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意外な夜 宏邦視点

四章 兄弟だからの夜辺りになると思います。

ちょっとシリアス?回?



 「ちょっと今いいか?」


 細工場で作業中の俺に声をかけてきたのは意外にも秀嗣だった。


 「ええよ、お茶でも淹れよか。俺の部屋と秀嗣の部屋どっちしよ?」


 どこか硬い表情の秀嗣が何が聞きたいかなんてだいたいわかっている、ただそれをどこまで言うべきか、そしてどこまでその権利があるのかまだ迷っているのは俺だ。



 俺の部屋に移動して二人落ち着いて座ればどこか言いにくそうな秀嗣の姿、それについ苦笑しながら俺が先に口を開く。


 「絵里子のこと?それとも恵子?」

 「…、両方のことを教えてもらえるのであれば」

 「俺が言えることはほんま少ないで、それにどこまで正しいかわからんし」


 当時俺は九才だ、多少なりとも覚えている、父と母の慌てようも幾人かの警察が来たことも。


 「それに俺が言っていいことなんか正直俺にもわからんねん」


 家を長く離れていた俺だからこそ、妹二人の仲でどうなっていたのかわからない本音もある、そんな俺に何を言えばいいのか。


 「絵里子は、絵里子は襲われた後何食わぬ顔をしていたが、俺にばれないようにその表情を硬くし、震える手を止めようとしていた」


 その言葉にさすがの俺も少しショックを受けた気がした、あいつは本当はどこまで覚えているんだろう。


 「俺は絵里子を守ると決めた、その笑顔を守ると。その為には絵里子が怖いと思う物、そして絵里子の周りが悲しむことを知らねばそれから守ることができないと思っている」


 真剣な秀嗣の目に飲まれそうになる、正直言うと俺は今日来るとしたら拓斗だと思っていた。

 まだ共にいた時間の短い秀嗣がそこまで絵里子を思うとは俺には考えれてなかった。


 「一応兄として確認したいんやけど、それは守り手としての義務か?それとも秀嗣自身、人としてか?」

 「そ、れは、正直俺にもまだわからない。ただここの空気が好きで、彼女が笑っているこの場所を俺は守りたいと思っている」


 本人無自覚か、はたまたまだ始まったばかりなだけか、その表情を見て俺も腹を括るとするかと思った。


 「俺が知ってることなんてほんま少ないで?」


 そう前置きして俺は話始める、単純であって単純ではない誘拐事件だ。


 「恵子はどこまで知ってるか知らんけど、犯人は元々身代金とかが目的やなかったらしい」


 俺の言葉に秀嗣の顔が変わる。


 「ただ発見が早かったこともあってあいつには傷一つなかった、それでもしばらく夜中に夜泣きしてたん覚えてるわ、それと大人の男を怖がるようになったことを」


 俺が犯人の目的を知ったのも本当にたまたまで、夜中にトイレに起きたら父と母が話しているのを聞いてしまっただけだ。後悔に塗れた母の声は今でも覚えている。


 「そっからはおかんが絵里子に対して過保護なったり、恵子も過敏であいつだけ門限とかめっちゃ厳しくされてたな、だからやろな、あいつ覚えてたん。覚えてるなんて考えたくなかったんやけどなあ」


 つい下を向くのも止められない、俺が知ってるあいつには常に過保護な母の姿があった、それに対してどこか従順だったのは覚えていたからだとわかれば納得できた。


 「俺が地元戻ってきて見たあいつはしっかりもんで、おかんを支えてるように見えたんやけど、こうやって一緒住んで見えたんはあいつこそ負い目感じてたんやろな」

 「絵里子がか?」

 「おかんもそうやけど恵子にも、自分のせいで囚われとるって」

 「そ、それは絵里子のせいではないだろう」

 「俺もそう思うよ、やけどまあ小さい頃のあいつ考えたらわからんでもないなって、離れてたからこそ思うねん」


 漏れた苦笑はずっと放置していた家族への負い目か、それとも蚊帳の外な自分か。


 「こうなってからあいつはどっかでずっと自分のせいで俺ら巻き込んでるって思ってるみたいや、でもそれは俺らが今何を言っても変えれんと思ってる」

 「本人があんなに苦しんでるのにか?」

 「しゃあない、あほやねんあいつ。自分のせいって責めることが相手の負担になるってわかっとる、だからキャパ以上にやろうとしてるんやろな」


 つい浮かぶ小さかった絵里子と今の絵里子、本当であればもっと助けを求めればいいのにあいつは一度も言わなかった、ただ感謝と謝るばかりだ。


 「あいつは痛み見せんのはたぶん家族のせいや、やからすまんけど注意して見たってくれ」


 今の俺にできるのはこうして身近になる人に頭を下げることしかできない、今のあいつからして家族こそ痛みを曝せない相手だから。


 「宏はしっかりした兄貴だな」


 少し微笑ましいものを言うような声に顔を上げれば優しい顔をした秀嗣。


 「俺なんて全然やで、長いことほったらかしにしてたし」

 「そうか、十分いい家族だと、いい兄だと思うぞ」

 「褒めてもなんもでえへんで」


 つい照れ隠しのようにそんな言葉が出るが秀嗣は気にした様子もなく笑ってた。


 「なあ宏、ここでのお前の役割は大変だと思う、だから俺にも背負わせてくれないか?まだ短いとは言え俺もここの一員だ、それに年長者だ、少しぐらい俺にもできることはあるぞ」


 一瞬言われた意味が理解できなくて、ゆっくりとその意味が理解できると今度は気を張っているつもりはなかったが気を張っていた自分に気付いた。


 「お前達家族は優しすぎる、もっと人に頼れ、お前達には何一つ責任なんてないんだから、兄は大変だな」


 秀嗣の言葉に一瞬泣きそうになる、ああ、俺もどこか責任を感じていたと認めるしかないんだろう。


 「妹たちがあんなんやからな」


 苦笑交じりにそう言えば秀嗣は気にした様子もなく笑って、俺は今日新たな友人ができたようだ。





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