兄として、仲間として(2) 宏邦視点
準備もあるが休むことも大事だと一度みんなを部屋に戻して俺も部屋に戻ろうとする。
「少しお時間良いですか?」
「来ると思ってたわ」
俺の言葉に微笑みを変えることない智は俺が予想していたこともわかっていたんだろう。
「体まだ辛いやろ?」
「それよりももっと痛いものがありますから、それに望んでなった補佐の仕事です」
俺には俺の覚悟があるようにこいつにはこいつの覚悟があって、そして今回の事は自分が引き金になったと思っている、なのにそれを表に出さないのは絵里子と違って責任と本当の覚悟を知っているからだろう。
俺の部屋に移動して床に散らばっている物を押し広げ座れる場所を作れば智がコーヒーを淹れてきた。
「もう少し片付けませんか?」
「基本ここに来る奴はおらんからな」
「これから私来ること増えそうなんですけど?」
そんなことがそう起こって欲しくないとは思うが確かにそうなるだろうなと苦笑した智に思う。
「お前はほんまによかった」
「私の覚悟、侮らないで頂けますか?」
望めばこいつも絵里子の下につけたはずだ、それなのにより力もなく面倒な俺の補佐を選んだ智、俺は何よりもそこに迷いは感じている。
「適材適所です、姫様には武力と距離であの二人が最適です、恵子さんにはのりがきっちりいますし、頭脳の貴方にこそ私が必要でしょう」
「間違ってはないがな、大変やぞ?」
「最初からわかって貴方に売り込んで自らここにいます、ただそれだけですよ、そしてこれからも」
事も無げに簡単に言葉にする智にまだ迷う俺の心を見透かされている気がした。
「宏の心労、それに考え迷うことはわかります、ここの舵取りはどこよりも大変だとも、そして兄で居続けることも」
宵闇様の腕の中、力なく意識をなくした絵里子を見て俺は強く返せと、俺の家族を俺の妹を返せと思った、失うことの簡単さを見せつけられて俺はどこか我を見失った。
「みんなで守るものでしょう?貴方一人が背負うものでも貴方一人が守るものでもないでしょう?貴方もそこを忘れやすいと思いますよ」
「兄妹揃って悪癖やな」
「そうですね、ただ気持ちもわからなくないからこそ私がいます」
はっきりと言う智に迷いはなく、俺はただそれを受けて大きな息を吐いて自分を誤魔化すことしかできない。
「ならさっさとこっからの事話ししよか」
「はい、宏としてはどうする気ですか?」
「俺は隠れるの止めようかと思ってる」
「それは」
少し驚いた様子の智、考えていなかったわけではないだろうと俺は言葉を続ける。
「姫巫女は隠さなあかん、やからこそ俺達が強くなってパーティーとして異質になる」
「力を隠さないと言うことですか?」
「ああ、レベルは正確なことは言う気はないけどな」
「高すぎるレベルの説明は難しいですからね、ただ表に出ると言うことは」
「人に求められても知らん、俺達ただの探索者や」
俺の言い切った言葉に智は一瞬目を大きくしたがすぐにそれを飲み込んだ。
「そうですね、了解しました。高遠ともその辺りは説明しておきます」
「俺は隠すべきは姫巫女だけやと思ってる、俺らが表に出ることでその中の一人にしてしまえばあいつだけが目立つことはない」
「国に対してはどうしますか?」
「俺としてはもう関係ないものとしたい本音やな」
できる限りの協力はしてきたつもりだ、その結果があれだと言うのであれば俺は許すことなどできないだろう。
「私も国や国民に対してはどうでもいいと思ってます、しかし姫様が納得しますか?」
「あいつが気にするとしたら隊員達やな、秀嗣のこともあるし」
「しかしあの場には」
智の顔が歪む、こいつを誘い出したのは紛れなく自国の隊員でありあの場で絵里子を狙ったのも自国の者だ、それでも。
「知っている隊員達をあいつは無視できんやろうな」
「秀嗣のこともあるからですか?」
「それもあるけどあいつ自身がもう知ってしまった人や、知り合いや顔見知り、そいつら自身がなんかしてきたわけやない」
吐き捨てるような言い方になるのは仕方ない、例え関わっていなかったと聞いていなかったと言えどそれが本当かすら俺達にはわからない。
「念のため高遠にも探りを入れておきます、あと隊の方にももう少し、それとどこの国かですかね」
「いやそれはもうええ」
「どうしてですか?」
「関係ないからや、国だろうがなんだろうがこれ以上引っ掻き回される気はない」
苦いあの光景が頭に浮かび自然と漏れ出た魔力に智の苦笑が聞こえ我に返る。
「確かに仰る通りですね、では国が狙っているのは神社として姫様には話しを進めましょうか?」
「なんでや?」
「自分のために周りを狙われていると思われるより、神社のせいでみんなが狙われていると思って頂くほうが誤魔化しやすいですから」
確かにそうではあるがそれは難しいんじゃないのか?そう俺の顔にも出ていたんだろう、智は続けて言葉を繋ぐ。
「姫様には神社前も拒絶区域として頂いて、適当に誤魔化すような話で濁せば姫様は気づかないでしょう?」
「確かにそうやけど」
「あの方は我々が姫様を騙すとは思ってもいない、本当に身内には甘すぎると言うかなんというか」
智の手が強く握られ言葉とは違い悔恨に痛むような表情、それは智だけでなくきっとみんな、その中に俺も含まれている。
あいつは知らなければいけない、俺達の思いと覚悟を。
「やからこそ今回できっちりわからしたらなあかん、智も忙しいけど頼むわ」
「はい、わかりました」




