敵陣を突破せよ!
『ゴオオオオオルッ!! ここで決めてくれました、大悟選手っ!』
『バランスよく忍術で身体強化した、良いシュートでした。いやぁ、上手いですねぇ』
『シュートを決めた大悟選手、チームメイト達にハイタッチしますが、まだ表情は硬いですね』
『でしょうね。今のところ、点数は33-5です。現状、『雑賀ブラック・レイヴンズ』は後、29点もゴールする必要がありますからね。1点を返したくらいでは、まだ喜べませんよ。更に、次の攻撃権は『黒巾木スノウ・チルドレン』です。あまり見たいとも思いませんが、勝つだけならボールだけ護って残り時間を逃げ回れば勝ちですからね』
『成程。『雑賀ブラック・レイヴンズ』の苦境はまだ続く、という事ですね』
『当然、この辺りを逆転する為の秘策を『雑賀ブラック・レイヴンズ』も考えている筈です。練習でも組み込んだ事の無いプレイが必要になってくるでしょうが、それをどれだけミスなくこなせるか、そこがこれからの見所になるんじゃないでしょうか?』
『ありがとうございます、北川さん。さぁ、『黒巾木スノウ・チルドレン』、フォーメイションに付きます。——っと、おやぁ?』
『うわー、なんてこった!』
『フォーメイションは3-3-2-6-6『黒巾木スノウ・チルドレン』、FWの周囲に『氷雪人兵の術』で生成した氷の人形で囲んだフォーメイションです』
『見たくもないものを見せてくれますね。『黒巾木スノウ・チルドレン』は、こうやって後半戦を逃げ回るつもりですよ』
『『雑賀ブラック・レイヴンズ』のサポーターからヤジが飛んでいますね』
『当然でしょ。勝負から逃げているんですからね』
『——っとぉ、おやぁ?』
『どうやら、ここで『雑賀ブラック・レイヴンズ』もフォーメイションを変えてきましたね、カイバラさん』
『はい、そのようです。『雑賀ブラック・レイヴンズ』のフォーメイションは4-3-3に変更。FWにMFの津田選手が入りました』
『津田選手がセンターフォワードに。大悟選手と無二選手はウィングにポジションを変えたようです。『雑賀ブラック・レイヴンズ』、まだ秘策があるようです!』
『『雑賀ブラック・レイヴンズ』、どうやら諦めていないようですね。いやぁ、興奮してきたなぁ!』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
当然ながら、大悟どころか『雑賀ブラック・レイヴンズ』の面々は、『黒巾木スノウ・チルドレン』が逃げの一手を選択する事は予想できていた。
シュートを決めたら、相手側に攻撃権が移る。
その時、氷の人形でボールを持った選手を囲めば動く要塞の出来上がりであった。
ハンドによるペナルティキックを警戒してか、『黒巾木スノウ・チルドレン』はこの後半戦、逃げの一手を選択したようである。
「ありがたいことだな」
そう言って大悟の隣に立った男がそう言った。
MFの津田 龍介であった。
長身痩躯に切れ長の双眸。
蛇を思わせる顔立ちの男である。
妖怪『蛇人間』の半妖である彼は火遁忍法の達人であった。
本来はMFだが、今回の作戦の為、FWのポジションに変更となっている。
「大悟、無二、頼むぞ」
「こちらこそ……」
と、無二。
「ええ、期待には応えますよ」
と、大悟が答える。
2人は頷き合って左右のウィングのポジションに着いた。
ピイイイイイイイイイイイイイィィィィィッッッ!!!!!
