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ただただただ。の裏側で  作者: けー


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痛む報告 秀嗣視点

六章 蓋の隙間から覗くもの そのあとです。



 スープを飲ませた後、絵里子には申し訳ないが宏に言われた通りに眠りの香を少し使えば疲れていたのか気付くこともなくすぐ寝てしまった絵里子。

 肩まで布団を掛けてやり、少し苦しそうな寝顔に胸が痛んだ。


 俺は起こさないように外に出て念話を送る。


 『寝たんか?』

 『ああ、香を少し使ったから起きないとは思うが』

 『恵子情報やけどあいつ眠り浅かったらしいからな』


 苦笑めいた言葉に聞こえるのは俺の気持ちの問題だろうか。


 『で、連れて帰って来れそうか?』

 『本人は嫌がるだろうな』

 『あいつは変なことで頑固やなあ』


 念話にも関わらずどこか吐き捨てるような宏に、いつものように顔を歪め頭を掻いている姿がすぐ浮かび、ずいぶん近い存在になっていると気づかされる。


 『絵里子は、絵里子はどこか仕方ないと思っているようで、化物と呼ばれることも、今回のように責められることも』

 『あほやからな、力を持ってるが故の傲慢てあいつは気づけんねん』

 『傲慢?』

 『力があるからって全てを救えるわけじゃない、力があるから全てを許さなあかんわけじゃない、あいつはそれをわかってないねん』


 言われてどこか納得する、だからこそ絵里子は力を模索する者や努力する者に優しいのか。


 『自分の身内ばっか大事にして、今回は特に達也君と摩耶ちゃん絡みやからこそって感じか』

 『遠いが近い存在だからこそ自分を許せないのか?』


 俺の溢した言葉に宏が一瞬止まった。


 『秀嗣から見て、あいつは自分を責めてたか?』

 『そ、うだな、どこか自分を責めているような、だからしかたないというような感じだろうか』

 『そっか』


 珍しいほどに覇気のない宏の声に戸惑うのは俺だ、ただ母親の話しをした時の絵里子が浮かび俺は何を言っていいのかわからなくなる。


 〝化物〟と言われた時も少し眉を下げ困ったように微笑むだけで、否定も拒絶も何もしなかった絵里子、触れてしまえば今にも脆く割れて砕けそうなほど俺には儚く見えた。


 『たぶんな、力があることもあいつにとったら自分を責める要因なんやと思う』

 『姫巫女の力がか?』

 『さっきも傲慢って言ったやろ?あいつはわかってないねん』

 『な、なりたくてなったものではないだろう!?』


 つい強くなった言葉、力のせいで負担を強いられ傷つき悩むあの小さな体が浮かんで感情的になってしまう。


 『それでもや、それでもあいつは自分じゃなかったらもっとうまくやってたはずやと思ってるんやろな』


 宏の言葉が頭で巡る、二宮に来るときの絵里子の話し、その前の姿、それが全て腑に落ちて、俺はしたくもない納得をしてしまう。


 『今回の二宮行き、俺最初止めよう思っててん』

 『なら、どうして…?』

 『拓斗に言われた、外で苦しんどる人らおるってわかってるから行きたがってるって、それに二宮は達也君と摩耶ちゃんとこも近い、自分は家族安全圏に置いてって自己嫌悪と罪悪感に押し潰されるって』


 知らず手を握りしめてしまう、確かに絵里子のあの言葉はそういうことだったのかと理解できた。


 『それやったらまだ知ってる奴おるとこのほうが安心ちゃいますか?ってな、あいつもこんなことなるなんて夢にも思ってなかったと思うけど』


 脳裏に表情を変えずに気付かさないようにただ耐える拓斗が浮かぶ、あの男は絵里子のことをよく理解し、その前を上手く歩く男だ。


 『拓斗にはこのとは?』

 『俺からは言う気ない』


 その言葉に三人は長い付き合いだと笑う絵里子が浮かんだ。


 『達也君にも』

 『友人関係や、そこまで俺らが縛るもんじゃない』


 断言する宏に確かにそうだなと俺は息を吐き自分を整える。


 『確かにそうだな』


 自分でも零れ落ちたように弱い言葉だと気づいてしまう、あの関係に俺達は入ることはできないだろう。


 『宏は、宏は絵里子を前線から外すことは考えないのか?』

 『ダンジョンに行かさず神社で囲うってことか?』

 『ああ』


 無駄だとわかって聞いている自分がいることも知っている、それはきっと宏も。


 『それこそあいつが潰れてまう、自分の所為で俺ら巻き込んだと思ってるあほが』

 『そんなことはないのにな』

 『俺は全部が違うと思ってないで』


 宏の意外な言葉に俺が止まってしまう。


 『考え方の違いや、あいつが姫巫女になんてならんかったら俺らは神職になってない、けどあいつが姫巫女になったからこそ、俺達は今力もあっていい暮らしができてる』

 『確かに考え方だな』

 『そうやろ?使えるもんは使って、無理なもんは無理って割り切らな』

 『絵里子に足らないのは割り切りか』

 『こっからどんどん割り切ること増える、それこそ命もや』


 少し引くなる宏の音、俺はそれを当然として受け止めるべきだろう。


 『絵里子が暴走しないようにしないとな』

 『暴走は恵子だけで十分やねんけどなあ』


 俺の言葉を受けて柔らかな笑い声を上げる宏、俺達は俺達なりの関係を作って行けばいいだけだと自分に言い聞かせた。


 『まあ一応俺から帰れとは言うけど、たぶん無理やと思う』

 『ああ、大丈夫だ』

 『悪いけど頼むわ』

 『気にするな、俺も仲間だろ』


 そう言ってやれば宏は少し間を空けて明るい声を出す。


 『せやな、苦労は分かち合わなな』


 そう言って念話を終わらせつい小さく息が漏れた。


 どれだけ酷い言葉を投げかけられても、仕方がないとどこか当然だと受け入れていたあの姿に理解はしても納得はしたくない。

 それだけのことを絵里子はしているし与えてきている、絵里子だからこそ。


 不意に子猫の鳴き声のような音が聞こえ耳を澄ませえた、聞こえてくるのが後ろからだと気づき俺は音を立てないように急いで車に上がれば、眉を寄せ目尻に涙を流す絵里子が眠っていた。


 「ごめ…、ご…なさ」


 小さくうわ言を繰り返し苦しそうなその姿につい腕が伸び抱きしめる。


 「大丈夫だ、お前は何も悪くない」


 そう言って熱を分け与えるように抱き込み、目尻を拭ってやる。


 どうすれば伝わるのだろうか、どうすれば自分を許してくれるのだろうか、俺にはまだその方法がわからず、ただこの華奢な体を抱きしめることしかできなかった。





各自の立場、各自の考え方は様々で、お兄ちゃんは大変だなあと思う作者でした。


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