二宮職員のある一日
六章以降、七章の辺りですかね?
こうゆう人も増えてると思うんですな話し。
組合入り口が乱暴に開けられ粗野な態度の男が一人カウンターにやってきた。あたしは笑顔をしっかりと作り微笑むように声を出す。
「いらっしゃいませ、本日のご用は何でしょうか?」
「職員になりたいんだけど」
「申し訳御座いません、ただ今は一宮のみでの採用となっております、こちらでは募集しておりません」
申し訳ないと頭を下げて誠心誠意心を込めて対応をする、尊敬するあの方がどんな時もそうしていたように。
なのに男は不機嫌だと表情を作り上から目線で言葉を繋ぐ。
「そんなこと言っていいの?俺、テストダンジョン経験者だけど」
「神官と言うことでしょうか?」
対応を変えることなく微笑を浮かべあたしが切り返すとにやにやしていたのに戸惑うようにたじろいだのは男の方だ、歳はまだ若そうで二十代ぐらいだろうか?
「ち、違うけど、レベル持ちでこの辺りじゃ一番強いだろう?だから」
「神官ではないと言うことですね、確認ですがアイテムや武器などは持ち帰りされましたでしょうか?」
しっかりその辺りのマニュアルならできている、神職ではないテストダンジョン経験者の話しも聞いている、その人たちがたぶん何も持っていないことも。
「いや、ないけど」
「承知致しました、それではレベルはいくつでしょうか?探索者札がありましたらお出し頂けますか?」
「6だよ、この辺りならこんな強いやついないだろ?」
威張る様に胸を張る男に頬が引きつりそうだ、嫌になるけど笑顔を崩すわけにはいかない。
「探索者札はお持ちでないと言うことですね、現在は神職やテストダンジョン経験者の皆様にも一宮で採用試験を受けて頂いております、一宮でしたら随時募集しております」
一宮や支部などでこうゆう案件は出てきていると聞いていたが、ここで起こるとは思ってなかった、しっかり連絡網読み込んでいてよかったと心で息を吐く。
「聞いてた?俺レベル6なんだよ?あんた達より強いんだよ?」
そう思うなら今まで何をしていた?ダンジョンができてもう一ヶ月以上経っているのに今までどこで何してたんだ。あの方の姿が浮かびそう思うが言葉はきっちり飲み込んで表には出さない。
「職員は仮採用後研修としてダンジョン研修も御座います、レベルは申し上げれませんが職員一同レベル保持者です」
そう言えば一瞬腰が引けたように見えるのはあたしの見間違いじゃないだろう。
「どうしたんですか?」
「揉め事ですか?」
明るい声を掛けてきてくれたのは小森夫婦だ、きっとあたしが困ってると思って来てくれたんだろう。
「いえ、この方が職員になりたいと言うので案内をしていただけです」
「一宮まで行かなあかんもんね」
「はい、魔導車やバイクがもっと普及できればいいんですが」
そんな世間話をするぐらいにはこの夫婦は組合に本当によくしてくれている、この二人だけじゃなくご家族みんなやこの辺りの住民みんな、本当に助けられていて頭が上がらない。
だからつい男から視線を外してしまい、カウンターを〝ドンッ〟と殴る音で視線を戻せば怒ったように顔を赤くし怒鳴りつける男の姿。
「そ、それでも俺はレベル上位者だろ、下っ端に俺の価値がわからないだけだろ」
魔物が溢れ世界の常識が変わった、だからこうして怯えや恐怖、優越感などから勘違いする人は増えている。
「なあ兄ちゃん、探索者なん?」
「なんだよおっさん、俺はテストダンジョン経験者だ」
「神職、って感じやないよねー?だって姉さんらと全然違う」
「あそこと比較するほうがおかしいから」
男の言葉を物ともせずにのんびりとした会話をするこのご夫婦は、本当に仲が良くて羨ましくなる。
「で、お兄さんレベなんぼ?」
「そんなはっきり人に聞くもんちゃうって組合でも注意されてるやろ?それ摩耶のあかんとこやで」
だってー、と言いながらも興味は男に向いているようで、奥さんの目線は外れずにどこか揶揄いを含んでいるように見え、それをわかっているからか旦那さんはため息を吐いた。
そんなことにも気づけずに男は胸を張り声を上げる。
「お前らなんかと一緒にするな、俺はレベル6だ」
「6やって、かわいー」
「そう茶化すもんちゃうやろ、まあこれからも頑張ってレベル上げ」
きっと驚かれると予想していた男は二人の反応に一瞬止まる、そしてまた顔を赤くし唾が飛ぶほど怒鳴り始めた。
「お、お前ら弱いくせにそんなことよく言えるな、魔物が来ても助けてやらんからな」
「いや、助けいらんし」
「6に助けられるとか姉さんに顔向けできんことするわけないやん」
「その基準おかしくない?」
「尊敬して目指すべきは姉さんやからな」
男の怒りを放置で進む夫婦の会話につい笑いそうになるからやめてほしい、それでも奥さんの言うことは理解ができてしまったあたしも十分だろう。
まだ何か言おうと男が口を開こうおとするがこのままでは他の人たちにも迷惑が掛かってしまう、きっちり仕事はしなくては。
「正確なレベルを言うことは組合としてできませんが、このお二人は10は越えてますよ、この二宮のトップ探索者です」
微笑みながら最終通告のようにあたしは告げる。
「この二宮には探索者も多く来ていただいておりますし、老人会の皆様もダンジョンに潜り自衛手段を得るようになっております、また定期的に氾濫を想定した避難訓練などもしておりますので、ご心配は結構です」
田舎故にこの男は侮っていたんだろう、探索者のなり手も少ないと踏んでここまで来たんだろう。
確かにあたしも最初はどうなるかと心底思った、確認で入ったダンジョンで魔物の強さや道の複雑さ、それに加えゴブリンが多く実入りの少なそうなダンジョンと設備の不十分な簡易の建物に絶望しかけた。
探索者がダンジョンに入り魔物を倒さなければならない理由は職員になるときにしっかりと説明を受けている、ほっとけば魔物が氾濫することはわかっている、だからこそ絶望した、いつ氾濫するだろうと恐怖もあった。
それを全て変えてくれたのは姫様だ。
あの方が来てくれてから全ては変わった、正式オープン前だからと宣伝に使ってくれと様々な物を寄付し、魔物を倒し、地図の提供までしてくれた。
そしてあの方がいたから老人会や婦人会、それに青年団など住民の皆さんと協力し二宮を盛り立てこの地域を守ることができている。
職員だけでは目の届かない部分の見回りや探索者同士の揉め事の仲裁など、多方面で助けられ感謝すれば、姫様のおかげで今の生活があるとみんな言う。
間引きがあったから自分たちも安全にレベルを上げれていると、魔物肉を貰ったおかげで体が楽だと姫様に感謝する。
あれだけ身も心も傷ついてもそれでも組合は大切だからと頑張って下さいと笑顔で応援してくれた姫様が基礎を作ったこの二宮、どこよりも問題数も少なく円滑に回っていることがあたしの誇りだ。
だから、こんな男なんかの恫喝ごときで心くじけるわけがない、あのときの姫様のほうがもっと辛く傷ついていたんだから。
「職員希望は一宮でお願いします、こちらですと探索者登録となりますがいかがなさいますか?」
にっこりと笑う、最後まで笑顔だった姫様を見習って、あたしもいつかあの方のように誰かのため笑えるようなそんな人になれたらと。




