ペナルティキック
ピイイイイイイイイイイイイイィィィィィッッッ!!!
ファールを報せるホイッスルが鳴った。
スタジアムのサポーター達は、唖然とした表情を浮かべている。
『黒巾木スノウ・チルドレン』の忍者サッカー選手達も、目を見開いて驚いている。
……ポーン……ポーン……コロコロロロ……
氷人形に直撃したサッカーボールが芝生の上を転がり落ちる。
暫く転がり続け、そして止まる。
全員、時間が止まったかのように硬直していた。
その中を、忍者サッカー審判が大悟のいるセンターサークルまで歩いて来る。
その顔は怒りに満ちた厳しい表情を浮かべていた。
審判が口を開き、——
「ハンド!」
審判は氷人形に向かって、高らかにそう宣言した。
大悟が放ったボールは、氷人形の手にあたったのである。
忍者サッカーにおいて、もっとも許されない最悪の罪。
即ち、——ハンドである。
「へっへっへっ! ——ペナルティキック、いっただっきまーす!」
大悟が憎たらしい笑顔を浮かべて、そう言った。
忍者サッカーにおいてハンドは絶対に許されない。
故意にしろ偶然にしろ、ハンドしたチームは相手選手からペナルティキックを受ける。
これはFINFA公式ルールブックにも記載されている、国際ルールなのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『おぉっとぉ! ハンド! ハンドです!! ——北川さん、こ、これはもしかして……』
『うわぁ、そう来たかぁー! やられましたね、『黒巾木スノウ・チルドレン』。これ、絶対にわざとですよ。見て下さい、大悟選手のあの笑顔を!』
『憎たらしい笑顔を浮かべています。間違いありません、わざと氷人形の手に向かってボールをキックしましたね、大悟選手!! 『黒巾木スノウ・チルドレン』側のサポーターからは大ブーイングが起きています!!』
『うわぁ、殴りたいな、あの笑顔。——とはいえ、忍者サッカーにおいては反応しない選手が悪いですからね。これ、FINFA公式ルールブックにも書いてありますから』
『成程。確かに普通の忍者サッカー選手ならば対応できますが、氷人形では対応できない。ピッチで忍者サッカー選手として参加している以上、これは言い逃れできません! 『黒巾木スノウ・チルドレン』のチームが審判に抗議していますが、……あぁ、やっぱり覆りませんね!』
『当然ですね。——けど、これで試合の流れが解らなくなりました。氷人形は今では、ペナルティキックを量産する不良選手の集団と化してしまいましたからね。『黒巾木スノウ・チルドレン』はこれで戦術を組み替える必要が出てきました。それにどう対応できるか、そして『雑賀ブラック・レイヴンズ』それまでの間に30点のゴールを決められるかが、この試合の見所になりそうです』
『ありがとうございます、北川さん。——さぁ、ピッチではPKが始まろうとしています!』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ハンド。
それは、忍者サッカーにおいて最も重い罪である。
通常のサッカーならば、仕切り直しとしてフリーキックからのスタートになるが、忍者サッカーにおいてはどのエリアで起きたとしても、ペナルティキックへ発展してしまう。
ハンドが忍者サッカーにおいて、明確に『罪』とされている理由であった。
ゴール前には『黒巾木スノウ・チルドレン』のGKが不満全開の表情で立っている。
どう見てもこのPKを納得していないようであった。
そしてそのゴール前に立つのは、鈴木 大悟である。
PK権を獲得したばかりの憎たらしい笑顔は引っ込み、冷徹なJリーガーの目でゴールを観察していた。
『黒巾木スノウ・チルドレン』のサポーターの怒号と、『雑賀ブラック・レイヴンズ』のサポーターの声援がスタジアムを揺らす。
(まずは1点! ここで決める!)
心の中で気合を込め、大悟は両目を闘志で燃やす。
ピイイイイイイイイイイイイイィィィィィッッッ!!!
忍者サッカー審判がホイッスルを拭いた。
PKの開始だ。
呼吸を整え、ゴールポストとGKを見据える。
右足を踏み出す。
更に大悟は忍術で体を加速させ、芝生の上を疾走する。
そして、——
「喰らえええぇぇぇっっっ!」
チュドオオオオオオオオオオオオオオオォォォォンンンンン!!!!!
極限まで忍術で強化した脚部の筋肉を駆使し、大悟は足の甲でサッカーボールのど真ん中を蹴り抜いた。
爆薬が炸裂するような豪快な音と共に、サッカーボールはフィールドを駆け抜けた。
高速回転を続けるサッカーボールが、空気の壁を突破して超音速で飛翔する。
そして、——
ボン! シュルルルルルルルルルルルルルルル!!!!
大悟が蹴ったボールは、ゴールポストのネットを貫通し、背面のコンクリートの壁に陥没し、それでも尚、高速回転を続けていた。
ピイイイイイイイイイイイイイィィィィィッッッ!!!!!
再び、ホイッスルが鳴った。
大悟のゴールを報せる為に。




