後半戦ミーティング
ミーティングルームに集合した雑賀ブラック・レイヴンズ。
後半戦に関するミーティングには忍者監督と忍者サッカー選手は勿論の事、分析を担当する忍者コーチも同席していた。
「では、兵藤コーチ、相手チームの『氷雪人兵の術』の分析結果を発表してくれ」
忍者監督の雑賀 孫一が、忍者コーチの兵藤に問い掛ける。
「それでは、説明します」
黒いスーツを着た兵藤という男が落ち着いた声で前に出た。
7、3分けにされた黒髪をボマードで固めた髪型に、銀縁眼鏡を掛けた長身の男である。
コーチというよりもエリート官僚や政治家の秘書のような風貌であった。
「まず、最も警戒すべきは、『氷雪人兵の術』で生成された忍者サッカー選手の戦闘力です。一体、一体が氷遁系の忍法を駆使して戦闘を仕掛けて来ます。フィールドを広範囲にわたって凍結し、相手選手の足を氷で止め、動けなくなった所を殴打して仕留める。これが基本戦術のようです。全長は推定3m。最大速度は推定時速50km。パンチの威力は推定1t。殴られたら死にますね」
兵藤コーチはそう言って、iPadを操作する。
ミーティングルームのプロジェクターが起動し、スクリーンに先程の試合のリプレイ動画が映し出された。
『雑賀ブラック・レイヴンズ』の選手が、次々と氷の人形に推定1tのパンチでボコボコにされていく様がダイジェストで流れる。
「次に警戒すべき点です。まず、本日の皆さんの装備でこの『氷雪人兵の術』で生成された忍者サッカー選手は破壊できません。銃でダメージを与えられたとしても、空気中の水分を媒介に、すぐに再生するからです」
兵藤コーチの言葉に、雑賀ブラック・レイヴンズの面々は顔をしかめた。
銃で戦う。
これは、『雑賀ブラック・レイヴンズ』の基本戦術である。
これが通用しないとないという事は、チームのプレイスタイル的に勝てないという事であった。
「次は、山名 無二さんですね。これがリードされている現状、最も我々にとって致命的です」
兵藤コーチはそう言って、淡々とiPodを操作して別の動画をスクリーンに投影させた。
スクリーンには、無二が4体の氷の人形に追い回されているリプレイ動画が映し出されている。
これを見た『雑賀ブラック・レイヴンズ』の面々は項垂れた。
「山名さん。確認ですが、あなたは忍法を発動していましたね?」
「はい、勿論です」
「皆さん、聞いての通りです。前半で確認した通り、山名さんの『認識慮外の術』が通用しないという事が証明されました」
妖怪『豆狸』の力である忍法『認識慮外の術』。
前述の通り、この忍法を使えば警戒されればされる程、視界に入っても敵として認識されなくなるという忍法である。
マークされてもすり抜けてベストポジションからシュートを決める。
忍者サッカーのFWにとってベストマッチな忍法であった。
しかし、スクリーンに追い回されている無二のリプレイ動画を見る限り、この忍法は完全に破綻しているように見える。
「むぅ……」
GKの土橋が呻く。
現在、『雑賀ブラック・レイヴンズ』は『黒巾木スノウ・チルドレン』に33-4で負けている。
これをひっくり返すには、最低でも30点も後半45分の内に決めなければいけないのだ。
単純計算で1.5分に1本、ゴールを決めなくてはいけない。
21対11の人数にハンデがある中、これができるとはプロでも思えなかった。
「良いニュースは無いんスか、コーチ?」
DFの岡がうんざりした口調でそう言った。
「ありますよ?」
意外にもあっさりとした口調で兵藤コーチが口を開いた。
そして、無言でiPadを操作して別の画面に切り替える。
「忍法レーダースキャンの結果ですが、この忍法は氷遁系です。上手く行けば火遁系の忍法で対処できるかもしれません」
「火遁系、ねぇ」
チームの一同が、MFの津田に視線を向ける。
長身痩躯の蛇顔の男だ。
彼はチーム唯一の火遁忍法の使い手だった。
「『烈火飛翔弾の術』を使ったが、風穴空いてすぐに回復した。正直、俺の実力なら1体の動きを止めるのが精一杯だ。悪いが期待されても困る」
忍者は現実主義者である。
無理なものは無理。——ここははっきりさせる人間ばかりである。
「まぁ、火遁忍法の巻物を後半戦が終わるまでの間に2つはできるぜ? 今からやっても良いかい?」
巻物。
忍法が使えない忍者でも疑似的に忍法を使う事ができるようになる忍者アイテムである。
威力は何段階か落ちる。しかし、重要なのは忍法が『使えるようになる』という事なので、忍者サッカーにおいては多用されるアイテムの1つだ。
問題点があるとすれば、忍法を使える忍者にしか量産ができない、という事であった。
その為、流通するのはチーム内だけ、というのが昨今の情勢である。
無理なものは無理だが、代替え案を提案する。
忍者とはそういう人間ばかりである。
「頼む」
雑賀監督は躊躇なく津田に指示を出した。
「では、失礼します」
津田は落ち着いた声でそう返事をすると、ミーティングルームを退出した。
「あの、コーチ? 他に良い情報は無いスか?」
「あります」
兵藤コーチは落ち着いた口調でそう答え、iPadを操作する。
スクリーンには、『黒巾木スノウ・チルドレン』のキャプテンである安部 凍流の姿が映し出されている。
『不動のボランチ』の異名通り、センターサークルの中で印を結びながら、フィールドを観察している映像が流れていた。
女性のように玲瓏な顔立ちに、引き締まった男性の肉体という、どこかアンバランスな美しさをもつ外見から、女性サポーターが多いのも納得なルックスである。
「今回の敗因は安部選手のせいです。忍法レーダースキャンの結果、『氷雪人兵の術』を行使し、あの氷の人形を操作しているのは彼です。『不動のボランチ』よろしく、彼は攻めている最中も攻められている最中でもセンターサークルから動きません。——それで、狙撃できますか?」
兵藤コーチの提案は、暗殺であった。
「無理ね」
MFの鈴木 蛍がうんざりした表情でそう言った。
「10体の氷人形の動きは緩慢だけど、他の9人の忍者サッカー選手はどうなるの? 狙撃しようとしたら、すぐに察知されてお終いよ。むしろ、やれるなら前半戦に私が仕留めているわ」
狙撃を得意とする蛍の言葉に、チーム全員がうな垂れた。
解決策なし。
その時であった。
「あの、作戦があるんですけど、聞いてもらえます?」
FWの鈴木 大悟が、不敵な笑みを浮かべて挙手していた。




