武器寄贈と組合発足2 宏視点
続き。
ある程度の荷物をここで渡し俺達は次にダンジョン省に行くことにする、高遠さんからは危険すぎると言われたが、隊員達だけじゃなく神職にも頑張ってもらわないといけないからだ。
「あの、宏邦様少し宜しいですか?」
「なんですか?」
高遠さんは少し緊張気味に、それでも真剣な目で聞いてきた。
「宏邦様や神社の神職のかたは民間人も戦うことをお望みでしょうか?」
「望むとは違いますね、こんな世界やから自衛は必要やって考えです、それに隊員だけでは手が足りんのもほんまでしょ?」
「ポーションなどを作る人を増やすことは?」
「智から聞いてると思いますがポーションや薬作るにしても魔力が必要です、それにはレベル、魔物を倒さなあかんのですよ」
そうですか、と高遠さんは考えるように黙り込んだ。
ダンジョン省では以前に会ったことある二人と他にも六人の神職がいた、ざっと見て動ける人間と動けない人間はすぐに分かった。
その中でも浜西有美だけが俺の顔を見て輝くような顔になった。
「初めましてですが、時間もないので率直に言います。この中で魔物と戦う気がある方、これからの世界で人として藻掻きたいと言う方、手を上げてもらえますか」
「飯田さんだったか?神職のくせに今更来て、その上人としてだと!?」
噛みついてきたのは尾上さん、予想はしていたが今の感情的には理解したくない。
「言いたいことはっきり言ったら」
「人としてってどうゆうこだ?我々は導くものとして選ばれたんだぞ?」
「ほんまにそう思ってるんやったらこんなとこおらず前線立てや、何が導く者や、やったら前に率先して人を助ければいい」
ついさっき見た前線のせいでつい言葉が荒くなる、この人にあたってもしょうがないことはわかっているのに。
深く息を吐き気を紛らわせる、後ろで拓斗と智が心配しているのを感じてついやるせなくなる。
「失礼しました、皆さんご自分でわかっていらっしゃると思いますが、神職だからと言って何ができるわけでも、特別な力もない。だからこそ聞いています、時間が惜しいのでいらっしゃらないのであればこれで」
「待ってください」
無駄かと思い終わらせようとしたらやはり浜西さんが声を上げた。
「ま、まだ完璧には覚悟が決まっていません、そんなあたしでもいいですか?」
「多少の無理はしてもらうと思います、辛い思いもします、ただ無茶せず命は大事にして頂きたい」
そのあと浜西さんを入れて四人が人として藻掻きたいと手を上げてくれた、高遠さんの用意してくれた別室に移り俺は魔素のこと、外の現状、そして姫巫女の存在を明かす。
「やっぱり、やっぱりあの方が神に選ばれし方なんですね」
その言葉に俺の眉が寄る、俺の鑑定では特に鑑定スキルなど持っているようにも見えない、前に絵里子が見たときもなかったはずだ。
「なぜ、そう思われるんですか?」
「一度目はわかりませんでした、二度目にお会いしたときあの方が部屋に入るだけで空気が正常になり清らかになりました」
「浜西さんはあの時気づいてたんですか?」
「嫌な甘ったるい匂いで気持ち悪くなるだけでしたが、男性陣を見てもしやと。そしてあの方が入って来られてからは」
うっとりするようなその顔に俺は言葉をなくす、あの香水は同性には効かないのかもしれない、絵里子に鑑定やり直させることも考えるべきか。
「あの、それで俺らはどうしたら」
唯一の男性である月城さんが恐る恐る声を上げる、そうこっからが問題なんだ。
「武器と防具はこちらで準備します、それを使って魔物を減らすことを協力していただきたい」
俺の言葉で浜西さんを除く三人の顔が硬くなる、そりゃ簡単に覚悟は決まるもんでもないとわかって俺も言っているが時間はない。そんな中で高遠さんが俺を真剣に見て手を上げた。
「宏邦様、組合などの発足についてはどう思われますか?」
「組合、ですか?」
「はい、ダンジョン省には元々冒険者ギルドを作れと一般からの声が上がっております、そちらに詳しくない私でしたが少し調べてみたら確かに有効かと」
