武器寄贈と組合発足 宏視点
五章 せめて理由を下さい後。
宏達が関東に行った話です。
「それは本当でしょうか宏邦様!?」
「はい、姫巫女様がそう望まれました」
嘘は言っていない、突拍子もない提案を妹がしたことは事実だ。
「ただこれまでより強い武器になりますし、使い方などの説明もありますので私と智、それにもう一人現地に行きたいのですが?」
「そ、それは大変危険かと?」
「それは魔物ですか?それとも」
俺の言葉に目の前の男、高遠誠の顔が歪んだ。
「魔物もそうですが、国もと思って頂きたいです」
「首都は持ちこたえていると」
「はい、ただ場所により壊滅に近い場所もありますし、魔物も多く徘徊しているため上層部からも安全を求める声が多いのです」
俺は少し悩む顔を作り、できるだけ精錬に見えるように微笑む。
「ならば余計に助けとなる新たな武器や薬が必要ですね」
有難いことにそれだけでこの男は落ちた、元々姫巫女様の御威光があってこそだが、別に悪いことをするわけじゃないのに俺の胃は痛む気がした。
ただそのおかげもあって俺たちはすんなりと首都入りすることができた、まだ魔物が溢れて二日目と言うこともあり、一部交通機関以外は減少はあっても使えるようだ。
空港からは高遠さんの手配した車で俺たちの目的地へ、車の中でも感じていたがなぜか空気というのか何かが重くまとわりつくように感じ、それは目的地に近くなればなるほど強くなっていった。
そして車を降りて絵里子の言っていた意味がようやく理解できた、これが魔素か。
俺の希望で高遠さんに一番最初に連れてきてもらったのは最前線と言われている地域だ、覚悟はしていたが拓斗や智を連れてきたのは少し後悔した。
妹の突拍子もない発言から始まった物資の寄付、ただ渡すだけだと必要なところには届かない可能性が有ると高遠さんは言った。
だったら自ら行くしかないし最初から今の国に身を晒す気はない、それに現場を見ておきたかった俺の本音もそこには含まれている。
ぶっちゃけ絵里子の案に俺の希望をいれただけだ。
秀嗣からの情報で俺達と話すような人たちはほぼ前線に近いところに配置されたと聞いた。
「ひ、宏さん!?こんなとこで何してるんすか?」
「おー、戸上さん久しぶり」
驚きで目を見開く戸上さんに俺は片手を上げて気楽に返す、秀嗣に調べてもらったら、俺達が名前を知っているようなよく喋ったりしていた人ほど前線に近いところに送られていた。
「ポーションとか足りんと思ったから持ってきた、隊長さんとかで話が通しやすそうな人誰かおらん?」
「いや、何お隣にお裾分けみたいに言ってんすか?ここほぼ戦場ですよ?」
「家にダンジョンある時点で常戦場やで?」
そう言ってやれば戸上さんは目を丸くして、いつもみたいに笑った。
元々秀嗣経由で話は通っていたようで、俺は現場のリアルな話しを聞くことができた。
「魔物は一定距離から出てこない?」
「ああ、弱いものが時折出てくることはあってもすぐ戻っていく」
「ただ、ダンジョンによってその一定距離は違うようだ」
「なんやろ?俺ちょっと近くまで行っていいですか?」
「「宏」さん!?」
さすがに驚いて拓斗も智も止めるが、たぶん絵里子ほどじゃなくても真眼がある俺だから見えるものもあるはずだ。
「一応これでも神社の神官ですし、そんな簡単にやられませんよ」
「いや、しかしもう十分なことを我々にしていただいている」
「宏さんになんかあったら俺ら」
「あほう、妹があんな無茶してんのに俺がへたれられんたろ?」
絵里子の無茶を知っているから拓斗と智はそれ以上言葉が出ないようだ。
「それに俺が見ることで何かわかれば対策も取れますよ?何かあっても俺の自己責任ですから」
