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2.推しから恋へ

中庭に着くと、エルリックは私をベンチに座らせ、自分も隣に腰を下ろした。周囲の木々が揺れる音と、遠くで聞こえる学生たちの笑い声が、どこか現実感をなくさせる。私は彼の隣に座るだけで胸がドキドキして、どうしても言葉が出てこなかった。


(エルリックはきっと他の人に自分が泣かせたと勘違いされたくなかったよね…)


申し訳ない気持ちでいっぱいになる、自分の中の【推し活】と【エルリックへの恋心】がぐちゃぐちゃになってますます泣きたい気分になる。


「…カナリア、君、泣いているのか?」


エルリックが私を見つめる。その目は、いつもの冷たさを感じさせながらも、どこか心配そうで、私はまた胸が痛くなった。こんなに冷たい彼の言葉なのに、なぜか心が温かくなる。


「だって…貴方が優しくするから…」


思わずそのまま口を滑らせてしまった。言った瞬間に後悔したけれど、もう遅かった。エルリックは少し黙って、私の言葉を噛み締めるようにしてからまたふっと息を吐いた。


「…まあ、泣いているレディに優しくしているからね…それに君が勝手に泣くのはいつものことだろう。もし、僕が悪いというなら謝るが……」


そのいつもの嫌味が混じる言葉に、少し笑いそうになった。彼の言い方は決して優しくないけれど、どこか私に対しての気配りを感じる。それに、彼が気にかけてくれるのは、少なくとも私の心を傷つけないようにという思いがあってのことだと思う。


(それに本来なら今頃、ヒロインとエルリックの出会のイベントが発生するはずなのに…今は彼はここにいてくれている。なんで嬉しいんだろ…こんなこと考えちゃうなんて…私本当に厄介なガチ恋だ…)


「ふふ、貴方は悪くないよエルリック。…ありがとう。貴方が私をこんなに気にかけてくれるなんて思わなかった」


本来のカナリアならこんな事言わない、でもこれは紛れもない《わたし》の気持ちなのだ。


そんな私の言葉に、エルリックは一瞬眉をひそめた。まるで困ったように、少しだけ顔を背けるその姿が、また私をドキドキさせる。


(当たり前だけど、こんなシーン…ゲームにない……)



「何を言っているんだ。君にはいつも面倒をかけられているからな。少しぐらい気を使ってやってもいいだろう」


彼はそう言いながらも、私の肩に軽く手を置いた。その手のひらの温かさが、じわりと広がっていくのがわかる。


「本当に、君は面倒なレディだな」


その一言に私は思わず笑ってしまった。いや、にやけているか。オタクの欲目かもしれないが、こういう時のエルリックはどこか甘えているような感じさえしてしまう。彼が見せる不機嫌な顔は、私をどんどん好きにさせていく。


(もう、好きすぎる…推しなんて言えないよ…エルリック大好き)


「でも、君に会えてよかったよ…同じ学園に通えるのも嬉しく思う」


その言葉を聞いた瞬間、私は胸が更にいっぱいになった。普段冷たくて、どこか人を寄せ付けないようなエルリックが、こんなふうにサブキャラの私に言ってくれるなんて。幼馴染だから?いや、でも2人きりのシーンはほとんど描かれてなかったから私が知らないだけ?カナリアとエルリックはもう少し仲が悪かったイメージだから彼の行動に驚きながらもドキドキしっぱなしだった。


「ありがとう、エルリック。私もまたあなたに会えてよかった」


それからしばらく、二人は言葉を交わさずに静かな時間を過ごした。周囲の音が遠くに聞こえて、私たちだけの時間が流れていく。


しばらくして、エルリックが急に立ち上がった。


「さて、そろそろ行こうか。僕らの新しい学園生活が始まるんだろう?」


その言葉に、私は少し驚いたが、すぐに彼についていくことにした。


彼は私の前を歩きながら振り返った。彼の冷徹な顔が、少しだけ柔らかく見えた気がして、私は思わず笑顔を浮かべた。


「君が泣くのは…僕の前だけにして欲しい…」


彼はまた正面を向いてぽつりとそう呟く。

その言葉に、私は胸が熱くなった。エルリックが私に見せる言葉少なな優しさが、どうしようもなく好きだった。

でも、これは……まさか恋愛フラグでは?

もしかして私、エルリックと結ばれるかもしれない?まだ、この恋を諦めなくていいんだと胸に暖かな希望が芽生えるとまた少し胸がきゅっとなった。


「ほら、また泣くなよ。面倒だ」


彼は私の心を見透かしたようにそういった。


「泣いてなんかないよっ!」


そう言い返すと2人で教室まで足早に歩き出す。

こうして、私たちの新しい物語が、ホワイトリー学園の中で静かに始まったのだった。



(あれ?やっぱりヒロインとの出会いすっ飛ばしちゃったよね?)

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