高遠と石田 胡堂視点
五章神職の裏側辺りですね、宏に売られた智のお話。
「お久しぶりですね、このような形でまたお会いするとは思っておりませんでした」
「それは俺もだ、できればそちらのお二人の紹介も願えないか」
「ええ、こちらは胡堂様、姫様とご同輩で神職である宏様の右腕のような方、もうお一人は神職の恵子様の旦那様で守り手をされている紀佳様です」
智の紹介の仕方に痒くなりそうだが何とか真面目な顔を作る、のりさんも少しむずがゆそうだ。
「初めまして、私高遠徹と申します。これからよろしくお願いいたします」
向けられた目は誰が見たって好意に染まり、その表情は智に向かう時と全く違い喜色に溢れている。
「姫様から私達が話すならと、奥の部屋のご使用をと言われていますから行きましょうか、短い話しではないのでしょう?」
「石田は姫巫女様とそれほど仲がいいのか?」
「それはこれからの話しに何の関係が?」
微笑を浮かべる智の目は冷たく、絵里子の前では隠してる黒さが前面に出ている。
奥の和室に移動する間に小さな声で二人の関係を聞けばほぼ同期だと返された、二人共タイプは違いそうだが仕事はできる切れ者っぽいからライバル関係かと勝手に憶測を立てておく。
「で、お話とは」
「まず、本当に神職の方々は」
「姫様のお言葉通り、誰も私利私欲なく望んでません」
「それだけのお力があるだろう、なぜ説得しない」
「姫様が望まないのに?」
冷たい微笑で高遠さんの言葉を黙らす智はやっぱり敵に回したくないと思う、そしてどこか呆れたような溜息をわざと吐き言葉を続ける。
「姫様に近いお二人はどう思います?」
こんなところで話を振らないでもらいたい、それでも浮かぶあの笑顔と地上に胸を痛めたあいつの姿が俺の口を自然と開いた。
「民間人なんで言葉は勘弁してください、高遠さんはあいつのことをどこまで知ってるんですか?」
「資料にあったのは民間人の飯田絵里子様がテストダンジョンと呼ばれるところに閉じ込められ、一ヶ月かけダンジョンをクリアし初めて主神と会い、そして姫巫女に選ばれた。と、そしてこの神社とダンジョンを神から与えられた存在と」
「そのままですよ、ただの民間人で私利私欲なんか望んでない、なんなら地上の状態知って胸痛めるような普通の女ですよ」
「元々優しい子です、そんな大層なもんよりみんなで囲む食卓のほうが嬉しがるタイプ」
のりさんの言葉に同意しかない、担ぎ上げられて喜ぶようなそんな安い存在じゃない。
「で、でわ、姫巫女様達はなぜ隊員達にポーションや武器を?」
「簡単な話しです、それで助かる人がおるんなら」
「ただそれだけですよ、本当に優しい子なんで」
「だから神社前の風呂や宿泊場を広げたり、隊員達を手伝ったと言うのですか?」
この男がさっきから何が知りたいかわからない、だから思ことを言うしかないんだろう。
「全てを見通せるような女じゃない、普通の身近しか見れんような奴です、だからこそ一生懸命にダンジョンに潜り未来を考えている隊員達に何かしたかっただけですよ」
真っすぐに言った言葉は届いたのか、高遠さんは正座した膝の上で拳を震わせ俯いた、絵里子に夢みたところであいつは普通のただの女でしかない。
「素晴らしい、姫巫女様は先ほど感じたように神々しくも暖かく穢れない方で間違いなかった、理解する物ではなく感じる物だったんだな」
勢いよく上がった顔は興奮に染まり嬉しそうで、少しばかりこの人の頭の中が心配になった、智まで驚きで顔が作れてない。
「石田、今姫巫女様が望む者はなんだ?」
「せ、生産者ですね。素材も変わり魔力と言う物のため作れる者が限られますから」
「それを教えてもらうことは可能だろうか?」
「魔力がなければ作れません」
「しかし姫巫女様は人を救いたいが神の意思には背けないと、だったら誰かが姫巫女様の願いをかなえる者が必要だ」
間違ってないけど間違っている、誰か突っ込んでやったほうがいいんじゃないかと心の中で俺は呟くが、智の企みを持った笑顔が怖くてそんなこと言えやしない。
「そうですね、姫様も特にガラス職人の生産者を求めているのですがさすがに我々にはどうすることもできず」
「姫巫女様が!?それは普通の職人でいいのか?」
「いえ、魔物を倒し魔力を持ち、そして魔力を使える職人になります。これからの世界ではそう言った職人でないと制作できない物が多いんですよ」
智の言葉に高遠さんの顔がさすがに歪む、聞いている俺でも簡単にはいかないことだとすぐわかる、ただ智は言葉をやめない。
「今でも姫様はかなり無理をして様々な物を作ろうとされています、止めても自分にしかできないからとそれこそ自分を顧みずポーションもそうですが薬、魔道具、武器、誰かのためになるならと」
どこか悲しそうな顔を作る智は役者だと思う、確かに間違っていないがあいつ制はほとんど外に出せない身内用だ、それに宏さんに命令されて作ってる物もある。
それを知らない高遠さんは感激で打ち震えているし、こうなってくると俺ものりさんもいらなかったんじゃないのか?
「他に胡堂様や紀佳様は何が必要だと思いますか?」
狐がにっこりと笑い、その目が要る物を言えと言うから俺は少し考えて様々な専門書や工具などをこの際言っておいた。
タイトル『狸と狐』にしようかと思いましたが、高遠が違いすぎるので止めました。
胡堂も十分強かだと思います。