忍者サッカー審判がホイッスルを鳴らす。
『雑賀ブラック・レイヴンズ』の予想通り、『黒巾木スノウ・チルドレン』はキックオフと同時にセンターサークルの中央に位置するFWの周囲を、氷の人形10体が固めて鉄壁の要塞とした。
サッカーボールはあの敵陣のど真ん中。
奪わない限り、こちらは得点できない。
このまま後半終了まで逃げ切る気なのだろう。
当然ながら、『雑賀ブラック・レイヴンズ』のサポーターは大ブーイングの嵐だ。
「大悟、無二! 行くぞ!!」
そんな中、津田が気合の入った声を放ち、両手で印を結ぶ。
『はい!!』
大悟と無二が同時に叫び、腰のホルダーから赤色の巻物を取り出し、軸棒を起点に中に納められた和紙を外に晒す。
梵字で文章が書かれた謎の紙。
忍法や忍術の心得が無い人間からは何を記載されているか解らない文面が、フィールドに舞う。
そして、——
『忍法! 『烈火飛翔弾の術』!!』
津田、大悟、無二。
三名の忍者サッカー選手が同時に忍法の名を叫ぶと、彼らの周囲にそれぞれ10個の火球が生成される。
大きさはいずれもサッカーボールと同じ位の大きさである。
そして、——
『行っけえええぇぇぇっっっ!!!!!』
3人同時に、前面を護る氷の人形を指さす。
その瞬間、——
ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!
合計30個の火球が、全面に位置する氷の人形に向かい、風切り音と共に発射された!
人間の表情のない氷の人形は、能面のままそれを眺めていた。
そして、——
チュドオオオオオオオオオオオオオオオォォォォンンンンンンンン!!!!!
爆薬が炸裂するような派手な音をたてて、氷の人形の一体が水蒸気と共に焼滅する。
鉄壁の防御陣に、——穴が空く。
氷の人形に護られていた『黒巾木スノウ・チルドレン』のFWが、目を見開いて驚いた。
「今だ、無二!!」
「任せて!」
爆炎と水蒸気が爆ぜる音が満ちるフィールドの中を、無二が駆けだした。
彼女の視界の中には、焼滅した氷の人形が、周囲の水分を媒介に再生が始まっている所だった。
(このチャンス、逃しはしない!)
無二は心の中で決意の炎を燃やし、忍術で体を加速させる。
ビュン!
小柄な少女の体が風を切ると同時に、残像を残してかき消える。
高速移動による弊害から、彼女の視界が狭まる。
その視界の中で、氷の人形が不完全ながらも五体を生成した。
細長い腕を振り上げ、無二に振り下ろそうとしている。
(疾れ! もっと速く!!!)
無二は心の中で己を叱咤した。
(速く! もっと速く!!!)
己を殴殺しようとする氷の人形に向けて、それでも少女は駆けた。
無二の目は、氷の人形ではなく、その陣の中にいる『黒巾木スノウ・チルドレン』のFWを見ている。
「たああああああああああああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」
裂帛の気合と共に、無二が身を屈め、時速100㎞の速度でスライディングする。
ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!!!!
芝生と土を削る音と共に、無二の体がスライディングで駆け抜けた。
——ブン!!
間一髪、無二の頭のすぐ上を、氷の人形の拳が通り過ぎる。
(もらった!)
無二は勝利を確信すると共に、スライディングの姿勢のまま、腰から自動拳銃2丁を取り出し、左右に構える。
ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!!!!
芝生の上をスライディングの姿勢のまま、無二の体は氷の人形の股下を時速100㎞の速度を維持したままくぐり抜けた。
敵陣、突破!
「なっ!?」
『黒巾木スノウ・チルドレン』のFWが、氷の人形をスライディングの姿勢のまま突破してきた無二に驚愕し、手裏剣を投げようとした。
しかし、圧倒的に反応が遅い。
忍法『認識慮外の術』。
忍者サッカー選手も、彼女を目で動きを追えたとしても、無二を敵と認識できない。
「グッバイ!」
軽く声をかけ、無二はトリガーを連続で引いた。
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパァァァァァン!!!!!
乾いた銃声と共に、20連発の弾丸が『黒巾木スノウ・チルドレン』のFWの胴体に叩きこまれた。
「グワーっ!」
絶叫したFWがフィールドに崩れ落ち、絶命する。
無二はFWがフィールドに倒れると同時にスライディングの姿勢のまま、サッカーボールを奪った。
そのまま瞬時に起き上がる。
防御陣を形成していた氷の人形たちが、グルリと180度回転して、中心にいる無二に意識を向ける。
しかし、その頃には無二は起き上がってボールを蹴り出す体勢に入っていた。
「えぇい!!」
ポーン!
サッカーボールは放物線を描いて宙を飛び、——氷の人形の手に当たった。
ピイイイイイイイイイイイイイィィィィィッッッ!!!!!
忍者サッカー審判のホイッスルが鳴った。




