーに必要ない!」
マッセンは鬼気迫る表情で俺をにらみ付けた。床に転がった俺を、マッセンはなおも蹴り付けながら言う。
「国王陛下も、お前の追放をお認めになられた! 装備と金だけは持って行かせてやる! 荷物を全部置いて消え失せろ!」
勇者パーティーの他のメンバーも、俺を冷ややかな眼差しで見下ろしている。誰1人マッセンを止めようとも、俺を助けようともしなかった。
「所詮平民に、私達勇者パーティーの一員なんて無理なのよ!」
「貴族の俺達に今まで使ってもらえたのを、せいぜい光栄に思うんだな!」
こうして、俺はパーティーを追い出された。パーティーがねぐらにしている王都の宿屋からも、わずかな所持品を持たされただけで放り出される。
「…………」
どうしてこんなことになったのか。決まっている。俺が悪いんじゃない。政治が、国が悪いのだ。
宿屋を一歩出た途端、頭の中に声が響いてきた。
『条件“勇者パーティーからの追放”が満たされました。蓄積された経験値が増幅されて還元されます。体力レベルが24から47に、魔力レベルが58から121にアップし、ステータスポイントが3万ポイント加算されます』
どうやら、たった今俺は強くなったらしい。これまでの苦労が報われたというわけだ。
『ステータスポイントの割り振り先を決めてください』
さて、追放された者がやることと言えば、読者の皆様には察しが付いていることだろう。そう、御存じ冒険者だ。王族も貴族も平民も奴隷も、とにかく追放されたら冒険者をやるものだ。
『ステータスポイントの割り振り先を決めてください』
俺は町の冒険者ギルドに急いだ。そこで冒険者ライセンスを発行してもらうためだ。今までも冒険者と同じようなことをしていたが、国王の命令で結成された勇者パーティーに所属していた俺は、民間人としての冒険者ライセンスを持っていない。
なので、冒険者として活動するためにはライセンスを発行してもらわないといけない。最初は冒険者として最低ランクのFランクライセンスから始まって、そこからE、Dとランクを上げていくことになる。通常は最高がSランクだ。
『ステータスポイントの割り振り先を決めてください』
うるせえな、この声。割り振り先を決めるまで、ずっと聞こえ続けるんだろうか。ステータスポイントの割り振りってどうやるんだったっけ?
『どの職業に何ポイント割り振るか選択してください』
ああ、なるほど。職業に割り振るんだっけ。それなら最初からそう言え。
テイマー、回復術師、鑑定士、そしてバフ使いとあるけど、どれも大事だし四等分にしよう。
『選択を受理しました』
『職業“底辺テイマー”が“ハイクラステイマー”にステータスアップします』
『職業“クソザコ回復術師”が“グレート回復術師”にステータスアップします』
『職業“節穴鑑定士”が“目利き鑑定士”にステータスアップします』
『職業“平凡バフ使い”が“超級バフ使い”にステータスアップします』
よしよし。それぞれの職業名は良く覚えていないが、ともかくアップしたらしい。
試しにその辺の鳥でもテイムしてみるか。木の枝にカラスが3羽とまっていたので、テイムして空でダンスをさせた。3羽のカラスは空高く舞い上がり、クルクル飛び回る。なかなか好調だ。
しばらくすると、道を曲がる角の向こう、すぐ近くで複数の悲鳴が聞こえた。
「うわあああ!」
「た、助けてくれえ!」
「誰かーっ!」
行ってみると、巨大なドラゴンが飛来していた。ドラゴンは口から炎を吐き出し、通行人を脅かしている。襲われた人達は口々に叫んでいた。
「ハイパーミラクルストロングドラゴンだ!」
「辺境にしかいないSSSランクのモンスターがどうして王都に!?」
「あんなの勇者でも倒せないぞ! もう駄目だ!」
人が大勢いる街中に、辺境にしか生息しないはずのドラゴンが突然現れていた。そしてそのドラゴンに、17、8歳ぐらいの少女が一人で立ち向かっている。少女は冒険者なのだろうか。簡素な革の鎧に、腕と太腿は剥き出しという格好である。髪は赤く、頭の左側で長い三つ編みにしていた。乳房はとても大きいようで、鎧の胸が著しく膨れている。
赤毛の少女は炎を避けつつ、必死に剣を振り回してドラゴンを撃退しようとしているが、とても通用しそうにない。それどころか今にも食い殺されてしまいそうである。案の定、彼女はドラゴンに跳ね飛ばされて地面に転がった。
「グオオオォ!」
「きゃああーっ!」
赤毛の少女の他にも、周囲には冒険者風の男女や王宮の兵士が何人かいる。だが、ドラゴンには歯が立たないと最初から諦めているのか、遠巻きに見守るばかりで誰も手を出そうとしない。
そろそろ何とかしてやるか。俺はドラゴンの前に飛び出した。
「こっちだ!」
大声で呼びかけると、少女を放置して俺の方に向かってくる。俺はドラゴンを指差して叫んだ。
「テイム!」
「グルルゥ……」
すぐにドラゴンは大人しくなる。俺は少女に歩み寄り、跳ね飛ばされてできた傷を癒した。
「回復!」
「あっ……」
「一人で良く頑張ったな。痛むか?」
「いいえ……確か肋骨が折れたと思ったのに、もう痛くも何ともありません。すごいです……」
「良かった。もう大丈夫だ。いや、待てよ……」
少女の方は心配なさそうだが、きちんとドラゴンをテイムできているか、まだ分からない。それを確かめるため、俺はドラゴンに乗って空に舞い上がった。そのまま王都を一周して元の場所に戻る。目立つのはあまり好きじゃないんだが、仕方がない。やれやれ。
ドラゴンから降りると、また周りの人々が騒ぎ出す。
「そ、そんな! あの伝説のハイパー(中略)ドラゴンをテイムしてしまうなんて!」
「あんな凄いテイマーは見たことがない!」
「おかげで命拾いした……まさに救世主だ……」
そして、先程の赤毛の少女が駆け寄ってきて、俺の手を取る。
「危ないところをありがとうございました……私はSランク冒険者のメリレイナと申します。貴方様のような素晴らしい腕前の魔道士に初めてお会いしました。もしかして、国王陛下お抱えの魔道士様でしょうか?」
「バルツだ。いや、それがな……さっきまで勇者パーティーにいたんだが追放されてしまって……これから民間の冒険者をやろうと思っているところだ」
「そんな……バルツさんのような凄腕の魔道士様を追放するなんて、勇者パーティーの人達はどうかしています。分かりました。私がこれからバルツさんを冒険者ギルドに御案内します!」
「いや、ギルドの場所は知ってるんだが……」
「そうおっしゃらずに! どうかバルツさんのお供をさせてください!」
メリレイナは俺の前に回り込むと、ひざまずいて行く手を阻んできた。見下ろすと鎧の胸元から、大きな両乳房の間の空洞が見える。
やれやれ。ここまで頼まれては、無下に断るわけにもいかないだろう。
「……分かった。それじゃ頼むとするか」
7月31日、大幅改稿しました。
8月1日、前半の追放劇の描写を大幅に変更しました。