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反撃開始

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 大悟が叫びながら、フィールドを駆け抜ける。

 何故なら、本当にギリギリだったからだ。

 眼前の氷の人形は細々とした体躯であるが、人型を形成しつつある。

 時速100㎞で加速しても、それでも突破できるのはギリギリになりそうだ。

「大悟っ、スライディングして!」

 隣から無二が叫ぶ。

 鼓膜がそのセリフを聞き届けた瞬間、大悟は考えるよりも先に身を屈め、時速100㎞でスライディングする。

 ズザザザザザザザァァァァァッッッ!!!!!

 フィールドを削りながら、2人の少年少女がフィールドを駆け抜ける。

 その瞬間、彼らの頭上を氷の拳が通過した。

 背筋が別の意味で凍るような思いをしながら、大悟と無二は氷の人形の股間を潜り抜ける。

 少年と少女の2人の視界には、驚愕の表情を浮かべる『黒巾木スノウ・チルドレン』の面々が居た。

 彼らは念入りに包囲したにも関わらず、大悟と無二が突破した事を驚いているようである。

 即ち、明確な隙であった。

 大悟はスライディングの姿勢のままカービン銃を抜き、無二も二丁拳銃を構える。

 2人はアイコンタクトも交わさずに、近くにいた同じ忍者サッカー選手に照準を向ける。

「喰らえっ!」

 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!

「グッバイ!」

 パパパパパパパパパパパパパパパパパァァァァァンンン!!!!!

 大悟と無二が、力強くそれぞれの銃の引き金を引いた。

 忍術で『強化』された銃弾が、瞬く間に近くにいた忍者サッカー選手をハチの巣にする。

「グワーッ!!」

サドンアタック(急襲)は忍者サッカーの基本。

 伝説の忍者サッカー選手、マスター=ハットリも、死んだ忍者サッカー選手にこう言うであろう。

『死んだ貴様が悪いのだ』——と。

 忍者サッカーは無情で残酷だ。

 だからこそ、忍者サッカー選手は誰よりもストイックであるし、勝つ為にはとことん冷酷になれる。

 そんな彼ら忍者のサッカーに、世界の人々はどこまでも熱狂した。

 大悟と無二はスライディングの姿勢から立ち上がり、眼前にいるMF集団に向かって全力疾走した。

「おのれ、『雑賀』ぁ!!」

 しかし、それでもJ1に君臨する忍者サッカー選手である。

 MFの忍者サッカー選手が手裏剣やクナイを超音速で投擲する。

 やはり無二にではなく大悟に攻撃が集中するのは、大悟がただの人間だからだろう。

「くっ……!」

 無二は静かに銃口を飛んでくる手裏剣やクナイを俯瞰した視界で照準し、引き金を引いた。

 パパパパパパパパパパパパパパパパパァァァァァンンン!!!!!

 無二の放った銃弾の数々は、全ての手裏剣やクナイを見事に撃ち抜いた。

「大悟、後はよろしくっ!」

「おうっ!」

 無二はそう言って大悟から離れ、右サイドからゴールを目指した。

 無二は薄情に大悟を見捨てたのではない。

 より確実に相手からサッカーボールを奪う為には、二手に分かれた方が賢明な判断だからだ。

 大悟が囮、無二がフォロー。

 大悟が死にかけたら、無二が死角からフォローする。

 互いが互いを庇い合い、ゴールを決める。

 小学校の頃から変わらない、2人の役割分担であった。

大悟はそのまま、投擲した忍者サッカー選手を照準する。

「喰らえええええぇぇぇっっっ!!!!!」

 大悟は叫びながら引き金を引く。

 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!

 爆音を立てて銃弾が駆ける。

「舐めるなぁっ!!」

 敵の忍者サッカー選手が、迫りくる銃弾を獣のような敏捷さで回避する。

「このっ!」

 大悟はそのまま、薙ぎ払うように敵の忍者サッカー選手に向けて銃口を動かす。

 だがっ、——

 ——カチっ、カチっ!!

 引き金が、乾いた音を無情に奏でる。

 大悟の構えるカービン銃は銃弾を吐き出さない。

「——ちっ、弾切れかっ!」

 大悟が苛立ちながら、そう吐き捨てる。

カービン銃から弾倉を引き抜き、交換しようとした瞬間、敵の忍者サッカー選手は好機と判断したのか、忍者刀を引き抜いて彼に肉薄する。

「死ねぇっ、雑賀あああぁぁぁっ!!」

 跳躍し、忍者サッカー選手が大悟の頭蓋骨を縦割りにしてやろうと忍者刀を振り下ろす。

 大悟、絶体絶命。

「ちっ」

 大悟は舌打ちすると、腰のホルダーに収まっていた煙玉を掴んだ。

「まずは1個っ!」

 大悟は叫び、腰のホルダーから煙玉を地面に投げ捨てる。

 ドロン!

 フィールドに白煙が立ち上り、大悟の姿が掻き消える。

「おのれぇっ」

 相手の忍者サッカー選手が悪態をつく。

 いかに人間離れした忍者であろうとも、白煙の中に隠れる相手の忍者サッカー選手を肉眼で捉えるのは不可能である。

 ズザザザザザザザァァァァァッッッ!!!!!

 大悟が高速のスライディングの姿勢のまま、白煙を突き破って現れる。

 大悟はその姿勢のまま、腰のホルダーから手榴弾を抜き、口で安全ピンを引き抜き、

「そらよっ」

 と大悟は白煙の中にそれを放り投げた。

 一拍の後、———

 パーーーーーン!!

 と小規模の閃光と爆発音が生じ、手榴弾の爆発が白煙を吹き飛ばす。

 フィールドには全身黒こげになってプスプスと煙が昇る忍者サッカー選手が転がっていた。

 これで、『黒巾木スノウ・チルドレン』の選手は、氷の人形も含めて18人だ。

 MFとFWを含めて3人の退場。

 人数で勝る『黒巾木スノウ・チルドレン』だが、忍者サッカーにおける前衛は壊滅状態だ。

 大悟はそのままカービン銃の弾倉を交換し、『黒巾木スノウ・チルドレン』のキャプテン安部の姿を探す。

「いたっ!」

 センターサークルの中央。

 不動のボランチよろしく、センターサークルの中央で印を結び、氷の人形の指揮を執っているようだ。

 安部の両目が、汚物を見るような眼で大悟を捉える。

 安部が、両手の印を解く。

 そして静かに、腰に佩いていた小太刀を抜き、逆手に構えた。

 身も凍る程の殺気と圧が、大悟の金髪をビリビリと揺らす。

「さぁ、前半戦のリベンジだ……」

 大悟は静かに呟き、激闘を予感させる空気の中、不敵に微笑んだ。


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