表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただただただ。の裏側で  作者: けー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/27

苦い気持ちと邪念 宏邦視点

優しい脅しのあとで、今が大切だからの仮眠中辺りですかね、宏邦と智の会話。




 あいつの異変に気付いたのはいつだっただろうか、違うな、見ないふりをしていたが正解だろう。


 顕著だったのは一人で人と戦ったときだろう、その後も時折目に見えていつもと違う雰囲気を纏う絵里子に戸惑いと認めたくない俺がいた。


 それでも一宮の地下を作るあいつを見れば宵闇様の言葉が頭を巡る。



 『一人異質を理解し、力を理解することなく守るため無意識で使う』



 こいつはそれをどこまで自覚しているのか、無意識だからこそのこれなのかと心の中でため息を吐いた。



 思い返せば二宮以降力に迷うこいつがいたことは間違いない、一人違うと思い込んでいた絵里子。


 そしてあの対人戦、訓練と言って本気ではないしにしろこいつの力は見ていたつもりだった、でもあれはこいつは無意識に手を抜いていたと初めて知った。


 誰よりも早く無慈悲に人の間を舞い続け、躊躇うことなく人の腕を切り落とし、その痛みの叫びすら気に留めることなく舞い続けたこの妹、本来であればこの中で誰よりもそんなことができるタイプではなかっただろう。


 まだ恵子のほうが納得できる、あれは自分の大事なものが明確で、それに手を出されたら人とやることすら躊躇わずしっかりと敵味方を分けるだろう。


 でも恵子の場合は自分の力を理解し振るう、あのときの絵里子にその感覚はなかっただろう。


 だからこそ俺はその無意識を止めるためにも強い言葉で力を使うなと言った。


 無意識での予言のような言葉、飲まれている思考、それは無自覚な力かそれとも守ることに気付かずに固執しているせいか判断はつかない。


 ただわかるのは一人苦しみ藻掻いている妹の姿、無自覚に強力な力を俺達のために振るう、その姿は俺には痛ましくただ見えない傷を負い続け泣いているように思う。



 「少し宜しいですか?」

 「どないしたん?」

 「いえ、姫様に言ったんですね」


 タイムリーと言うのかタイミングが悪いと言うのか、智のこの絶妙な勘の良さはたまに嫌になるがそれに助けられている俺がいるのも本当で、蔑ろにできるものでもない。


 「何をとは聞かんねんな」

 「最近の姫様の様子はわかってますから」


 苦笑の陰に哀しみと痛みが見える、智は今でも自分が引き金を引いたと思ってるんだろう。


 「智や拓斗のせいやない、あいつの性格と気質、いつかはああなってた」

 「それはどこかで理解してます、ただ確かに納得と言うのは難しいですね」


 人の感情なんて複雑で、理解ができたからと言ってそれで終わりではない、それができれば後悔も何もこの世界にはないだろう。


 「やからこそ俺らは考えなあかん、止めなあかん」

 「神が望む存在、力に飲まれないことが正解とも限りませんよ?」

 「それでもあいつが後で後悔せんようにぐらいはしといたりたいやん?」


 一瞬止まった智がふっと力を抜き笑う、正解がわからない今兄としてできることなんて守ることに固執し過ぎて見えていない妹を止め、大きすぎる後悔を背負わないように考えるしかできない。


 そんな自分に歯痒くもあり、それでも俺が思い詰めるわけにもいかないとどこかでセーブを利かす。


 「明日からの移動は大丈夫でしょうか?」

 「不器用やけど受け止めるのが上手い秀嗣がおるし、それに拓斗も早めに終わらせて合流する気やろ」

 「あえて血の繋がった身内側にしなかったのは」


 智の言いたいこともわかっている、隣県の間引きで何があり何を見るか、俺も不安がないわけではない。

 理由を作って三宮に居させることも確かに可能だった、でも俺にはそれが悪手に思えた。


 「家族に囚われてるあいつや、今は下手打てへんやろ?」

 「秀嗣も拓斗も十分だと思うんですが?」

 「それでも弱音や愚痴は吐きやすい、恵子なんか過剰反応してまうからな」


 あの人との戦闘以来、恵子の絵里子に対する視線はまた過敏になった、気持ちもわからなくないが拗らせたあいつからするとそれはまた重荷になってしまう。


 その点拓斗は器用に悟らせないように過保護になり、秀嗣は不器用な優しさで絵里子を包もうとする。


 気が重いことばかり考えていたらふと邪念が働いた。


 「智はもし絵里子に彼氏できたらどうするん?」


 ぶっちゃけただの興味と重たいことから逃げたい俺の邪念の下世話な質問、それに智はそうですね、と言いながらいつもより深く微笑んだ。


 「姫様の選んだ方ですから受け入れますよ」


 その声はいつもと変わらないし微笑んでいるのにどこか怖い。


 「ただ姫様につり合うためにも教育と特訓は必要でしょうね、姫様を守れる男でないと」

 「恐ろしすぎて男が逃げそうやな」

 「姫様がそいつがいいと言うなら逃がしません」


 なんで家の奴らはこうも絵里子が好きなのか?俺としては理解不能な点が多いがそれでも仲間の内は心強いはずだと信じておこう。


 「まあ確かに生半可な奴はあいつとはもうおれへんやろうなあ」

 「私欲で姫様に近づく者は排除されますし」

 「他がやるみたいな言い方してお前もやるやん」

 「私は教育係希望ですから、まあなかなか出番はないでしょうが」


 色んな意味で妹の出会いと婚期が不安になるが、そこを突けば自分に返って来ることを知ってるから俺は口を噤んだ。





行き詰っていたので久々に外伝書いてみました、智好きだけど難しいなといつも思います。

その代わり宏が動かしやすくて外伝宏多すぎだなあ、気をつけなければ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