そう言ってしまえば隊としても何も言えないだろう、今のままじゃ先に尽きるのは隊の方だ。
念のため持って来てた神職に着替え、俺は戸上さん達隊に付き添われ足を進める。
「俺一人でもよかったのに」
「そうもいかないっすよ、一応民間人でしょ」
「戸上さんより強い自信しかないわ」
それでもこうやって軽い口叩ける人がいることに少し安心していたのはほんとだ。
足を進めればすぐにわかる、確かに魔素が空気に溶けようとしている、足を進めダンジョンに近くなればなるほど、それは濃くなり強くなる。ちらちらと魔物の気配も強くなり、ここが今人が住める場所じゃないとすぐにわかった。
『魔素があれば地上でも魔物は活動できる』
そのための通気口がダンジョンか、そしてそこから魔物は生まれてくる。
「これ、早めにダンジョン入らなやばいな?」
「どうしたんすか?」
「ちょっと戻って作戦会議しよか、時間貰えますか?」
隊の大きなテントの中で俺達三人と高遠さん、そして五人の隊員が集まった、その中には知らない人が含まれてるが向こうの人選だ、気にしている余裕もない。
「国からどう説明されてるか俺にはわからないので、俺の見た物と俺の主観で話さして貰います」
「民間人の貴方が?」
「はい、ただ神職なんですわ。このままやったら隊としてもじり貧でしょ?」
そう言えば隊員側の顔は確かに曇った。
「はっきり言います、このままやったら魔物は抑えらえません」
「なぜだ!すべて倒せば」
「それ無理です、今活動範囲が限定されてるのはダンジョンから出ている魔素と呼ばれるものがまだ地上に充満してないからです」
「そんなもの我々には感じてないぞ」
「別に毒じゃないですもん、魔法使ってる人おるでしょ?」
俺の言葉に困惑を示す者懐疑的な者理解を示すも者、様々だろう、それでも俺は言葉を続ける。
「これからどんどんと魔素は世界に増えて溶け込み馴染みます、そうなったら世界全てで魔物は活動します」
一瞬騒めく室内。
「魔素の馴染みが濃くなればなるほど強い魔物も外に出てきます、魔素を馴染ませないことはもうできません。この辺り一帯はダンジョンも多いし魔素も濃い、二ヶ月、持って三ヶ月もすれば魔素は馴染み魔物の活動範囲になる」
「ならこの状態がずっと続くということか!」
一人の隊員の怒鳴るような声が聞こえる、物資も人員も考えれば気持ちはわかる。
「魔素はダンジョンから多く出ています、だから外じゃなくてダンジョンの中の魔物を減らすことで外も抑えるしかないんです」
「そんなこと」
「ダンジョン内はほっとけばどんどん魔素が増え魔物が増えます、間引きすることで少しは改善されるでしょう、それに有用な素材も手に入る」
俺はそう言って持ってきていたポーションや薬類をいくつか並べる。
「すでに隊員の中にも負傷者いるんでしょ?これはダンジョンで取れた素材で作った薬なんかです、使ってください、ポーション(微)足りんでしょ?」
俺の言葉に困惑する人たち。
「正直このままやったらほんまに人間はみんなじり貧でしょう、俺らはそれを望んでない、だからこそ戦う人は必要やと思ってます、それに素材を集める人も、物を作る人も、神社知ってる人やったらわかるでしょ?」
「しかし隊員達はすでに疲弊し始めている、そんなことができるわけない」
「そっからの話しは高遠さんとかな、とりあえず先に武器の話ししましょか」
そこから隊員達との話は意外なほど早く進んだ、何人か懐疑的で信じない人もいたが物資も少なく武器も壊れたりなどあったようでそれが後押しとなった。
使い方の説明や契約も理解をすぐ示してくれたのは神社を知ってるからか、それとも国に対する不信感か、今の俺には関係ないことか。