0.プロローグ
(ん…。ここは…)
目が覚めると見慣れない天蓋。視界の端にカーテンのようなフリルがチラついてそちらに目をやる。
まるで御伽噺のお姫様が眠るような豪華なベッドであることが分かり、すぐに飛び起きた。
(!?)
起き上がった拍子に目に入った綺麗な薄紫の色素の美しい髪が手の甲を掠める。
自分の頬に触れるとスッピンなのにすべすべのふわふわ…これは私じゃない…
「嘘でしょ、夢よね……」
鏡を見ると、そこに映っていたのは自分ではない、異世界風の少女だった。先ほど触れた絹のような美しい髪、透き通った青い瞳。どこかで見覚えがあるような気がして、ふと思い出す。
「え、カナリア・クローチェ……?って、まさか!」
そう、私は乙女ゲーム『絶対運命⭐︎ラビリンス』の中に転生してしまったらしい。そして、転生したのはサブキャラの「カナリア・クローチェ」ヒロインの親友であり、攻略対象の一人であるエルリックの幼馴染。転生前の私はエルリックを熱愛していた。
__そうガチ恋だ。特にゲーム内で彼に近い立場でいるカナリアを密かに嫉妬していたほどだ。
ゲーム特典は全店舗分ゲットは当たり前、缶バッジは無限回収…アクリルスタンドだって雛壇が組めるほど集めていて…休日はエルリックぬいぐるみをお手製のお洋服を着せて友達とアフタヌーンティーなどに行く…【強火】のガチ恋オタクだったのだ。
それなのに
「嘘、こんなのありえない……」
エルリックのことは大好き。好き、死ぬほど好き。でも、同担拒否だった私が、こんな近い位置で彼を見ることになるなんて耐えられるの? だって、エルリックの恋の相手は、ヒロインのミリアなのだから。
こんな失恋確定の状況に胸がキュッとなる……。いや、いやいやいや!!!逆に考えろ、私。推しが…推し声優の声がこんなに間近で聞けるチャンスなんだ!失恋したっていい!いや良くないけど!!
強く生きよう!カナリア・クローチェとして!
私は朝日が差す窓に向かい拳を突き上げた。
(やるぞ!オタ活!!!)
ずいぶん昔に放置していた小説を書き直しました。よろしくお願いします。