俺は横にいる拓斗と智を見る。
「俺もちょっとしか知らんねんけど、お前らは」
「どっちかって言えば小説や漫画の方のギルドでしょうね、確かに有効やとは思いますよ」
「確かに使えますね、ただ責任問題や国が許すかどうかでしょうか」
「魔物を倒す者も増え素材が集まり生産者も増やしやすい、少しは姫巫女様の心労が減ると思うのです」
「いいですね、私も協力します」
なぜか意気投合している高遠さんと浜西さん、俺はそれを置いといて少し考える。
「なら、拓斗と智は組合について話し合いしとって、俺ちょっと行ってくるから」
「宏さん行くって?」
「まさかダンジョンとか言わないですよね」
智の目がギラリとなるが気にしていられない。
「あのままじゃやばすぎる、少し減らさな」
妹に文字通り身を削らせて無理させてる俺が、ここで無理しないわけにはいかないだろう。
「無茶するタイプちゃうからやばくなったら逃げるしな」
そう言って軽く笑うことでしかこいつらに応えてやることしかできない、神職でもない、加護もないこいつらを連れていく気はないと決めていた。これは俺の我儘だろう、世界の変化をこの目で確かめたいと言う。
高遠さんにお願いし話しは通してもらいまた前線へと俺は戻った、傍から見たら気狂いな好き者に見えるだろう、それでも確認すべきことがあるから俺は臆することなく案内されたテントに向かう。
「ダンジョンの中が見たいと?本気ですか?」
「はい、まだ走り抜ければ行けますし、地上の魔物ならそう怖いこともないですから」
訝しみ歪む数人の顔、そりゃこんな民間人が何言ってんだって感じだろう。筋を通すべきだと思っていたが少し面倒になってしまった。
「神社知ってる方なら知ってると思うんですけど、俺下に妹二人いるんですよ」
にこやかに突然関係のない話しをし始める俺に突き刺さるいくつもの視線、それを真っ向から受け止め俺は笑う。
「兄妹の中で俺が一番弱いですけど、ここにいる皆さんの中で一番強いと言い切れますよ」
周囲が言葉の意味を理解する前に俺は水魔法を三つ矢の形にして自分の周りに浮かべる、怒りに染まり声を出そうとしたその時には周囲の口から音は漏れない。
「俺でも一瞬でこれぐらいはできますから、許可はいりません、付添や護衛も結構です、自己責任で民間人が勝手に迷い込んだとしてください」
「俺一緒行くっすよ、体調休憩時間ならいいっすよね?」
「戸上さんあほちゃう?隊ではぶられんで?」
「こんだけしてもらって何も返さないとか嫌っすから、それに宏さん基本後衛でしょ?」
「そうやけど、単体戦闘も家はやるで?」
「まじっすか?全員っすか?」
「当たり前やん、いつ何があるかわからんし、恵子はいいとしても絵里子のあのチビさは舐められるからな」
「あー、姫様可憐ですもんで」
「可憐か知らんけど秀嗣と組手とかやらすで、一対二とか数増やしても」
俺たちの会話を聞いていた周囲からどよめきが起こった。
「ひ、姫様加賀美さんに勝ったりは…?」
「普通に勝つで、あれでも家の上位やし。秀嗣も最初手抜いてたけど今は本気やな、けどそんなやわな戦闘は家ではしてないし」
「ど、どんだけやってんすか?」
「あほう、女やあらこそやらせるんや、それこそ数の暴挙に出られても体格差あろうとも何とかなる様にさせとくのが家族の義務じゃ」
一瞬周りが止まった気がした、戸上さんが嬉しそうな優しい笑顔になる。
「宏さんお兄ちゃんっすねえ」
「嫌だろうが腐っても長兄やからな」
どこか吐き捨てるように言ってしまうのは、普段言わない本音の為だろうか。
周りのどこか生温い目に耐え切れず俺はそれじゃあと勝手にさっさとダンジョンに向かうことにした。
思ったより長くなってしまい、それなのにもう少し続きを書こうか悩んでる話し。
あの会見とか書いたら面白いかなとか思ったはずなのにそこまで行けてないとかw
また気が向いたら続き書くかもです。




